第一線級クリエイターが初めての自作PCに挑戦!

 PC(パソコン)と言われて、何を想像するだろうか? ノートパソコンデスクトップ、巨大なサーバー、あるいはハンドヘルド型の小型PCを想像する人もいるかもしれない。現代において、PCの形態はとても多様化している。

 このうち、コンシューマー目線で考えると手頃なのはノートPCだろう。今や美麗なグラフィックを映し出すゲーミングノートPCや、映像編集やグラフィックデザインを想定したクリエイター向けノートなど、ノートPCの性能の進化は目覚ましいものがある。

 しかし、単純な性能差で比較するならやはりデスクトップに軍配が上がる。デスクトップノートPCよりも設置スペースが求められるが、より高性能なパーツを使ったり、高い冷却機能を備えることができる。自分でパーツを選んだり、すでに組み上がっているPCのパーツを入れ替えてスペックを強化するといったカスタム性も魅力だ。

 いちからパーツを選んで自分だけのPCを作ることを自作PCと呼ぶが、今回はそんな自作PCに初めて挑むクリエイターのドキュメンタリーをお伝えしたい。

 そのクリエイターの名は田中紫紋(たなかしもん)。現在、世界的な人気を誇る『BABYMETAL』のライブ内映像やCD・DVDのジャケット・デザインなど、同ユニットのアートワーク全般を担当している彼は、武蔵野美術大学で視覚映像学を学び、卒業後は『報道ステーション』のオープニング映像(2004〜2012年)や、サノヤス造船株式会社のTVCMなど、国内外にまたがる活躍をみせている。まさに第一線級のクリエイターである。

 映像制作には高性能なPCが欠かせないため、田中さんはデスクトップPCを使っているという。今のPCは約3〜4年前に購入したBTO(パーツ構成をユーザーが選んで注文できるPC)モデルだが、以前から自作PCを作ってみたい気持ちはあったという。

 そこで今回、田中さんに初めての自作PCづくりに挑戦してもらうこととなった。詳しい組み立ての様子は第2弾の記事で紹介するとして、そもそもどうして田中さんは自作PCに興味をもったのか。リアルサウンドテック編集部では特別に田中さんの仕事部屋にお邪魔してみた

今のPCではできないことが増えてきた

ーー田中さんが今使っているデスクトップPCは、約3〜4年前のモデルと伺いました。現在の制作において「ここが困っている」といった具体的な悩みなどはありますか?

田中さん:今のPCはメモリが64GBを積んでるんですけど、当時からするとまぁまぁハイエンドだったと思うんですよ。でも、最近はかなりキツくなっている。

ーー最近のメモリ容量だと128GBからがハイエンドといった印象はありますね。

田中さん:僕はAfterEffects(デジタル合成やエフェクトを制作するモーショングラフィックスソフト)をメインに使ってるんですが、キャッシュに多くのメモリを使うのでメモリ容量は厳しいですね。同時にPhotoshopIllustrator、ときにはPremiere Pro、Blender、などのソフトやもちろんブラウザーも同時に立ち上げているので。

ーーメモリは常に足りてない状態と。

田中さん:ですね。なので、他のソフトをいったん落としてメモリを確保するときもありますし、本気でAfterEffectsを使うときは他のソフトは全部落します。でないとソフトの挙動が遅くなったり、操作性が悪くなってしまうので。現代はPCのスペックが高くなり普通にPCを使っているとこのような作業をする事はあまりないと思うのですが、昔はよくやったという人も居ると思います。最近だと、一昔前のスマホの感覚です。また、最近はGPUに依存する作業も増えてきて、AfterEffectsでVRAMが足りないことが最近よくあって、作業が進まない事が増えてきてしまっていたのです。

ーー取り扱うデータサイズは、時代が進むにつれて大きくなりますからね。HDがフルHDに、フルHDが4Kにといった具合に。

田中さん:僕はAfterEffects静止画も作るんですが、大きさ8,000×8,000pxくらいの。

ーーそれは大きすぎませんか!?

田中さん:大きいです、だからVRAMもメモリも足りないんです(笑)。Photoshopでベースを作って、AfterEffects側でエフェクトをかけて、それをまたPhotoshopに戻して調整して、Illustratorなどで入稿データを作るといったフローになることが多くて。

ーー制作の中心はAfterEffectsなんですね。そうなるとVRAM容量はもっとも重要なスペックになってきそうです。

田中さん:交通広告のようなグラフィックは大きさが1メートルを超えたりするので、高い解像度も必要になってくる。正直、アップスケール機能を使えばAI処理で元データを引き伸ばすこともできるんですけど、そこをAIに任せると、ぬるっとした絵になっちゃうんですよね。

ーーなんだかわかります。人の肌とかは不自然なまでにきれいにしてくるときがありますね。

田中さん:そうなると、せっかく調整したフィルムグレイン(フィルムの粒子を再現するエフェクト)の粒状感やアナログの精細感が失われることが多くて。なので、できるだけ原寸の状態で作業したい。高い解像度で作業できるようにしたいのが実情ですね。ちょうど先日も8,000pxのデータをAfterEffectsでいじってたんですけど、エフェクトをかけていくうちにどんどんサイズも大きくなって、マウスカーソルもカクカクになり、他のソフトも動かせなくなり、もうこのPCじゃ無理だなと…。それでPCも一新したいと思った時に、ASUSさんとの企画が来て、ヨッシャーみたいな(笑)。

ガジェット大好き、自作PCにも興味津々

ーーそんな田中さんはガジェットもお好きですよね。自作PCへの興味もそこから来たのでしょうか?

田中さん:ガジェットは大好きですね! 昔から箱やケーブル類まで保管してますし、面白そうなものはつい買っちゃいます。あと、物持ちもすごく良い方で、子供の頃に作ったミニ四駆が手元にある位で。

ーーアバンテJr.じゃないですか! しかもシャーシが肉抜きされてある……。

田中さん:実際に作って走らせて、更にカスタムして。このアバンテは好きなパーツを色々なところから持ってきて合体させた集大成のアバンテです。多分速くないです(笑)。あと、ガジェット系ならこんなキーボードも買いましたよ。

ーーこれはKickstarterで見たことがあります。確かレトロなデザインのワイヤレスキーボードでしたっけ?

田中さん:そうですね。意外にも軸がしっかりしていて本格的に使えるんですけど、やっぱりデザインが最高ですよ。僕はシンプルなものより賑やかなものが好きで、ステッカーも大好きですね。僕は今もノートPCなどにめっちゃステッカー貼ってますし。

ーーでは自作PCもかなりガジェット的な性格があると思うのですが、やはりその面で興味があったのでしょうか?

田中さん:それはありますね。ただ、やはり「自作」という言葉のハードルが高くて今まで興味はあったけど、手が出せなかった感じです。何かこう、端子むき出しの複雑な何かをすべて理解した上で作るものだと思っていました。しかし、調べるとまったくそんな事がなくて、これは自分でもできる!と思っていたんです。それで調べてみると、最近のPCパーツって見た目がすごくカッコいいじゃないですか。マザーボードやクーラーなんてケースに収まると基本的には見えなくなってしまうのに、それでもデザイン性も抜群なんてすごくテンションが上がると思うんですよ。それでいて性能も高いですし、なんかロマンや美学がありますよね!

ーー実用的でありつつ、デザインとしても魅力がある。まさしくガジェットの美学ですね。

田中さん:スペックが良いPCが欲しい気持ちもずっとありましたし、自分でパーツを選んで自分だけのPCを作るということにすごく興味がありました。今回初めて、ASUSのパーツで自作PCに挑戦しますが、作る工程そのものもすごく楽しみにしています!

果たして、人生初の自作PCは組み立てられるのか!?

 ライブ会場で投影する巨大な映像や、展示用ディスプレイのLEDなど、映像機器は年々、高解像度化している。そして、ディスプレイに表示するための映像を作るクリエイターにも高い解像度が求められるのも自然な流れだ。まさしく、現実的な業務の課題としても高いスペックのPCが求められているといえるだろう。

 次回は、いよいよ田中さん自身がPCを組み立てに挑むリアル・ドキュメンタリーをお届けする。お楽しみに!

■参考情報

https://rog.asus.com/jp/
https://www.asus.com/jp/proart/

クリエイター田中紫紋が挑む、ASUSで初めての自作PCづくり