「毒親」今でこそ聞きなじみのある言葉となったが、暴力や経済的理由で子どもを束縛するだけではない。自分の考えを子どもに押し付け、思うようにコントロールする親は、支配型の毒親といわれる。そこには「あなたのためを思って」という言葉が付きまとい、あなたに似合うと選んだ服、習いごと、進学先、就職先――挙句に容姿や付き合う人まで干渉してくる。「うちは何かがおかしい」友達の親子関係と違うと気づいたとき初めて違和感を覚えた、グラハム子さんの自伝「母の支配から自由になりたい」出版にあたりインタビューを実施。本作を書き上げるまでの思いを聞いた。

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■日常生活のここそこで「自分の意見は、すべて母親の言うとおり」に曲げられてしまう

グラハム子さんの父親は、単身赴任でほとんど家にいなかった。母親も相談できる相手がいなかったのだろう。例えば、ピンクの洋服が着たくても「あなたには似合わない」、バレエを習いたくても「あなたには剣道がいいわよ」と言う。好きなことをすれば「もっと意味のあることをしなさい」と言われ、母の意に沿った結果を出すと褒められて育った。「母親は自分のために言ってくれているんだ」と、思いを汲んで言うことを聞く。

進学先は自分の希望する共学校ではなく、お嬢様校へ。公務員がいいと教員免許を取得し、教師になった。こうして、ことあるごとに自分の「やりたいこと」を否定されて生きてきたグラハム子さん。なかでも強烈なエピソードは、中学を卒業するころ「あなたは一重でかわいそうだから整形しなさい」と、二重整形をさせられたこと。容姿に口を出し「もう少し痩せた方がいい」と指摘。その後、グラハム子さんは食べたあとに吐いてしまう「摂食障害」になった。

友達の親子関係と違うと気づいたのは、進路を決めたとき。芸能の道に進みたいと言った友達の夢を親が許してくれた。「うちの母親なら絶対に許してくれない」が「もしかして、うちがおかしいのかも…」と、気付きのきっかけとなった。

■「自分のことを思って言ってくれている」母親に対し、「言えない」「言っても意味がない」ことに気づく

今回、摂食障害や自分の意思で決められない心理を乗り越えるまでに至ったプロセスを描いた自伝本を発売。本作の見どころや制作秘話について話を聞く。

――今回の自伝本は漫画だけでなく、文章を含めた形で構成されていますね。文章を書くという作業は、どうでしたか?

私的には大チャレンジでした。いつもは漫画オンリーなので、登場人物の動きや表情ありきで描けたのが、文章になるとそれがなくなってしまう。「これだけで伝わるかな…?」「逆に必要以上に描写を書きすぎかな…?」と、悩みながらの作業でした。担当さんがずっと励ましフォローしてくださったので書ききれました。感謝です。

――制作にあたり大変だったこと、気づけたことはありますか?

気づけたのは自分の中にある「未消化」のものの多さです。「ああ、私の中にはまだこんなに残ってたんだな〜」と思いました。書き始める時点では、もう自分ではほぼ消化できていると思ってたんです。でも、書いているうちに「あれもだ、これもだ」と新たにどんどん見つかっていきました。

――「心の表現の仕方がとてもわかりやすく描かれている」というコメントがたくさんありました。実際に描くうえで、心がけた表現などはありますか?

「わかりやすく」は、心がけました。先ほどの質問でもあったように、書いていると「あれもこれも」と自分の中で気づきがあって、つい付け足したくなっちゃうんです。でも、たくさん付けると話の主軸がよくわからなくなってしまうし、自己満足になってしまうので、そこは注意しました。

――今聞いただけでも、心と向き合う作業はとても大変だと思いましたが、制作前とあとで気持ちの変化はありましたか?

書き終わってからは、自分にとっての新たな「課題」が見えた気がしました。人生におけるステージを一歩進めたというか。悩みがなくなることはないんですけど、今までとは違う種類の悩みになりました。って、なんだか具体的じゃなくてすみません(汗)。ただ、感覚的なものではありますが、よい方向に進めた気がしています。

――大人になって、母親に今まで抱えていた自分の気持ちを伝えるシーンがあります。どのような気持ちでしたか?

あれはまさに「ふいに訪れた引退試合」でした。悲しさもうれしさも怒りや恐怖も、いろんな感情が同時にあった気がします。試合と書きましたが、母との勝負ではなく、自分が引退するための儀式のような感じでした。

――本の最後に精神科医の名越先生の解説があります。グラハム子さんの生きてきた道を客観的に捉えて解説してくれていました。客観的なプロの意見を読まれて、どのような気持ちでしたか?

たった数ページなのに、あれを読むと胸がスッとなりました。何度も読み返しました。うれしかったです。

――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

親との関係や親との過去で今も悩んでいて、自分を責めている方は多いと思います。「大丈夫、あなただけじゃないよ。同じように苦しんでいる仲間がいるよ」と伝えたいです。そして「一緒に頑張っていこうね」とも。

「過去は決して消えないけれど、じゃあどうする?一生過去を恨んで、今のままの心持ちで生きていくの?」と自問したとき、私は「それはイヤだ」と思ったんです。そして、イヤだと思えた瞬間、少しだけ、でもハッキリと世界が変わったのを覚えています。この本が、あなたの世界を変える手助けとなれたらうれしいです。

「私の言うことを聞いていれば、間違いない」そんな母の信念に逆らえなかったグラハム子さん。大人になると、言いなりに生きてきたことで「自分がない、自分で選べない」心の不安とも向き合うことに。心の声を聞いて選択しながら道を歩み、母を許せるようになるまでの葛藤が繊細に綴られている。

取材協力:グラハム子(@gura_hamuco)

「あなたを思って」と母は言うけど、本当に困ったとき助けてくれたことがあっただろうか?/画像提供:(C)グラハム子/佼成出版社