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 2021年12月25日のクリスマスの日、NASAジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が打ち上げられた。

 その翌年から、圧倒的な宇宙の姿の撮影を継続中のJWSTは、この2023年も私たちの度肝を抜く神秘の画像をとらえてくれた。

 存在するはずのない宇宙初期の銀河や最古のブラックホールから、地球外生命が存在するかもしれない惑星や、宇宙の標準モデルをくつがえす測定結果まで、ここではJWSTが2023年に目撃した大発見を紹介しよう。

【画像】 1. 宇宙の黎明期には存在するはずがない6つの銀河を発見

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ビッグバンから5億~8億年後に誕生した6つの銀河/Image credit: NASA, ESA, CSA, LABBE (Swinburne University of Technology) : G. Brammer (Niels Bohr Institute’s Cosmic Dawn Center, University of Copenhagen)

 今年JWSTが発見した宇宙の神秘の1つは、ビッグバンからわずか5億年後の宇宙黎明期に誕生した6つの巨大な銀河だ。

 それらが含む星の数は、天の川銀河に匹敵する。これまでの宇宙の常識的には、はじまったばかりの宇宙にたくさんの星を持つ銀河などあるはずがない。

 だが、現実にそうした銀河が発見されてしまった。ゆえに、これまでの銀河や宇宙についての理解はどこか間違っているのではと考える学者もいる。

 宇宙の常識をくつがえすこれらの銀河はどのようにして誕生したのか?

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 シミュレーションの結果からは、じつは当初考えられていたほど星が多いわけではなく、ただ異常に明るいだけである可能性も浮上している。

 現時点で答えはまだ出ていないが、今後も注目すべき大きな宇宙のミステリーであることは間違いない。

2. 宇宙論の標準モデルは本当に正しい?

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ビッグバンからわずか4億年後に形成された銀河「MACS0647-JD」/Image credit: NASA, ESA, CSA, & STScI, APagan (STScI)

 ビッグバンで誕生したこの宇宙は膨張している。だが、どうも場所によって膨張のスピードは違うらしい。

 これまでの宇宙の膨張速度の計測でもっとも正確とされるのは、欧州宇宙機関ESAの「プランク衛星」と、アメリカ航空宇宙局NASA」とESAが共同で運用する「ハッブル宇宙望遠鏡」によるものだ。

 そして前者はメガパーセクあたり毎秒67km、後者はメガパーセクあたり毎秒73kmという測定結果を残した。このように宇宙の膨張速度が一致しない天文学上の問題を「ハッブル・テンション」という。

 その原因は、ハッブル宇宙望遠鏡がケフェイド変光星(その明るさを基準にして、距離を測定するために利用される)と背景の星を区別できなかったことが原因ではないかと考えられていた。

[もっと知りたい!→]消えゆく土星の環。その寿命の解明にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が挑む

 だが、JWSTによる測定結果はメガパーセクあたり毎秒74km。やはりハッブル宇宙望遠鏡は間違っておらず、天文学者の淡い期待は打ち砕かれてしまった。

 それ以来、天文学は、新しい物理学が発見されたり、下手をすれば宇宙の標準モデルすらくつがえされかねない動乱時代に突入している。

3. 宇宙最古のブラックホールを2つ発見

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ブラックホールの降着円盤のイメージ図 / photo by iStock

 宇宙初期の不可思議な発見は、銀河だけではない。

 今年4月、JWSTは太陽の1000万倍の質量を持つ巨大なブラックホール「CEERS 1019」を発見した。驚いたことに、それが誕生したのはビッグバンからたった5億7000万年後のことなのだ。

 だが、12月にはさらに驚くべき発表があった。「GN-z11」という若い銀河の中心に、宇宙が始まってから4億4000万年後に誕生した、さらに古い超大質量銀河が発見されたのだ。

 これまで発見されたものとしては宇宙最古のブラックホールは、宇宙初期にどうやってそこまで大きく成長することができたのか?

 仮説としては、巨大なガス雲が急速に崩壊したのではとの推測があるが、ほかにも宇宙誕生直後に作られた原始ブラックホールの種がまかれたという説もある。

4. 宇宙をただよう謎のペア

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オリオン大星雲 / photo by iStock

 まったく新しい、説明のつかない天体も見つかっている。オリオン大星雲で訓練したJWSTが発見したのは、42組の木星質量連星「JuMBO(Jupiter-mass binary object)」だ。

 それは読んで字のごとく、木星くらいの質量を持つ星のペアだ。恒星というには小さすぎるが、なぜだか2つ1組で存在しているため、どこかの恒星系から追い出された浮遊惑星とも考えにくい。

 その存在は、惑星や失敗した星の出来損ないのまったく新しい形成メカニズムを示している可能性もある。

5. 遠い水の惑星に地球外生命はいるか?

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地球から約120光年先にある、海があるかもしれない太陽系外惑星「K2-18b」のイメージ図/Image credit: ESA/Hubble, M. Kornmesser

 JWSTは、遠方の太陽系外惑星の大気スペクトルを測定することができる。その力で見出されたのが、120光年先にある生命が居住可能な領域にある水の世界だ。しかも、そこで生命のサインらしきものまで見つかった。

 太陽系外惑星K2-18b」は、赤色矮星のハビタブルゾーンを公転するミニ・ネプチューン(地球と海王星の中間の質量をもつ惑星)だ。

 大気のスペクトル分析からは、水素・メタン二酸化炭素が豊富にあることが判明した。これらはハイセアン惑星(水素が豊富な大気と水の海があり、生命が宿る可能性のある惑星)の特徴だ。

 だがより注目すべきは、硫化ジメチルが検出されたことだ。これは海の磯のニオイの素になる化合物で、地球では海のプランクトンによって作られる生命のサインかもしれないものだ。

6. 一番最初のコズミックウェブ(宇宙の網)を発見

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宇宙の網目「コズミックウェブ」のモデル。ガスの巻きひげが密集するには、明るい銀河も集まっている/Image credit: Volker Springel (Max Planck Institute for Astrophysics) et al.

 星や銀河は宇宙全体に均等に散らばっているわけではなく、巨視的には、まるで網目のような構造「コズミックウェブ」を作り出している。

 この網目構造は、そもそも宇宙が存在するにいたらしめた、カオスな粒子の相互作用を垣間見せてくれる。

 今年JWSTが見つけ出したのは、そうした網のごく最初期の1本。それは長さ300万光年以上に及ぶ、10個の銀河がぎゅっと密集したガス状の”巻きひげ”だ。

 巻きひげができたのは、宇宙誕生からほんの8億3000万年後のことで、その一部はブラックホールに巻き付いている。それは最初の銀河が形成されたプロセスを解き明かすヒントでもある。

7. 目玉のようなアインシュタイン・リング

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遠方にあるコンパクトな銀河の周囲に作られたアインシュタイン・リング。これまでに発見された重力レンズとしては、もっとも遠いところにある/Image credit: Credit: P. van Dokkum et al., Nature Astronomy accepted, 2023

 アインシュタイン・リングとは、重力レンズによって、遠くにある天体が輪っかのように像を結んだものだ。2023年、JWSTが発見したアインシュタイン・リングは、これまでもっとも遠くにあるものだ。

 その遠さは普通ではない。なんと210億光年も先にある。宇宙の年齢は138億年だ。つまり、このリングの光は宇宙の膨張によってその距離の2倍近くも移動したことになる。

 それはただ美しい絵になるだけでなく、宇宙の物質の70%を占めるとされる観測不能の物質「ダークマター」の不可解さを解明するヒントになるかもしれない。

8. 太陽に定められた運命

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ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した環状星雲「M57」/Image credit: NASA/ESA/CSA/Institute for Earth and Space Exploration/JWST Ring Nebula Imaging Project

 これまで宇宙の始まりについて触れてきたが、では私たちは最後にどうやって終わるのだろうか? JWSTは今年、それを目撃した。

 2200光年の彼方にあるドーナツ型の環状星雲「M57」は、爆発した星の死骸であり、その中心には星のコアの成れの果てである「白色矮星」がある。

 寿命が尽きたこの星は、爆発してその内部を遠くにまで吹き飛ばした。そして形成されたのが、巨大な目のような構造だ。

 また、この爆発は、その周囲にあったかもしれない惑星をも破壊したか、遠くへと放り出したことだろう。

 今から50億年後、私たちが暮らす太陽系もまた同じような運命をたどることになる。

References:8 stunning James Webb Space Telescope discoveries made in 2023 | Live Science / written by hiroching / edited by / parumo

 
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2023年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が発見した宇宙の神秘8選