多くの団塊世代が後期高齢者に到達することで起こる2025年問題。これにより懸念される労働力不足は政府の最重要課題のひとつです。そんな労働力不足を打開する手段として期待されているのが、ここ数年で目覚ましい進化を遂げている「無人決済店舗」です。近ごろの無人決済店舗では、これまで課題とされてきた酒類販売時の年齢確認や盗難リスクを解消する、新たなテクノロジーが導入されていることをご存じでしょうか? そこで今回は、無人決済店舗で活用されている最新技術について詳しく解説します。

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

全国各地で増加中!レジ登録不要の「ウォークスルー型」無人決済コンビニ

注目される無人店舗業界で着実に店舗を増やしているのがファミリーマートです。同社は株式会社TOUCH TO GOとタッグを組んで無人決済コンビニを各地に展開。2024年末までに約1,000店舗への拡大を目指しており、医療施設や駅のホーム、高等学校施設にオープンさせるなど、全国各地へ着々と無人決済コンビニを浸透させています。

「無人決済コンビニ」と聞くと、顧客が商品を1つひとつ登録していくセルフレジを想像する人が多いかもしれません。しかし驚くことにファミリーマートの無人決済コンビニでは、顧客による商品のレジ登録は不要。棚から商品をとってレジの前に立つと、自動で会計画面が表示されます。

これを実現したのが商品棚の重量センサーと、店舗内に数多く設置されたカメラの連携です。まず、棚から商品をとると重量センサーが反応し、「商品がなくなった」ことを検知。

カメラが商品を手に取ったことを確認してレジに情報を送り、自動で会計が表示されます。そのため利用者は表示内容を確認し、間違いがなければそのまま支払いを済ませるだけ。

しかも商品は店内のカゴではなく、持参したバッグに直接入れてもOK。これなら混雑時にもレジ待ちが発生しにくく、利用者がよりスピーディーに買い物を済ませることが可能です。

また、これまで無人決済店舗の課題であったアルコール購入時の年齢確認についても、バックヤードに常駐するスタッフがカメラを通して本人への年齢確認作業をおこなうことで解決。スタッフと実際に対面することなく、アルコールの購入ができる仕組みとなっています。

駅構内の購買店では、さらに進んで「レジ不要」の仕組みを持つ店舗も実証実験されていました。AIを活用した「スーパーワンダーレジ」というサービスを使って、2018年にはJR東日本赤羽駅で特設店舗がオープンしています。

こちらは店舗入り口で交通系電子マネーをかざして入店し、商品を選んだら駅の改札のような出口コーナーに向かいます。あとは読み取り機に交通系電子マネーをかざすだけで、会計と退店手続きが完了するという仕組みでした。

JR横浜駅には、株式会社NTTデータと連携した「CATCH&GO」という店舗も2023年にオープン。交通系電子マネーではなくスマホアプリによって入店し、あとはなんの手続きもなくお店を出るだけで決済完了となります。レジを通さずに会計可能な「ウォークスルー店舗」と呼ばれるタイプのサービスは、今後ますます浸透していくでしょう。

顔認証の導入で未成年の酒・タバコの購入を完全ブロック!

一般社団法人「日本フランチャイズチェーン協会(JFA)」が、新たに年齢確認が必要な酒やタバコセルフレジで販売する際のガイドラインを策定しました。新たなガイドラインに沿ってセルフレジならではの年齢確認方法を取り入れはじめたのが、ローソンセブン-イレブンです。

2023年1月、ローソンセルフレジで酒類、タバコを購入する際にマイナンバーまたは運転免許証で年齢確認をおこなえる端末の運用を東京都品川区の店舗で開始。これまで店舗従業員が直接セルフレジまで出向きおこなっていた年齢確認の手間を省き、店側・顧客側双方の利便性の向上へ1歩足を進めました。

ただマイナンバーカードや免許証での年齢確認が可能となれば、身分証明書さえあれば本人以外でも年齢確認が可能になってしまうのでは……と懸念される方もいるでしょう。

セブン-イレブンでは同年2月にマイナンバーカードまたは運転免許証の読み取りに加えて、レジに設置されたカメラによる顔認証での年齢確認をスタート。マイナンバーカード運転免許証の顔写真データと本人の顔を照合することで、より高い精度での年齢確認を実現しました。

全国の農家が注目!?「農作物の自動販売機」で相次ぐ盗難に希望の光

無人決済店舗を取り巻く新たなテクノロジーの波は、昔ながらの無人販売方法であった農作物の軒先無人販売にも押し寄せています。

株式会社NTTアグリテクノロジーは、2023年11月に「農産物の自動販売機」の販売サポートをスタート。軒先無人販売をする上での決定的な問題点だった商品の持ち去りや過小入金のリスクの低減に一役買っています。

とはいえ自動販売機を設置することで、初期投資がかさんでしまっては農家の負担が重くなってしまいます。

同社が提供する農産物の自動販売機は、売上に応じた手数料やサポートで収益化を図っているため、初期費用が不要。売上連動型の手数料算定は、手数料が閑散期には減り繁忙期には増加します。赤字の心配をすることなく、生産者が安心して自動販売機を導入できる仕組みとなっています。

さらに農産物の自動販売機は、販売品目や設置場所に応じて電源不要のロッカー式自販機や冷蔵機能付きなどさまざまな機種をラインナップ。細かな金額設定も可能で利用者の幅広いニーズに応えてくれるため、今後は畑の横に自動販売機が並ぶ光景が当たり前になる未来が待っているかもしれません。

買い物難民の救済手段にも!?「無人決済店舗」の現状の課題とこれから

このように無人店舗業界ではこれまでの課題であった酒類販売時の年齢確認や盗難リスクを解消する新たなテクノロジーが次々に考案されており、迫りくる人材不足問題や業務効率化の一助となっています。

一方で、無人決済店舗にはまだまだデメリットや課題も多いのが現状です。人件費がかからないため、長い目で見れば確実なコストカットが期待できる無人決済店舗。しかしながら専用のレジ端末やカメラ、センサーの設置など、初期費用が高額になってしまう一面もあり、初めから大幅なコストカットを期待できるわけではありません。

また無人決済店舗は増えてきたとはいえ、まだまだ珍しい存在です。

初めて無人決済店舗を利用する際の消費者の心理的ハードルは高く、「使ってはみたいけれど、なんだか難しそう……」といった思いから尻込みしてしまう消費者もいます。

さらにそれが高齢者となれば心理的ハードルはますます高くなりますし、そもそも店員との会話を楽しみに来店する方もいるでしょう。今後、超高齢化社会の日本で無人決済店舗を普及させるには、高齢者を含む初めての利用者へのサポート体制を万全に整え、シンプルでわかりやすい利用方法を確立する必要があります。

しかしこれらのデメリットを解消していくことができれば、「無人決済店舗」は少ない従業員で運営できる24時間営業や、待ち時間の少ない効率的な買い物、はたまた有人店舗では採算が取れず、出店できずにいた過疎地への出店も可能。近所に商店がなく交通手段もない「買い物難民」への救済手段にもなり得るでしょう。

誰もが当たり前に無人決済店舗を利用できるようになるには、もう少し時間がかかるかもしれません。しかし無人決済店舗は、着実に私たちの生活に根付き、これからの暮らしを彩るツールの1つとなっていくでしょう。

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吉田康介

フリーライター

(※写真はイメージです/PIXTA)