不動産開発企業の債務問題をきっかけに崩壊したとみられている「中国バブル」。これに伴い、消費者物価指数CPI)といった経済指標にも「マイナス情報」が現れている。一方で、中国政府はこの現状を「頑なに認めていない」と、現地に住む東洋証券上海駐在員事務所の奥山要一郎所長はいいます。現地駐在員だからこそ伝えられる「現地のリアルな実態」をみていきましょう。

中国経済に“暗雲”も、政府は一貫してポジティブ

「中国の物価が下落基調にある。でも決して“アレ”ではない」――。毎月のように繰り返される同じフレーズ。ここでいう“アレ”は「世の中のモノやサービスの価格(物価)が全体的に継続して下落すること」を指すが、政府はこの状態を認めていない。

よって、現地のエコノミストも明言を避けることが多い。マイナス情報の発信が自粛され、「正能量(ポジティブエネルギー)」全盛期の今日。決して重苦しくはないものの、微妙な空気が流れている。

2023年11月の中国の消費者物価指数CPI)は前年同月比で0.5%下落した。10月の同0.2%下落に続く2ヵ月連続でのマイナス。「食品」の同4.2%下落、「交通機器(自動車やバイクなど)」の同5.0%下落などが目立つ。前月まで4ヵ月連続で2桁上昇だった「旅行」は同6.8%上昇と落ち着いてきた。

CPI全体は1~11月累計で前年同期比0.3%上昇。今年の抑制目標の3%前後を大きく下回って着地しそうだ。

この数字を見てデフ……、もとい、“アレ”懸念も出ているが、食品とエネルギーを除くコア指数は0.6%上昇とプラス継続。家計の購買力という観点からは、まだ踏みとどまっている状態といえそうだ。

物価を左右しやすい「豚肉」が大幅に下落

その食品のなかでも豚肉価格が物価全体を左右しやすい。CPIの「P」は豚(Pig)を指すともいわれるゆえんだが、国家統計局によると11月の豚肉価格は前年同月比でなんと31.8%も下落し、CPI全体を約0.58pt押し下げたという。単純計算だが、豚肉がこれほど値下がりしなければCPIがプラスだった可能性もある。

直近の数字を羅列すると、7月の豚肉価格は同26.0%下落(CPIを約0.41pt押し下げ)、8月は同17.9%下落(約0.28pt押し下げ)、9月は同22.0%下落(約0.37pt押し下げ)、10月は同30.1%下落(約0.55pt押し下げ)といった具合。

今年前半は供給過剰状態から価格が大幅下落したが、政府が国家備蓄制度を通じた買い入れを実施して持ち直した。ただ、直近では再び下落傾向にある。冬場や春節(旧正月)に向けて需要が高まり価格が下げ止まればCPIの下押し圧力も弱まりそうだが、はたして。

もはや茶番?…中央銀行幹部「中国は“アレ”に陥っていない」

EV、菓子、牛乳、不動産…相次ぐ「価格下落圧力」

消費現場ではほかにも価格下落圧力を感じることが多い。BYD(01211/002594)などEV各社は販売積み上げを狙い相次いで値下げに動いており、スナック菓子大手の良品舗子(603719)は消費減退に伴い最大45%の値下げを決定した。

供給過剰から牛乳価格も低迷中で、白酒も在庫調整のため価格が一部下落している。不動産価格(70都市住宅価格指数)は新築・中古ともにマイナス成長が続く。

中国人民銀行(中央銀行)の幹部による今年7月の発言を借りると、「中国は“アレ”に陥っておらず、下半期に“アレ”リスクに直面することもない」という。安易に「アレレ……」と言うなかれ。もちろんいまでもこの公式見解は生きている(と思う)。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)