この記事をまとめると
■現在販売されるアルピーヌA110は、1960〜70年代の同名のスポーツカーのリバイバルだ
■ハイパワーなエンジンではないが、軽量コンパクトなボディのおかげで走りのキレがいい
■現在販売されているアルピーヌA110にも昔の良さが受け継がれている
アルピーヌ A110ってそもそもどんなクルマ?
日本での発売から5年が経過したいまでも、ミッドシップのライトウェイトスポーツの理想型として根強い人気を誇るアルピーヌA110が、1960〜70年代の同名のスポーツカーのリバイバルであることは、クルマ好きなら知っているだろう。
ここではクラシックA110と呼ぶことにする先代は、ルノーのリヤエンジン大衆車4CVをベースにして、1955年に生まれたアルピーヌA106、4CVの上級版ドーフィンを基本としたA108に続く第3世代で、ドーフィンに代わって登場したルノー8のメカニズムを用いて1962年にデビューした。
ボディは現行A110がモチーフにしたベルリネットのほか、カブリオレ、カブリオレ+ハードトップという形態のクーペスポール、2+2のGT4があった。
リヤにオーバーハングされたエンジンは、当初はルノー8と同じ956ccの直列4気筒OHVだった。
僕が取材で乗ったことがあるのはベルリネットだけなので、その経験から書かせてもらうと、まずスタイリングは現行型とそっくりだ。クラシックA110はリヤエンジンなのにフォルムは近いし、ディテールまで本当にこだわって描いてある。
でも、サイズはかなり違う。旧いクルマなので資料によって差はあるけれど、ここでは3850×1520×1130mmという数字を挙げておく。ホイールベースは2100mm。いずれも現行型を含めたいまのスポーツカーよりかなり小さい。
このうち、ホイールベースの数字はA106やルノー4CVと同じだ。ドーフィンやルノー8はキャビンを広くするためにホイールベースを伸ばしたのに、アルピーヌはA108の途中で専用設計の鋼管バックボーンフレームを導入してまで2100mmにこだわった。
なので、コクピットはとにかく低くて狭い。しかも前輪の間に足を入れるようなドライビングポジションなので、カラダをクルマにはめ込んでいくような感じ。ただし、シートに収まると、手足を前に伸ばしたスポーツカーらしい姿勢が楽に取れる。
その鋭い挙動は誰もが唸ること必至
リヤにオーバーハングされたエンジンが、ラリーでの勝利のために強化されていったことも特徴。ルノー8の高性能版ゴルディーニの1.1リッターや1.3リッター、さらには格上のルノー16の1.6リッターも積み、ワークスカーでは最終的に1.8リッターに到達した。
対するボディはコンパクトであるうえにFRP製だから、1.6リッターでも700kgぐらい。加速はエンジンによって違いはあるが、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間の車体の反応、いわゆるツキの良さが圧倒的だ。それでいてOHVなので低中回転でも使いやすい。
サスペンションはノーマルでは硬くはなく、フランス車らしいしっとり感が味わえる。でもそれが目的のクルマでないことは、ステアリングを切ればわかる。スパッと鋭いターンインと平行移動しているようなコーナリングは、ほとんどのクルマ好きが魅了されるはず。
ただし、右足のわずかな動きで挙動を変えようとするから、ペースを上げると気が抜けない。これはリヤサスペンションがキャンバー変化の大きなスウィングアクスルだったことも関係している。
アルピーヌもそれを感じていたのか、次世代モデルのA310のために開発し、ミッドシップのルノー5ターボにも使われたダブルウイッシュボーン式を組み込んだ仕様を、モデル末期に用意した。
いずれにしてもクラシックA110の走りには、ライトウエイト、ショートホイールベース、リヤエンジンという成り立ちが大きく関わっている。それを理由として、いまのA110は昔とは違うと指摘する人もいるだろう。
しかし、僕が知っているクラシックA110のオーナーの多くが、いまのA110を買っていることも事実。表面的なスペックには現れない、哲学や精神のような部分は同じだと感じているのだろう。
昔は良かったとノスタルジーに浸るのもいいけれど、その世界観を忠実に再現したのがいまのA110であることも知っておいてほしい。
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