親の介護に対して漠然と不安。その原因のひとつが「介護費の負担」です。基本的に親の年金や貯蓄から払いますが、足りない場合は子どもが肩代わりすることもあるでしょう。暮らしていくだけで精一杯というご時世、できるだけ親の介護費も抑えたいもの。そんなときに役立つ方法のひとつが「世帯分離」です。
親の介護費用…いくらかかる? 子どもも負担しないといけない?
生命保険文化センターが全国の18~79歳を対象とした『生活保障に関する調査 2022年度』によると、親などを介護する場合の不安について、「不安感あり」*は74.9パーセント。いつか直面するだろう「親の介護」に対して、多くの人が不安感をいだいていることが分かります。
*非常に不安を感じる21.8%、不安を感じる27.6%、少し不安に感じる25.5%の合計
不安の内容についてみていくと、「自分の肉体的・精神的負担」がトップで65.7%。「介護=肉体的にも精神的にもツライ」というイメージによる不安が大きいようです。ほか「自分の経済的負担」49.5%、「介護サービスの費用が分からない」49.0%、「公的介護保険だけでは不十分」48.4%、といったような、「経済的負担」に対しての不安も多くを占めています。
実際に、どれほどの費用がかかるのか、生命保険文化センターが過去3年間に介護経験がある人に対して行った『生命保険に関する全国実態調査 2021年度』をみていきましょう。
公的介護保険サービスの自己負担分を含む「介護に要した費用」の平均は74万円。また月々の費用の平均値は8.3万円でした。また介護期間の平均は5年1ヵ月。もちろんこれは平均値で、10年以上と長期間に及んでいる/及んだ人は17.6%にのぼりました。
【介護費用の分布】
◆一時的な費用の合計
0円:15.8%
15万円未満:18.6%
15万~25万円未満:7.7%
25万~50万円未満:10.0%
50万~100万円未満:9.5%
100万~150万円未満:7.2%
150万~200万円未満:1.5%
200万円以上:5.6%
※不明24.1%
◆月額費用
1万円未満:4.3%
1万~2.5万円未満:15.3%
2.5万~5万円未満:12.3%
5万~7.5万円未満:11.5%
7.5万~10万円未満:4.9%
10万~12.5万円未満:11.2%
12.5万~15万円未満:4.1%
15万円以上:16.3%
※不明:20.2%
また親の介護費用は、親の年金、足りなければ親の貯蓄を取り崩す、というパターンがほとんどです。厚生労働省の「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、国民年金受給権者(受給する権利がある人)の平均年金月額は5万6,368円。一方、会社員が加入する厚生年金保険受給権者の平均年金月額は14万3,965円。65歳以上男性で16万9,006円、女性で10万9,261円。また遺族年金は平均月8万0,351円でした。
介護費用の節約に役立つ「世帯分離」とは?
平均的な年金額であれば、平均的な介護はカバーできそう。しかし前出の年金額はあくまでも平均値。
たとえば元自営業の80代の父親。もらっている年金は国民年金だけなので、満額で月6.6万円。平均的な介護費用からすると、月2万円ほど足りないことになります。
――わしの年金だけじゃ介護費用が足りない…すまん、お前も払ってくれ(80代・要介護の父)
――えっ⁉(50代・同居する長男)
親からのお願い、さすがに無下にはできません。でも子どもはこどもで教育費やらなんやらで余裕がない……そんな状況下、こんな提案。
――分かったよ、父さん。俺たち、別れよう(50代・同居する長男)
――えっ⁉(80代・要介護の父)
これは長男から「世帯分離しよう」という提案。世帯分離とは住民票に登録されている一つの世帯を、二つ以上の世帯に分けること。それぞれの世帯主が独立した家計を営んでいる条件の下で世帯を分けることができます。手続きは市区町村の窓口で、特に費用はかかりません。
介護サービスは、費用の一部を利用者が自己負担しますが、その負担額は「高額介護サービス費制度」で上限が決められ、限度を超えると払い戻しが可能です。世帯分離し、親の所得が下がれば、自己負担の上限額も下がり、介護費用が抑えられるというわけです。
もちろんすべての人が世帯分離によって介護費用を抑えられるわけではなく、収入次第では必ずしも負担額が減るわけではありません。また世帯分離は窓口で拒否されることも。
――なぜ、世帯分離をするのですか?
――介護費用を節約したいから
正々堂々というと、制度の目的にそぐわないと判断され、却下される可能性があるのです。もし理由を聞かれたら「家計を区別するため」と答えるのが無難です。
また世帯分離することでデメリットも。たとえば国民健康保険に加入している世帯が世帯分離した場合は、各世帯主が国民健康保険料を支払うことになり、負担額が増えるケースも。また扶養手当や家族手当がもらえなくなるということも。介護費用の節約という点だけでなく、メリット、デメリットを総合的に捉え、申請するか慎重に検討する必要があります。
[参考資料]
公益財団法人生命保険文化センター『生活保障に関する調査 2022年度』
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