まさにSFの中の話のようだが、高度な科学技術を持つ宇宙人を探すなら、「ブラックホールを利用した量子コンピュータ」を探すべきだという。
マックス・プランク物理学研究所の物理学者ジア・ドヴァリ氏とトビリシ自由大学ザラ・オスマノフ氏らの『International Journal of Astrobiology』(2023年10月16日付)に掲載された論文によれば、もしも高度な文明を持つ地球外知的生命体がいるならば、彼らは小さなブラックホールを量子コンピュータのハードウェアとして使っている可能性があるといのだ。
驚いたことに、「ホーキング放射」によってそこから放たれるシグナルは、南極にある「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」のような施設ならば検出できるかもしれないという。
「事象の地平面(線)」と呼ばれるブラックホールの境界付近では、物理現象もかなり奇妙なものになる。
事象の地平面を超えてブラックホールに落ちてしまえば、あまりにも強力な重力ゆえにもはや光すら脱出できない。
だが境界ギリギリのところでは、「ホーキング放射」と呼ばれるかすかな光が放たれる。
車椅子の天才物理学者、故スティーブン・ホーキング博士が正しいならば、ブラックホールはこのホーキング放射によって少しずつ蒸発していくのだという。
このことが超強力な量子コンピュータにとって重要なのは、このホーキング放射にブラックホールに落ちた物質や光に関する情報が含まれている可能性があるからだ。
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本当のところどうなのかは、まだ議論が交わされているところだ。
否定的な立場によるなら、ホーキング放射は辞書を燃やすようなものだ。ブラックホールに落下した物質・光の情報は、厳密にはホーキング放射に含まれているかもしれない。
だが辞書の燃えかすに残されたインクの成分から文字を再現できないように、情報は復元不能なほど壊れているので、存在しないのと変わらない。
一方、肯定的な立場からは、ホーキング放射は復元不可能なデータではなく、落下した元の物質・光の性質と関係していると主張される。
つまりブラックホールはそこに落下してきたものがあれば、それについて複雑な処理を行い、その結果をホーキング放射として吐き出していると考えられるのだ。
現在の地球の科学技術レベルでは、そのデータを利用する方法はわからない。だが、もっと高度に発達した地球外文明なら、その方法を解明していることだろう。
ゆえにドヴァリ氏とオスマノフ氏は、「十分に発達した文明はすべて、最終的にブラックホールを量子コンピュータとして採用する」と予測する。
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ブラックホール式量子コンピュータのメカニズム
そもそも量子コンピュータとはどのようなものか?
一般的なコンピュータは、情報を1と0で扱う。つまり、あらゆるデータは「ビット」という情報の基本単位で処理される。
一方、量子コンピュータが扱う情報の基本単位を「量子ビット」という。
それは1と0のほか、同時に1と0である状態をとることができる。これは「重ね合わせ」という、不可思議な量子現象ゆえに可能になる。
量子コンピュータはこの量子ビットで情報処理をするために、普通のコンピュータよりも多くのデータを保存し、より多くの計算をこなすことができる。
地球上の量子コンピュータはまだ完全なものではなく、その理論上のポテンシャルをフルに発揮する方法はまだまだ研究が進められている最中だ。
だが高度な地球外文明ならば、すでにその方法を見出しているかもしれない。
そしてドヴァリ氏とオスマノフ氏によれば、ブラックホールで作られた量子コンピュータは、通常の物質で組み立てられたものよりさらに高速なのだという。
なぜなら、ブラックホール内の物質は一点(特異点)に凝縮されているからだ。
ブラックホールの内部はとてつもない高密度だ。だから光や量子ビットの情報は、ほとんど瞬時にブラックホールの片側からもう片側へと伝えられる。
これがブラックホールをハードウェアとして利用することで、量子コンピュータの超高速化・超効率化を実現できる理由だ。
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では、それをプログラムするにはどうすればいいのか?
この点についてはっきりしたことはわからない。
物質の量子状態や光の光子をどうにかいじって、ブラックホールに投げ込めば、ホーキング放射としてその計算結果が出力されるらしいが、詳しいことは現在の地球の科学技術レベルでは不明だ。
だがより高度なプログラム技術を持つ地球外文明なら、きっとその方法を解明しているはずだ。
小型ブラックホールを探すことで宇宙人を探し出せるかも
さて、ここまで説明したところで、肝心の地球外文明を探す方法に話を移そう。
彼らの存在を教えてくれる手がかりの1つは、高度な科学文明なら当然あるはずの、さらに高性能をという探究心にあるかもしれない。
もしもただのブラックホール式量子コンピュータでは性能不足で、さらなる高速化を図ろうとするならどうすればいいのか?
ドヴァリ氏とオスマノフ氏によるなら、小さなブラックホールを使えばいい。同じブラックホールでも小さなものほど処理速度が速くなるからだ。
ならば、より強力なブラックホール式量子コンピュータを求める地球外文明は、小さなブラックホールを自らの手で作ろうとするだろう。
じつはそうした内部の質量が少ないブラックホールほど、より多くのホーキング放射を放つ。
それはつまり、蒸発して消えるブラックホールが最後に放つ高エネルギーを地球で検出できるかもしれないということだ。
あるいは、小型ブラックホールが誕生する瞬間を探すのもいいかもしれない。
量子コンピュータに利用できる小さなブラックホールを作るには、超高性能な粒子加速器で粒子と粒子を衝突させる必要がある。
そして誕生するブラックホールの質量は、せいぜい数千億キロ、地球の質量のほんの一部にすぎない代物だ。
現時点で、このような小さなブラックホールが自然に作られるとは考えられていない。
つまり、こうした小型ブラックホールを見つけることができれば、それはまったく未知の物理現象か、高度な地球外文明が開発したブラックホール式量子コンピュータということになる。
それを検出するツールはすでにある
ドヴァリ氏とオスマノフ氏が正しいとすれば、高度な地球外文明を見つける意外な手がかりは2つある。
1つは、小さなブラックホールがその寿命を終えて蒸発するときに発するホーキング放射、もう1つは、小さなブラックホールを作り出すために使われる加速器からの放射線と高エネルギー粒子だ。
幸いにも、それを検出する装置なら地球上にすでにある。南極の氷の下1450~2450メートルの深さに設置された「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」だ。
これはニュートリノという不可思議な素粒子を検出するためのものだが、ダヴァリ氏とオスマノフ氏によるなら、地球外文明の量子コンピュータから放たれるサインを発見するのに十分な感度があるはずだという。
たとえそうしたサインを検出できたとしても、彼らがどのような姿形をしているのか不明なままかもしれない。
それでも、ブラックホールを利用するなんて大それたことをするくらいだ、コンピュータが大好きということは間違いない。その点については地球人と馬が合うはずだ。
References:Black holes as tools for quantum computing by advanced extraterrestrial civilizations | International Journal of Astrobiology | Cambridge Core / SETI Research Say Aliens Could Use Black Holes as Quantum Computers / written by hiroching / edited by / parumo
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