ヘリコプター搭載護衛艦「かが」の“空母化”改造工事がまもなく終わりを迎えます。具体的にどういったところが変わったのでしょうか。また、艦首形状をわざわざ変えた理由についても解説します。

護衛艦「かが」の空母化いつ終わる?

2023年12月現在、海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦「かが」(基準排水量1万9950トン)にステルス戦闘機F-35Bの運用能力を持たせるため甲板などの改修を行う“空母化”工事が大詰めを迎えています。

JMU(ジャパンマリンユナイテッド)呉事業所で行われていた、第1回特別改造工事の期間は2024年3月までですが、同艦はすでにドックから出渠しており、2023年11月には海上公試が実施されました。

「かが」は海上自衛隊最大の護衛艦として建造されたいずも型護衛艦のひとつ。1番艦「いずも」、2番艦「かが」とも横浜市にあるJMU磯子工場で建造され、それぞれ2015年3月、2017年3月に就役しています。任務の多様化や陸海空自衛隊を一体的に運用する統合運用体制の整備を踏まえ、航空機運用能力や指揮統制能力が強化されているのが特徴です。

船体の大きさは全長約248m、幅約38mで、ヘリコプターの発着艦スポットは左舷側に5カ所。定数はSH-60J/K哨戒ヘリコプターが7機、MCH-101掃海・輸送ヘリコプターが2機の計9機ですが、最大14機まで搭載可能となっています。

2018年末に政府が決定した「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(2019~2023年度)では、STOVL(短距離離陸・垂直着陸)タイプの戦闘機であるF-35Bを導入し、洋上運用できるよう、いずも型を事実上の空母へ改修することが明記されました。これに合わせて、まず「いずも」でF-35Bを発着艦できるよう最低限の工事が行われた後、「かが」では艦首形状の変更を含む大規模な改造が実施されました。

形状変わった艦首以外にも注目ポイントあり

262.1億円をかけて2021年度から改修工事が行われている「かが」の外観上の特徴は、なんといっても長方形の飛行甲板です。上から見るとアメリカ海軍のアメリカ級強襲揚陸艦のような形状になっています。

中央に見える紅白の線がセーフ・パーキングラインで、右舷側のエプロンと左舷側の滑走路とを分けています。ヘリコプター・スポットを貫く黄色の線はF-35Bが滑走する中心線に当たるトラム・ライン。艦首に引かれているのが滑走路の先端を表すバウ・ラインで、その後ろに見えるのが、F-35Bが推力ノズルを下に向けて上昇を始める際に目安とされるショート・テイクオフ・ラインです。第4、第5スポット付近はF-35Bが着艦する際のジェットエンジンブラストに耐えられるよう、耐熱塗装が施されました。

さらに、夜間における航空機運用のための灯火装置を設置したほか、動揺を防止するためのフィンスタビライザーの増設、艦橋後部への着艦誘導装置の設置なども行っています。ただ艦内については、F-35B関連の改修が行われておらず、第2回特別改造工事で艦内の搭乗員待機区画などを整備する予定です。

ところで、なぜ「かが」は多額の費用をかけて、大きく艦首形状を変えたのでしょうか。
これまで、いずも型の飛行甲板の艦首部分は、船体に沿って緩やかな曲線で構成された台形のような形をしていました。

しかし、以前の台形型では、艦首付近に強い気流の流れが生まれ、F-35Bの発艦に影響を及ぼしてしまいます。

実際、「いずも」では甲板の幅が左右均等になっている場所にバウ・ラインが置かれ、それにともなってショート・テイクオフ・ラインも艦橋付近に引かれていました。2021年10月にはアメリカ海兵隊F-35Bによる発着艦テストが行われましたが、同機を本格的に運用するとなると。飛行甲板のスペースを拡大しなければならないことが判明しています。

空母化されたら「かが」の艦種区分変わるの?

こうした背景から、「かが」では気流を軽減してF-35Bを安全に発艦させることができるよう、飛行甲板を矩形(長方形)に変更したのです。なお、これに伴い艦首の下まで張り出しが設けられ、真正面から見たときのイメージもだいぶ変わりました。

バウ・ラインも艦首の位置に引かれ、ショート・テイクオフ・ラインも前部エレベーターの前側に置かれています。艦首付近の駐機スペースも広がったことで、機体への武器や燃料の積み込みといった作業も効率化できるでしょう。今後は「いずも」でも同様の改造が行われる予定です。

これほどの改造を行った「かが」ですが、海上幕僚監部広報室によれば「『ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)』という艦種から変更はない」とのこと。海幕広報は「『いずも』型護衛艦は、ヘリコプター運用機能、対潜水艦作戦機能、指揮中枢機能、人員や車両の輸送機能、医療機能等を兼ね備えた『多機能な護衛艦』」として位置付けていると説明しています。

搭載機となるF-35B戦闘機は、防衛省の2020年度予算から調達が行われています。同機は2024年度に配備が始まり、最終的に42機が導入される計画で、防衛省は2024年度予算で航空自衛隊新田原基地に「臨時F-35B飛行隊(仮称)」を発足させる方針を明記しています。

いずも」「かが」の改造が終わり、艦載機として航空自衛隊F-35Bが配備された暁には、汎用護衛艦対空ミサイル搭載護衛艦イージス艦)などとともに「日本版空母打撃群」が編成される日が来る可能性があります。

いずも」に続く次のステップとして、「かが」が運用に戻る時が今から待ち遠しいです。

1回目の空母化改修で海上公試中の護衛艦「かが」(画像:海上自衛隊)。