厚生労働省11月22日、飲酒のリスクや影響について盛り込んだ国内初の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)」を公表した。

同案では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量の参考値として「1日あたりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、女性20グラム以上」が示されている。40グラムは、ビールなら500mlロング缶2本に相当し、居酒屋で酒を楽しむ客に「ガイドラインを守れますか?」とインタビューする報道が相次いだ。

この数値の示し方に対し、アルコール依存症の専門家から早くも疑問の声が上がっている。男性は毎日ロング缶2本までは飲んでOKという誤った認識が独り歩きするとし、依存症の予防啓発などに取り組むNPO法人ASK11月24日厚生労働省に要望書を提出した。

●節度ある飲酒は「1日約20グラム程度」

国内初の飲酒ガイドライン(案)で示されているのは、「1日あたりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、女性20グラム以上」の文言だ(純アルコール約20グラムは「ビールのロング缶1本」「日本酒1合弱」などに相当する量:以下の表参照)。

ネット上では「男性なら40グラムまでOK」などの投稿がみられるが、これ以上飲むと生活習慣病のリスクを高めるという参考値で、この量まで飲んでよいと示すものではない。

しかし、「ロング缶2本までしか飲めないのか」「女性は最初の1杯で終わるってこと?」など、お酒を好む人たちの間では、この数字への捉え方について一部困惑の声などがもれた。普段は少量しか飲まない人からも「もっと飲んでも大丈夫なのか」との投稿もみられた。近年は、酒造メーカーも純アルコール量をグラム単位で表示するなどしている。

そもそも、国民の健康づくりのために2000年から始まった「健康日本21(第一次・第二次)」には、(1)生活習慣病のリスクを高める飲酒のほかに、(2)節度ある適度な飲酒(低リスク飲酒)として「1日平均純アルコール約20グラム程度」の指標が記されている。

ところが、ガイドライン案に記載されているのは(1)のみだ。アルコール健康障害対策関係者会議の議事録では、以下の意見が示されている。

「私は今回の飲酒ガイドラインの案を見て、40グラムというのが独り歩きするのではない
かという強い懸念を持っています」
「患者さんと日々接していると、ハイリスクの方たちはちょっとでも多く飲みたい人たちなのです。ですから、そういう方たちに40、20だけ示せば、ちょっと割り増しして50グラムぐらいまでは大丈夫みたいな、どんどんそっちのほうに行ってしまうと思いますので、私はむしろどうしても40、20は生活習慣病のリスクということで外せない量だというのであれば、2つ併記していただきたいと思います」
(※第29回アルコール健康障害対策関係者会議議事録より引用)

NPO法人ASKは、数字の独り歩きを防ぐためにも、低リスク飲酒の指標となる(2)をガイドラインに盛り込み、少量でもリスクが上がる疾病があることに留意して、できるだけ飲酒量を少なくすることが望ましい旨を記述することなどを求めている。

また、ガイドライン(案)別添に示されている疾病別リスクと飲酒量(純アルコール量)の表には週あたりの数字が記載されている。関係者会議では、1日あたりの飲酒量がわかりにくいとの指摘もみられた。

パブコメ始まる

世界的にみれば、飲酒量の推奨値は減少傾向にある。たとえばカナダでは、2023年に新たなガイドラインを策定し、週に男性15杯、女性10杯としていた飲酒上限量を男女ともに2杯以下(1杯は純アルコール13.45グラム:度数12%のワイン約150mlのグラス1杯)とすることを推奨している。

不適切な飲酒は本人の健康を害するだけではなく、家族や友人などの第三者に影響を与えることも少なくない。飲酒運転の事故などアルコールによって引き起こされる悲劇もある。

このようなリスクの高さから、国民の健康保護などを目的として、2013年にアルコール健康障害対策基本法が成立した。この法律に基づいて策定された「アルコール健康障害対策推進基本計画(第2期)」の施策のひとつとして、飲酒ガイドラインが作られることになった。

これまで、多くの自治体では(2)低リスク飲酒の数字をもとに啓発活動をすすめてきた。関係者会議の議事録によると、NPO法人ASKが調査したところ、47都道府県のうち、40のアルコール健康障害対策推進計画内に「20グラム」を指標とする低リスク飲酒の記述が見られたという。ホームページなどで節度ある適度な飲酒量を示す酒造メーカーもある。

ガイドラインは、いわば、国民全体に向けた健康のための指針だ。すべての人にわかりやすく提示することが求められている。ガイドライン(案)のパブリックコメント12月29日0時まで受け付けている。

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