職場での不倫が発覚すれば、慰謝料や離婚の問題が生じるだけでなく、社内での信頼の喪失などを招き、事態はますます大きな問題に発展していきます。突然、相手側の配偶者から訴状が送られてきた場合、トラブルを最小限にするためにどんな対応をしたらよいでしょうか。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに職場での不倫問題について、若山智重弁護士に解説していただきました。

職場の上司と不倫。上司に反省の色なし

相談者のやさたわさん(女性・仮名)は、職場の上司と不倫関係になり、相手側の奥さんに発覚。相談者の自宅に訴状が届き、慰謝料の支払いが、相談者だけに求められていることに納得ができません。

相談者は次の仕事がすぐに見つけられず、現在もその職場で勤務し続けています。また、不倫発覚後もその上司から積極的にしつこく身体を触るなど関係を迫られ、相談者は無視を続けていますが、精神的負担はかなり大きなものとなっています。不倫相手は、反省の色も見せません。

不倫相手が職場の上司であることなどを踏まえて、今後の交渉はどのように進めていくべきでしょうか?

そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の3点について相談しました。

(1)不倫相手が職場の上司であることで大幅な減額交渉は可能でしょうか。

(2)不倫発覚後も同じ職場で勤務し続けて、慰謝料が増額されることはあるのでしょうか。

(3)未だに性的関係を求められる場合、どうすればいいのか。また、この事実を理由に減額交渉できるのか。

減額交渉の余地はあります

(1)不倫相手が職場の上司であることで大幅な減額交渉は可能でしょうか。

大幅減額が可能かどうかはケースによりますが、減額交渉の余地はあります。方法としては2つのアプローチがあります。

第1のアプローチは「求償権」という権利を示し、この権利をあらかじめ交渉の土台に乗せる方法です。

通常、相談者が「上司の責任が大きい」と主張しても、奥さんが減額交渉に応じない可能性は高いでしょう。そこで「求償権を放棄するので減額できないか」と投げかけます。求償権とは、相談者が支払った損害賠償金の一部について上司にも負担をさせる権利です。

簡単にまとめると「あとあと上司に請求するのであれば、いま減額して一度に解決してもらえませんか」という交渉です。

第2のアプローチは、不倫の責任について、上司に大きな責任があることを主張する方法です。

過去の裁判例では、「不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものとみるべき」との考え方(東京高裁昭和60年11月20日判決)に基づき、慰謝料の減額を認めた事例があります(東京地裁平成28年9月30日判決)。

今回のケースも、上司が配偶者との関係において主たる責任を負うべき立場であることから、相談者の責任が軽減されると主張する方法があります。ただし、奥さん側は容易にはこの主張を認めないでしょうし、裁判でもこの主張が必ず認められるわけではないのがウイークポイントです。

(2)不倫発覚後も同じ職場で勤務し続けて、慰謝料が増額されることはあるのでしょうか。

ただ勤務を続けるだけであれば、基本的に増額はされないでしょう。ただし、その後も上司との不倫関係を続ければ、より悪質だと判断され増額される可能性があります。

(3)未だに性的関係を求められる場合、どうすればいいのか。また、この事実を理由に減額交渉できるのか。

性的関係を求められることについては、一般的なセクハラ問題として会社内のしかるべき部署に相談するのが基本的な対応でしょう。減額交渉ができるかについては、(1)で述べた第2のアプローチとの関係において、より相談者の責任が小さく評価される事情となるでしょう。

上司の責任はどうなるのか?

今回のご相談でもそうですが、「求償権」という権利は不倫の慰謝料問題を考える際には一度は考えるべき視点です。

今回の場合において、仮に奥さんに生じた精神的損害が150万円と評価される場合、相談者と上司は、奥さんに対して150万円を支払う賠償責任があります。

しかし、相談者ひとりでその150万円全額を奥さんに支払った場合、「上司の責任はどうなるのか」というのは当然の疑問ですし、実際に「求償権」として相談者が上司に請求することができます。

求償権の金額がいくらになるのかは事案によりますが、一般的には半分以上は夫である上司の責任となりますので、相談者のみが奥さんに150万円を支払ったのであれば上司に対して少なくとも75万円を支払うように請求できるでしょう。

そして、先にも述べたとおり、150万円を支払ってから、あとで75万円を戻してもらうというのは煩雑だという理由で、最初から75万円だけを支払うというように減額してもらって示談になる場合があります。

しかし、この減額交渉はいつでも使えるわけではありません。たとえば、不倫をきっかけに上司と奥さんが別居している場合であれば、奥さんとすれば「夫への75万円の求償権請求は勝手にしてくれ、私は減額しない」と回答するのが普通だからです。

いずれにしても、不倫の慰謝料問題の当事者となった場合には、求償権をどのように扱うかの観点は必須です。

これを知らずに示談した場合、のちに求償権行使で紛争が再燃する可能性や、示談書の記載によって求償権を行使することができなくなってしまい、配偶者(今回でいう上司)の責任をも一人で負うことにもなりかねません。

なお、この求償権の処理はケースバイケースのところがあります。少しでも迷いがある場合には、弁護士にご相談されることをお勧めします。  

若山 智重

弁護士

(※写真はイメージです/PIXTA)