FENNEL(フェンネル)は、プロeスポーツチーム運営事業、大会運営事業、アパレル事業、自社の音楽スタジオ運営などを一手に担う、日本発のeスポーツ企業だ。
参考:【写真】カルチャーシーンとも密接に関わるFENNEL・高島稜氏の別カット
複数のゲームタイトルにおいてプロチームを保有し、選手、コーチングスタッフ、ストリーマーが多数在籍するほか、2022年9月にはヒップホップアーティストのOZworld(オズワルド)が加入するなど、eスポーツチームの既成概念を打ち壊すような取り組みを続けてきた。
eスポーツ、ファッション、音楽。それぞれの領域からeスポーツシーンにアプローチする意図や、eスポーツ×音楽が秘める可能性とは。FENNEL取締役の高島稜氏に話を伺うと、“カルチャーシーンで挑戦する人を応援し、日常に寄り添うブランドを目指す”という決意と熱意が見えてきた。
■「表現に前向きな人」であふれる未来に向かって
――FENNELはeスポーツを軸としながら、音楽やファッションの領域にも積極的に関わっています。高島さんは、これらにどのような共通点があると感じていますか。
高島稜(以下、高島):まず、そこに携わる“人”に焦点を当てるとすれば、“自信を持っている者が強い”ということですね。自分の中にブレない芯を持っていることが、プレイの質であったり、音楽の表現であったり、アーティスト性であったりに表れて、価値になる。これはeスポーツ選手、音楽アーティスト、デザイナーなど、すべてに共通することだと思います。
また、プロゲーマーという存在の成り立ちを考えると、そこにはジャイアント・キリング性があると感じていて。20年前なら、言ってしまえば“ただのゲームが上手い人”でしかなかったはずのゲーマーが、いまやプロ選手としてファンを熱狂させているじゃないですか。
これは音楽シーンにおいても言えることで。ヒップホップもロックも、“持たざる者”からスタートした人がスターダムを駆け上がって、ドームやアリーナに立つなんてことがありますから。そういった成り立ち、精神性といった部分では近しいものがあると考えています。
――FENNELはプロeスポーツチームの運営と並行して、音楽スタジオ「FENNEL STUDIO」の設立やアパレル事業の展開を行っていますが、そこにはどのような狙いがあるのでしょうか。
高島:僕たちFENNELの最大の使命は「表現に前向きな人を増やしていくこと」だと考えています。クリエイティブな人間、クリエイティブに挑戦する人間を、世の中にもっともっと増やしていきたい。こうした思いが、僕らの根幹にはあります。
eスポーツにおいても、音楽においても、ファッションにおいても、自分が「ここだ!」と思えるシーンの中で前向きに挑戦している人、こだわりを持って自己表現している人を見ると、すごく素敵だなと思うんですね。人生が豊かになる生き方だなと。
ただ、「自分もそんな風に前向きに挑戦してみたい!」と思えるようなきっかけって、どこにでも転がっているようなものではない。たとえば、アパレルならたまたま大学時代の先輩がめちゃくちゃ古着好きだったとか、ゲームならバイト仲間にゲームが上手い人がいて、その人が全部教えてくれたとか。
本当に偶然のきっかけで自信を手にすることはあっても、そういったきっかけが偶発的にしか存在していないことって、すごくもったいないなというか。できる限り多くの人に、平等に訪れてほしい機会だなと思ったんです。
――eスポーツも音楽もファッションも自己表現の手段と捉えていて、FENNEL自体が、そうした自己表現に前向きな人が増えていくきっかけになりたいと。
高島:はい。一方で、僕たちはeスポーツシーンがもっと盛り上がればいいな、この魅力がより多くの人に伝わったらいいなとの思いで「eスポーツに熱狂を。」をミッションとして掲げているわけですが……。
たとえば試合観戦を一度もしたことのない人に対して「eスポーツおもしろいから、見てみてよ!」と言うだけでは、それは自分たちが好きなものを押し付けているに過ぎないじゃないですか。
これを踏まえて「では、eスポーツをどう広げていくのか?」と考えたら、eスポーツをある種の手段として、「eスポーツでどう世の中をより良いものにできるかを考えること」が鍵になるのではないか――eスポーツで世の中がより良くなることで、回り回ってeスポーツが広がっていくのではないか、と思ったんですね。
eスポーツは若者から強い支持を集めているコミュニティでもあります。まずはeスポーツを最初の入り口として、FENNELの作った音楽やアパレルにも触れてもらい、僕らの思いに共感してもらえる人が増えていけば、ゆくゆくは表現に前向きな人も増えていくはずだと考えているんです。
――「表現に前向きな人を増やす」という大きなテーマを見据えたうえでの展開だったわけですね。これまでの手応えについてはいかがでしょう。
高島:僕らに限らず、vaultroomさんや、ZETA DIVISIONさんに対する注目度も含めてのお話にはなりますが、国内のeスポーツ業界全体としてのファッションに対する興味・関心度は年々上がってきているなと感じます。
音楽分野に関しては、2023年12月に両国国技館で開催された『Red Bull Home Ground(※1)』にて、弊チームに所属するOZworldのスペシャルライブを披露させていただきました。まだFENNELとして単独のライブイベントやフェスができるような段階ではないなかで、大きな第一歩になったなと。
※1 Red Bullが主催する、FPSゲーム『VALORANT』の完全招待制トーナメントイベント。
また、「FENNEL STUDIO」についても、MAHさんとサウンドエンジニアの原浩一さん監修のもと、国内最高峰の機材を備えた音楽スタジオを完成させることができました。音楽業界やファッション業界にいるゲーム好きが、ゲームをハブとして集まって、同じ話題で盛り上がれる。そうやってFENNELの周囲にアーティストが集うという状況が、徐々にできてきていると感じます。
――「Red Bull Home Ground」でのOZworldさんのスペシャルライブについて、率直な感想をお聞かせください。
高島:手前味噌ですが、めちゃくちゃ良いライブになったと思います(笑)。会場の演出も、オズくん(OZworld)のパフォーマンスも素晴らしかったし。本人としても、「両国国技館のような360°が観客席のステージでライブをするような機会はすごく貴重だった」と話していました。
彼自身もeスポーツシーンが大好きですし、そうした認知が広がっていくためのひとつの機会に、もっと言えば新たなファンを獲得できるような機会になったとすれば、すごくうれしいなと。
僕も会場でライブを観ていたんですが……ヒップホップアーティストとしてのオズくんにとっては、言わばアウェイであるeスポーツイベントの舞台でありながら、だんだんと会場の雰囲気を味方につけて、最後には完全に自分の世界に引きずり込んでしまうようなパフォーマンスは圧巻でしたね。あらためて、彼のスゴさを目の当たりにしました。
■“eスポーツ×ヒップホップ”の融合がもたらした、チームの結束力
――2023年1月に開催された「FENNEL Party」では、アーティスト、ストリーマー、インフルエンサーなど総勢250名を集めたことでも話題となりました。こちらを開催した経緯などを教えてください。
高島:「FENNEL Party」は、完全招待制のクローズドイベントとして、MIYASHITA PARK OR TOKYOにて開催させていただきました。
eスポーツ各部門の選手たちからすると、オズくんと交流する機会であったり、音楽ライブを観る機会だったりが、普段はなかなかありませんので。FENNELとしてeスポーツ部門を中心に置きつつ、例えば“eスポーツ×HIP HOP”という領域でFENNELが何をやっていきたいのかなどを、チーム内外に伝えることができるまたとない機会になったと思います。
「同じチームに所属しているけれど、実際に会ったことはない」だと、どうしてもお互いにイメージが湧きづらく、それぞれの思い描くビジョンが違ってきてしまったりもすると思います。FENNELとして、こんな雰囲気、空気感、世界観を作っていきたいだよと伝えられる機会として、「FENNEL Party」は今後もアップデートしつつ継続して開催していきたいですね。
――「FENNEL Party」に参加した選手たちには、どのような変化がありましたか。
高島:「FENNEL Party」もひとつのきっかけになって、いまでは練習前や試合前にオズくんの曲を聞くことがルーティーンになったと話す選手も出てきていますし、“同じチーム名を背負って戦っている仲間”としての一体感が生まれてきているなと感じます。
自分たちが自分たちのシーンで戦っている一方で、別のシーンで自分たちと同じように戦っている仲間がいる。彼らもまた、プレッシャーのかかる場面でも自分の信念を貫いて自己表現をしている、チャレンジしている。そうしたことが、想像ではなく実感としてイメージできるようになることは、チームにとって大きな価値があると思います。
やはり選手たちにとって、メンタルは重要なものです。毎日のように練習に励み、自分の調子の浮き沈みと戦いつつ、それらを毎シーズン継続しながらも、自分の中にもともとあった夢やゴールなどをつねに忘れずに、妥協なく生活していくことが求められるわけですから。
そうした生活のなかで、ともに戦う仲間の存在は大きいと思いますし、僕自身もFENNELを経営していて彼らの存在に勇気をもらっています。eスポーツ各部門の選手たちはもちろん、オズくんにも、FENNELというブランドを背負ってもらえたことには感謝しています。
――リアルスポーツのプロシーンにとって、音楽は切っても切れない密接な関係性にあると感じますが、FENNELにおいて「eスポーツ×音楽」の融合を推し進めていきたいといったお考えはありますか。
高島:僕としては、スポーツに対する音楽のポジションのように「eスポーツシーンをFENNELがつくる音楽で席巻したい」といった考え方は持っていないですね。どちらかというと、FENNELのことを知ってもらう・好きになってもらうための切り口のひとつとして、音楽があるようなニュアンスでしょうか。
たとえばeスポーツが好きで、選手の個人配信や大会を熱心に見てくださっていて、それが元気の源になるから、今日の学校を頑張れる、明日の仕事が頑張れるという方が、いまの世の中にはたくさんいらっしゃいますよね。
根本的にはそれと同じような形なんです。FENNELというチームが好きで、同じブランドから通勤中に聞きたくなるような音楽が出ているとか、ちょっと今日は気合を入れたいなという場面に着ていきたくなる服が出ているとか。そうやって、日々の生活のなかにFENNELを取り入れてもらえるようになれたらいいなと思っています。
FENNELがあることで、日々の生活を前向きに送れたり、ここぞという場面で一歩踏ん張れたり、勇気を出して何かに挑戦できたり。そんな風に、ファンの皆さんの日常に寄り添う存在になりたいんです。
――「eスポーツにFENNELがつくる音楽を」ではなく、「みなさんの日常にFENNELを」が理想としてあるわけですね。
高島:そうですね。もっとも、NFLやNBAのハーフタイムショーとして音楽ライブが親しまれるように、eスポーツイベントでも、いまや音楽は必要不可欠なものになりつつあることは言うまでもありません。僕自身、『リーグ・オブ・レジェンド』の『Worlds』(※2)を、オープニングアクトのライブ目当てで視聴する、なんてこともありますし。
eスポーツがより多くの人々から広く愛されるようになるためには、会場を彩る音楽や演出といった部分をさらに強化して、総合エンターテインメントとしてのクオリティを上げていくことが重要になると思っています。
※2 “リーグ・オブ・レジェンド ワールドチャンピオンシップ”の通称。その年の最強チームの座を争う世界大会。
――今後、“eスポーツ×音楽”の関係性はどのように変化、あるいは進化していくと思いますか。
高島:eスポーツがエンターテインメントしてのレベルを上げていくために、いま以上に音楽への投資額を増やすこともあるでしょうし、その逆もしかりです。eスポーツ市場が大きくなるに連れて、eスポーツを通してアーティストや楽曲のマーケティングをしたいとの動きも増えると思います。
ただ僕としては、“eスポーツ×音楽”と直接的にかけ合わせる取り組みは、今後ある程度は増えていったとしても、例えば“eスポーツ×音楽”事業を専門にやる企業が現れたりするかといえば、そうでもないと予想していて。
なぜかというと、僕ら自身も「eスポーツと音楽が相性がいいから」を理由に、音楽をチョイスしているわけではないからです。FENNELはカルチャーブランドカンパニーになることを見据えているから音楽をチョイスしているのであって、すべてのeスポーツチームの勝ち筋が音楽と組むことであるとは思っていません。
■“カルチャー×ビジネス”のハブ役となり、挑戦できる土壌を育む
――eスポーツ、音楽、ファッション、それぞれのシーンから見たFENNELという観点でいうと、どのような存在になりたいと思いますか。
高島:難しい質問ですね(笑)。ひとまず現状の立ち位置からお話すると、いまのところはどのシーンからも共通して「やりたいことはわかるよ」というような形で受け止めてもらえていると思います。考えていることや、やりたい方向性はなんとなくわかる、おもしろい会社だなと思ってもらえているのかなと。
プロeスポーツチームという要素を持ちながら、音楽やファッションに対しても、単なるコラボレーションではなく大きな事業のひとつとして取り組んでいる点は、業界関係者の方から驚かれることが多いです。ただ、「やりたいことはわかるけど、それらをすべて実現するにはまだ力不足だよね」とのお言葉をいただくことも多く、そこについてはおっしゃる通りだと感じています。
そのうえで、あえて理想を語らせていただくとすれば、“カルチャーとビジネスをうまく結びつけてくれる会社”だと認知してもらえるようになりたいです。
ファッションのシーンというと少々定義が難しいのですが、eスポーツシーン、音楽シーン、アート、クリエイティブなどを“カルチャー”とくくったときに、どうしてもカルチャーの発展には「お金にならないから」「お金がないから」が障壁として立ちはだかるケースが多い。各シーンの関係者やステークホルダーの方々とお話するたびに、そう思わされます。
いま、僕らはダンスの領域にも注目しているんですが、プロダンサーの友人に聞くと、ダンサー業界も稼ぎ口や活躍の場がなかなか見つけづらいらしく。アートやクリエイティブには、どうしても定量的な価値が表されづらいというか、“人を笑顔にしたこと1回につき何円”という世界ではないじゃないですか。しかたなく、チケット単価や集客人数などを指標にするしかないけれど……。
――そこには初期投資の難しさや、会場を借りるうえでのハードルの高さなどもつきまといますよね。
高島:はい。アーティストも、イベンターも、デザイナーも、「お金があるならチャレンジしたいけれど、チャレンジするためのお金が稼げない」という悩みを抱えているケースが非常に多い。だからこそ、そこに僕たちのような会社が入って、ビジネス的な観点からお金の流動性をうまく作ることによって、挑戦したい人が挑戦しやすい土壌を作っていければなと。
そうした挑戦の末に活躍できるプレイヤーが増えていけば万々歳ですし、仮にその挑戦が失敗に終わったとしても、失敗体験のサイクルが早まることによって代謝が生まれて、人が育つ機会も増えていくと思います。
才能がある人、挑戦心がある人にはチャンスが与えられてしかるべきです。若いうちは生活費を稼ぐことに必死で、30~40代になってようやく安定し始めてから本当に自分がやりたかったことに着手できる、ではもったいないと思うんです。若い人間には若い人間なりの感性があるし、若いからこそできることもあります。
そういった意味で、ビジネスサイドから成り立った会社でありながら、カルチャーシーンに対しても熱い思いを持っている僕らFENNELは、“カルチャーとビジネスをうまく結びつけてくれる会社”になってくれるのではないかと期待していただけていると思いますし、僕らもそうした期待に応えていきたいです。
――eスポーツ、音楽、ファッションと、さまざまな分野への展開で注目を集めるFENNELですが、今後はどのようなことに挑戦していきたいと考えていますか。
高島:将来的には、やはりeスポーツと音楽の両面で魅せるライブイベントやフェスを開催したいですし、カルチャーの土壌となるような飲食店の出店、FENNELとしてのシーズンごとのテーマソングあるいはアンセムの制作など、アイデアはたくさんあります。
今後もeスポーツをはじめ、いろいろな角度からFENNELを知ってもらう・好きになってもらうきっかけをご用意して、ファンの皆さんに勇気や活力をお届けしていきたいと思っていますので、ぜひご注目ください!
(取材=片村光博/構成=山本雄太郎/写真=池村隆司)
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