カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

人間をハチの巣に導いてくれる野鳥 / image credit:Brian Wood

 アフリカタンザニアモザンビークハチミツ狩りをするハニーハンターたちは、野生の鳥をパートナーにしてミツバチの巣を探し出す。

 その鳥の名を「ノドグロミツオシエ(Indicator indicator)」という。ハニーハンターたちは、その地域ならではの呼びかけ声でこの鳥とコミュニケーションを交わし、ハチミツ狩りの成功率を大幅に上げている。

 『Science』(2023年12月7日付)に掲載された新しい研究によれば、ミツオシエたちは地元の言葉か外国の言葉かを区別して、主に地元のハニーハンターと協力しようとするのだという。

 自己強化によって形成されたらしきこの興味深い現象は、人間の言語の形成についても重要なことを告げているようだ。

【画像】 野鳥に協力してもらいハチミツを探す先住民族

 タンザニア中北部の先住民族「ハヅァ族」とモザンビーク北部の「ヤオ族」にとって、鳥のミツオシエは欠かすことができないハチミツ探しのパートナーだ。

 彼らは独特の呼びかけ声でミツオシエと会話しながら、ミツバチの巣があるところまで案内してもらう。

 人類学者のブライアンウッド氏(現カリフォルニア大学ロサンゼルス校)らによる2014年の研究によるなら、ハヅァ族のハニーハンターはミツオシエと協力することで、ハチの巣の発見率が560%もアップするという。

[もっと知りたい!→]狼は人間に協力的でフレンドリー。犬はその血を受け継いだ(オーストリア研究)

 ハヅァ族の1年間の食事の8~10%がこの鳥の助けによって得られたものであることを考えれば、彼らにとってミツオシエがどれほど大切なパートナーかわかる。

 もちろんハチミツ探しを手伝うミツオシエの側にもメリットがある。人間がハチの巣を壊してくれれば、巣や幼虫というおこぼれを頂戴できるからだ。

 それは人間にも鳥にもウィンウィンな、互恵的な素晴らしい関係なのである。

no title

野鳥と協力関係を築くハチミツハンター / image credit:Claire Spottiswoode

地元の”言葉”を聞き分け、協力してくれるミツオシエ

 面白いことに、ハズァ族とヤオ族とでは、鳥に語りかける”言葉”が違う。ハヅァ族がミツオシエと会話するときは鳥のような口笛を鳴らす。

・合わせて読みたい→人間に飼いならされたキツネは脳が大きくなることが判明

 一方、ヤオ族はもっとワイルドな、「ブルルッ、フンッ!」という、どこか動物の鳴き声を思わせる独特の呼びかけ声だ。

 今回の研究では、数理モデルや実験を通じて、こうした呼びかけ声が、彼ら自身や鳥にどのような効果を持つのか調べている。

 するとノドグロミツオシエ(Indicator indicator)は地元の”言葉”で語りかけた方が、よく協力してくれることがわかったのだ。

 たとえば、タンザニアのミツオシエは、”外国語”であるヤオ族の呼びかけに比べて、地元ハヅァ族の口笛で語りかけたときの方が3倍もよく協力してくれる。

 一方、モザンビークのミツオシエは、地元ヤオ族のワイルドな呼びかけに、ほぼ2倍の確率で協力してくれる。

 このような人間と鳥のコミュニケーションは、正のフィードバックによって強化されたものであるようだ。

Successful honey-hunters know how to communicate with wild birds

成功体験を経て協力し合う野鳥と人間

 最初はたまたまの成功かもしれない。だがミツオシエは、ある決まった呼びかけで語りかけてくるハニーハンターは腕がいいということを学ぶ。それ以外の呼びかけは、腕が悪いかもしれないので、協力するメリットがない。

 一方、ハニーハンター側もその呼びかけ声なら、ミツオシエが協力してくれることを学ぶ。それ以外では協力してもらえないので、呼びかけを変えるメリットがない。

 このようにお互いが学習することで、その部族ならではの伝統的な呼びかけ声が形成されていく。

 こうしたところは、人間の言語にも共通している。

 私たちが話す言葉の音自体には、本来意味がない。だが、何かのきっかけでその音の意味について人々が共通の認識を持つようになると、その地域ならではの言語になっていく。

5_e

ヤオ族のハニーハンター、カルヴァーリョ・イッサ・ナンガーがミツバチを収穫する煙と斧の巣 / image credit:Cambridge University

呼びかけ声には習慣の影響もある

 また両部族の呼びかけ声の違いは、両者の習慣の違いも反映されているようだ。

 たとえば、ハチミツ狩りに出れば、ハヅァ族もヤオ族も動物に遭遇することがある。違うのは、ハヅァ族がそうした動物を弓矢で狩ることがある点だ。

 このとき控えめな口笛ならば、狩りの邪魔にならない。

 ハヅァ族のハンターとのインタビューで、彼らは「口笛は鳥のように聞こえる」ため、獲物に気づかれずにすむのだと説明している。

 ウッド氏によるなら、ハヅァ族に限らず、狩猟文化がある地域では、獲物に気づかれずコミュニケーションを交わすために口笛が使われるのだという。

 それとは逆に、ヤオ族の呼びかけ声は、危険な動物を追い払うのに役立つ。出会った動物を狩ることのない彼らにとっては、あえて気づかせて、立ち去らせた方が都合がいい。

 こうした人間と鳥の不思議な協力関係は、どちらにも新しいシグナルを学習する能力があるから可能になっている。

 だが、何よりもお互いを信頼し、ギブアンドテイクの関係が成立しているからこそ、鳥と人間とコミュニケーションという伝統がずっと続いているのだ。

References:Wild birds lead people to honey – and learn from them | UCLA / Successful honey-hunters know how to communicate with wild birds / written by hiroching / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

人間に協力しハチミツに導いてくれる野鳥。アフリカのハニーハンターと鳥の関係