日本弁護士連合会(小林元治会長)は、テレビや新聞・雑誌などの報道機関に対し、犯罪被害者等の尊厳及びプライバシーを尊重するよう求める意見書を出した。犯罪被害者支援委員会の担当者が12月27日、定例記者会見で趣旨を説明した。

殺人事件などの犯罪に遭った被害者やその遺族(犯罪被害者等)への取材では「私生活の平穏への影響も考慮して、可否、時期及び方法等について配慮すべき」とし、報道に当たっても実名や顔写真などについて「尊厳及びプライバシーを尊重して、その置かれている状況や意向に十分配慮すべきである」としている。

報道の自由との調整を図る必要性にも触れ「報道する事項の公共性・公益性と取材・報道による犯罪被害者等への影響を考慮」すべきだとしている。

●「ネットで実名が拡散し、誹謗中傷が起きている」

意見書は12月14日付。15日付けで日本新聞協会、NHK、日本民間放送連盟、日本雑誌協会などに提出した。

この件について、日弁連による公式な発表は2017年の会長談話以来。同年10月に神奈川県座間市のアパートで女性ら9人が遺体で発見された事件で、報道が過熱したことを受けたものだった。当時は被害者遺族が報道各社に取材の自粛要請をしていた。

17ページにわたって詳細について述べた意見書を出すのは初めて。今回の狙いについて、同委員会事務局次長の天野康代弁護士は「インターネットの発達という社会情勢下での被害者の状況を報道機関に知ってほしい」と話した。

事務局委員の柴田崇弁護士は「報道の自由が脅かされてはならないというのは大前提」とした上で「(多数の報道機関が集中する)メディアスクラムは昔よりは改善したが、あるべき姿とは程遠い」と指摘。「刑事裁判で被害者の情報が秘匿決定された後も、実名などがインターネットでは調べられる状態。いわれのない誹謗中傷などの被害につながり、メディアが拡散していなくても、実名報道の結果として想定される事態だ」として、配慮を求めた。

座間事件や京都アニメーション放火事件といった多数の被害者が出た事件などを受け、日本新聞協会は2020年6月、メディアスクラム防止のための申し合わせを発表。2022年4月の北海道・知床の遊覧船事故では発生から5日後、在北海道メディアが被害者家族や関係者の心情に配慮するとし、代表取材などをおこなっている。

「メディアの被害者取材・報道はプライバシー尊重を」日弁連が報道機関に意見書