今年の前半は、『モリコーネ 映画が恋した音楽家』『エンドロールのつづき』『バビロン』『エンパイア・オブ・ライト』『フェイブルマンズ』といった、映画や映画館への愛をうたったものや、監督が自らの映画体験を告白するようなものが相次いで公開された。

 この現象は、コロナ禍での観客減に加えて、動画配信サービスで映画を見る観客が増え、映画館の存続が危ぶまれる状況を憂慮した映画関係者が多いことの証しだろう。彼らは、もう一度観客を映画館に戻したいと願っているのだ。

 実話の映画化は相変わらず興味深くて面白かった。映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによる性的暴行を告発した女性記者による回顧録を基にした『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』、伝説の“シューズ” エア・ジョーダンの誕生秘話『AIR エア』、ゲームのトッププレーヤーをプロレーサーとして育成する『グランツーリスモ』、先住民族の連続殺人事件を描いた『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』などがある。

 一方、寓話(ぐうわ)の形を借りてさまざまな問題を提示した『イニシェリン島の精霊』(内戦)、『オットーという男』『生きる LIVING』(老い)、『TAR ター』(キャンセル騒動)、『バービー』(ジェンダー)なども目立った。

 『アントマン&ワスプ クアントマニア』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』『マーベルズ』といったマーベル関連作は、動画配信サービスとの連携もあり、いささか食傷気味。

 アカデミー賞では、異色作の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が主演女優賞(ミシェル・ヨー)、助演男優賞(キー・ホイ・クァン)、助演女優賞(ジェイミー・リー・カーティス)、監督、脚本賞(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)と大量受賞。『ザ・ホエール』で主演男優賞を得たブレンダン・フレイザーも特殊な役だったことを考え合わせると、アカデミー賞の変化が顕著に表れた結果といえよう。

 また、前後編の2部作とした『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』と『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』は、動画配信サービスの急速な拡大を受けた報酬の引き上げや、AIの技術が人間の演技に取って代わることがないよう、俳優を保護するための規制づくりなどを求めた俳優組合のストライキで、後編の製作が中断した。ここでもアカデミー賞同様、ハリウッドが岐路に立っていることがうかがえる。

 そんな中、『ブラックライト』『MEMORY メモリー』(出演作100本)『探偵マーロウ』『バッド・デイ・ドライブ』と公開作が続いたリーアム・ニーソンの健闘が光った。

 今回は、筆者の独断と偏見による「2023年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。




外国映画

1. 『フェイブルマンズ』好きなもの、熱中できるものを見つけることが大切と説く

2. 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』3時間26分が長く感じない

3. 『グランツーリスモ』ストレートなスポーツ映画を見た思いがする

4. 『バービー』ポップなファンタジーコメディーに見せかけて…

5. 『枯れ葉』映画好きなら思わずニヤリとさせられる

6. 『AIR エア』ナイキのスタッフたちが起こした奇跡とは…

7. 『オットーという男』シビアな状況でも、人は笑いで救われることもある

8. 『生きる LIVING』黒澤明の名作をリメークした

9. 『TAR/ター』俳優の個性で見せる問題作

10. 『ザ・ホエール』他者への偏見、受容や差異についても考えさせられる

 一方、日本映画は相変わらずアニメが主流の中にあって、ここ数年同様、『福田村事件』など、“小さな問題作”が多かったと思う。そんな中、大作『ゴジラ-1.0』が異彩を放ち、リーアム・ニーソン同様、『ファミリア』『銀河鉄道の父』『PERFECT DAYS』(カンヌ映画祭男優賞受賞)と主演作が続いた役所広司の活躍が目立った。




日本映画

1.『ゴジラ-1.0』“戦争とゴジラ”に回帰した

2.『PERFECT DAYS』役所広司が演技力と表現力の高さを示す

3.『愛にイナズマ』カメラを回すという行為をひたすら見せる

4.『銀平町シネマブルース』全編に映画や映画館に対する愛があふれる

5.『アンダーカレント』うそとまことの境界を描いた心理ミステリー

6.『ロストケア』介護に関する問題を提起した社会派ミステリー

7.『渇水』生田斗真が意外性のある名演を見せる

8.『正欲』共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か?

9.『怪物』謎解きミステリー仕立てで引っ張る

10.『BAD LANDS バッド・ランズ』大阪を舞台にしたピカレスクロマ

田中雄二

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