近年、盛り上がりを見せている台湾映画・ドラマをWEBザテレビジョンで大特集。2023年を振り返ると、台湾映画のヒット作「1秒先の彼女」のリメイク版「1秒先の彼」が、岡田将生清原果耶のW主演で公開されたり、宮部みゆきのベストセラー「模倣犯」が台湾ドラマとしてNETFLIXで世界配信され、秋には台湾映画の上映祭「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」が都内で開催されるなど話題が続いた。さらに、韓国の世界的ヒットドラマ「梨泰院クラス」も台湾でリメイクが発表され、海外リメイク作品の動きも活発化している。この盛り上がりについて、台湾でコンテンツ産業を支援する「TAICCA(台湾クリエイティブ・コンテンツ・エージェンシー)」の董事長(代表)・蔡嘉駿(ツァイ・ジャジュン)氏に、台湾コンテンツの今について話を聞いた。

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■台湾は国をあげてコンテンツ産業を支援、その額年間100億台湾ドル!

――映画など台湾作品の話題も増えてきている印象です。TAICCAが台湾のコンテンツをどのように支援しているのか、改めて教えてください。

TAICCAは台湾の文化部(日本でいう文科省にあたる組織)が、設立した独立行政法人です。文化部がコンテンツ産業を支援する際に柔軟的なやり方をするために法人のTAICCAを2019年に設立しました。創設時は、韓国のKOCCA(韓国コンテンツ振興院)という組織を参考して作りました。やはり韓国のコンテンツ産業にはすごく大きなサポートをしていて、韓国コンテンツは世界的に結果を出しています。いずれ台湾のコンテンツも世界で楽しんでほしいと思っています。

TAICCAがサポートしているコンテンツのジャンルは、10のジャンルがあります。映画、ドラマ、出版、漫画、ゲーム、音楽、視覚芸術、舞台芸術、ファッション、そしてVR/XR。文化的コンテンツも全部含めて、広いジャンルをサポートしています。人材の育成や国際的交流、法律や経理などに関する知識のレッスンも実施しています。1番大きいのは、投資です。文化的なもの・コンテンツの産業には、投資を「国家発展委員会」という、国の予算を使って投資しています。予算は、約100億台湾ドル(※日本円換算約460億円)で、すごく大きな金額を動しています。

ーー100億台湾ドルを国が支援!台湾ではまさに国を挙げてコンテンツ産業への投資をされているんですね。どのような投資をされているのでしょうか。

投資はいくつのパターンがあります。1つは、企業に投資して、その会社の株式になること。2つ目は作品単位や・プロジェクトに投資します。映画やドラマ、ゲーム…そういうプロジェクト自体に、投資をしています。3つ目は、最近主流になっている支援方法ですが、台湾もしくは海外の大手企業と共にファンドを作ること。国際的ファンドに参加する大手企業と協働します。

――すごく広いジャンルを国が支援していることに驚きました。

全て均等に支援ができているわけではなく、ファッションや舞台芸術ジャンルは、今もやり方を模索中です。現状では映画やドラマの映像系ジャンルが主軸となっています。

■世界と台湾コンテンツ

――昨年、今年は台湾映画のヒットがあったり、日本でもリメイク映画が作られたり、台湾コンテンツの話題が増えた印象です。実際、台湾の、その映画の制作のクリエイターの方たちも海外に出ていく思考や、モチベーションが強まっているのでしょうか。

台湾でもそう感じられています。やはりNETFLIXなど国際的な動画配信サービスの流行によって、海外の方にも見てもらえる機会が増えました。中には昨年の「呪詛」のように世界でもヒットする作品が出てきましたが、TAICCAが大事にしているのは、「流れ」にすることです。韓流という言葉がありますが、コンテンツの量があるから「流」になるんです。単発のヒットだけでは流れにならないので、TAICCAは政府と企業の力を合わせて投資・支援をして、もっともっと台湾の作品の量も質も高めて、「流れ」を作るのが目標です。

今年もトータル100億台湾ドルの予算でコンテンツ産業にサポートするTAICCAと台湾の文化部が新しいプロジェクト「黒潮プロジェクト(T-content plan)」を始めました。また、今年の5月から、法律で企業が作品やコンテンツ産業に投資する時には税金が安くなるという法律改訂もありました。いろいろな側面からコンテンツ産業の盛り上げを試みています。

――日本でも同様に、国がコンテンツ産業を支援をしてくれたら素晴らしいと思いました。

そういうコメントも海外の方からよく言われますが、日本のコンテンツ産業はすごく成熟しているのが違いですね。日本のACG(中国語圏における日本のアニメ、コミック、ゲームなど「2次元」コンテンツの総称)はすごく発達していて、展開している大手企業、例えば集英社KADOKAWA任天堂など、そういう大手は既にビジネスとして成功しているから、逆に政府の力は不要。その点が台湾との違いですね。台湾はコンテンツ産業の企業はまだ大きくないので、政府の支援が必要です。

■「韓国コンテンツ」と「配信サービス」の対応が発展への課題

――コンテンツ産業が発展していくための課題はありますか?

韓国コンテンツとの競争ですね。K-POP、韓流ドラマは世界的にも評価されています。もう1つの問題は、国際的な配信サービスへの対応です。2つの問題に対して、台湾と日本は同じく直面していると思いますが台湾と日本はすごく友好的な国ですので、この2つの問題に対しても、一緒に手を組んでいくことが重要と思っています。台湾としては日本のコンテンツ産業とのコラボレーションをすごく歓迎しています。

――日本のコンテンツ産業との協力とありましたが、例えばどのようなことが挙げられますか?

コンテンツへの共同の投資や共同制作です。例えば、単発の大作への投資はリスクが高いので、多数の市場に展開した方がリスクが下がりますね。TAICCAは台湾角川と、映像製作の投資に関する基本合意書を締結して台湾文化コンテンツの産業化と国際化を目的に、両者が共同で映像化投資と製作を目指しています。今後KADOKAWAさんと一緒に作った作品は、例えば少なくとも台湾と日本、2つの市場に展開でき、マーケティングも可能です。もう1つの市場を確保することはすごく大事です。

韓国コンテンツに対しては、どのようにコラボしていくのかを模索するのが重要だと思います。TAICCAは韓国の大手CJグループと一緒に大規模のファンドを作る予定です。韓国としては、中国語発音の作品を作りたいということだと思います。台湾の市場はそんなに大きくはないんですが、世界的には中国語発音の市場は大きい。そして世界では中国語を使っている方はいろいろな国にいます。このような海外との共同制作は1プラス1は2を超えると思っています。今後もどんどんやっていきたいと思っています。

――「梨泰院クラス」台湾版リメイクも発表されていましたね。韓国コンテンツを恐れずに一緒にやっていこうという事例なのでしょうか。

大ヒット作を台湾の俳優さんでリメイクするのも1つのやり方でこれからもどんどんやっていきたいことですが、その逆パターンとして、台湾のコンテンツやIPが海外でリメイクされるような、互いにやっていけることが大事ですね。

――台湾角川に期待したいことは?

台湾のオリジナルのIPを使って、台湾で映像系の作品を作るプロジェクトになりますが、台湾角川は、1999年に台湾で設立して台湾進出がすごく早かった日本企業です。オリジナルの台湾コンテンツを映像化を通してもっともっと展開していきたい。

昔、私自身が里見八犬伝という作品にのめり込んだことがありました。当時はまだ「IP」や「メディアミックス」という言葉はまだなかったんですけれども、漫画小説、映画、アニメと色々なジャンルに展開するすごさは感じていましたので、今回のプロジェクトも期待しています。

先程言ったように、映像系の作品を作るときには、コストかけてクオリティーの高いものを作り続けないと、韓国のコンテンツに勝てないと思います。でも、すごくコストをかけて作った作品を国際的な動画配信サービスが買ってくれないということがあった場合にリスクもあるわけです。そういう際には少なくとも台湾と日本の市場が確保できる、という点は大きいですね。

■台湾作品の強みは人間本来の感情を描いた「ヒューマンドラマ」

――最後に、台湾の映像作品の魅力について教えてください。

NETFLIXで観られるドラマなんですけれども、「此の時、この瞬間に(原題:此時此刻)」という作品があります。普通の町の中にある何者でもない、人たちのリアルの感情を描いた作品です。台湾のどこでも見られるようなストーリーですが、すごく心を動かすストーリーで、台湾でも人気がありアジアのランキングの上位にも入りました。この作品のように、台湾はすごく「人との繋がり」や「人の感情」を大事にしています。誰でも共感できるヒューマンドラマやロマンス作品のストーリーテリングは台湾の強みだと思っています。逆に大きな予算を投じて作るSFや大作映画はまだ少ない。大作のヒットをつくることは未来の目標の一つですね。

ACGの市場が台湾ではすごく大きいのですが、「台湾オリジナル」のコンテンツに対して払う金額はまだ小さい。その1つの原因としては、日本のコンテンツが強すぎるから。今でこそ韓国コンテンツの比率も大きくなっていますが、昔は90%近くが日本のコンテンツでした。台湾のオリジナルコンテンツの盛り上がりが我々TAICCAの課題のひとつです。

実は私は以前に日本の出版社で仕事をしていたことがありまして、日本のACGのコンテンツは本当に大好きです。もちろん台湾のコンテンツのことを推進するだけじゃなくて、日本と台湾が一緒にやることによって、両国のコンテンツがもっと強くなっていけたら嬉しく思います。

TAICCA(台湾クリエイティブ・コンテンツ・エージェンシー)」の董事長・蔡嘉駿(ツァイ・ジャジュン)氏が、近年盛り上がりを見せる台湾エンタメの今について語ってくれた。/※提供写真