本稿では、2023年の音楽ゲームシーンの概況を整理しながら、個人的に惹かれた音ゲー楽曲の10選をピックアップしていきたい。

参考:アーケード音楽ゲーム史に残る“夢の饗宴” 『AMUSEMENT MUSIC FES 2023』の衝撃

 選定基準は一昨年および昨年と同様、「2023年、新たに音楽ゲームに収録された」楽曲とする。楽曲自体としては、ゲーム外で昨年までに公開されていたものも含まれる。

 また『アイドルマスター』シリーズや『ワールドダイスター 夢のステラリウム』、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』などのいわゆるアイドル系・キャラクター系、メディアミックスものの音楽ゲームは、本稿では選定対象外とさせていただく。これらに類する作品は、各々のたたえる世界があまりに広大かつ豊かに過ぎ、単一の記事内で同時に扱うことが困難なためである。悪しからずご諒解いただければ幸いです。

■アーケード音楽ゲーム

1. 最果ての勇者にラブソング
アーティスト:deli.+駄々子
ゲームタイトル:SOUND VOLTEX
メーカー:コナミアミューズメント

 音ゲーeスポーツ文化が花盛りだ。コナミアミューズメントは世界初の音ゲープロリーグBEMANI PRO LEAGUE(BPL)」をエンターテインメントコンテンツとして継続開催しつつ、2011年から続く個人競技の頂点大会『KONAMI Arcade ChampionshipKAC)』の2023年版を完遂。セガ社はアーケード部門で『オンゲキ』『maimai でらっくす』『CHUNITHM』の大会『KING of Performai The 4th』、モバイルでは『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』題材の競技イベントをそれぞれ開催した。バンダイナムコでも『太鼓の達人』の大会として17の国・地域を対象とした一般参加の世界大会と、出場者を小学生に限定した「小学生ドンカツ王決定戦!」の最新回が進行中である。

 なかでも度肝を抜かれたのが、音ゲーeスポーツをリードする「BPL」の第2シーズンで新たに立ち上げられた『SOUND VOLTEX』のプロリーグである。本リーグ戦では、対戦カードの勝敗を大きく左右する大将戦において、毎回1曲ずつ完全新曲をお披露目してゆく趣向を実施。その全楽曲を公募で決定するという壮大な企画をぶち上げた。2012年のローンチから定常的な楽曲公募を行い、また歴代KACの決勝楽曲はじめ重要な立ち位置を公募企画と的確な演出により見事に彩ってきた、『SOUND VOLTEX』という作品ならではのコンセプトといえる。

 まさに音ゲーの粋を極めた楽曲群から、ここでは「最果ての勇者にラブソングを」をピックアップしたい。『太鼓の達人』や『SOUND VOLTEX』への公募楽曲採用、さっぽろももこ作詞作曲による美少女ゲーム『#Geminism ~ #げみにずむ ~』テーマ楽曲への編曲参加などで知られるdeli.と、『Dynamix』『TAPSONIC TOP』『SEVEN's CODE』『jubeat』『BEAT ARENA』『DANCE aROUND』など多数の作品で歌唱を執ってきた駄々子。鬼才二人のコラボレーションが織りなし、元ドラマーのdeli.による変拍子を伴う自由奔放なビートと楽曲を貫く疾走感、そして駄々子のエモーショナルなボーカルに情緒を振り回され目眩を覚える、音ゲーの華と表現するにふさわしい高速ポストロックだ。

 ゲーム版だけでも本稿の10選から決して欠かせない楽曲だが、特筆すべきはM3-2023秋でリリースされたdeli.+駄々子による最新アルバム『ワルキューリアに花束を』収録のロングバージョンだ。全編リライトされた日本語詞を伴って、7分近くにわたる堂々たるアレンジに仕立てた大曲。ゲーム収録バージョンで魅了された者ならずとも必聴の作品である。

2. リナリア
アーティスト:OSTER project feat. hinatanso
ゲームタイトル:pop'n music
メーカー: コナミアミューズメント

 1998年9月にリリースされたコナミ(現・コナミアミューズメント)の音楽ゲームポップンミュージック』。平成10年から令和5年の現在に至る時代を駆け抜け、ポップンはついに25周年の節目を迎えた。2023年現在はアーケード最新作『pop'n music UniLab』とPC用『pop'n music Lively』の2作を柱として、今もなお音楽ゲーム業界の最前線を開拓し続けている。その作品史と現在地については、リアルサウンドテックに執筆した別記事で十二分に語った通りだ。

 同シリーズの音楽面を語るうえで欠くことの許されない事項が、シリーズを貫いてきたギターポップ/ネオアコ、ネオ~ポスト渋谷系との相互作用だ。第一作に公称ジャンル「ポップス」として収録された、フリッパーズ・ギターピチカート・ファイヴ、Culture Clubといった先行音楽を南雲玲生が参照した「I REALLY WANT TO HURT YOU」から始まった関わり。竹安弘、杉本清隆、wac(脇田潤)、TOMOSUKE舟木智介)ら歴代スタッフによるディレクションのもと、数多くの興趣あるオマージュと引用参照、文化を築いてきた当事者の参画、そしてアーティスト各自の有するオリジナリティと既存文化との調和融合による変容を繰り返しながら、その甘い関係はポップン史を通して常にあり続けてきた。

 red glassesそよもぎm@sumiらと共にその潮流を引き継ぐOSTER projectが、シリーズ最新作に提供したポスト渋谷系ポップスが「リナリア」だ。OSTER projectは2007年、「初音ミク」発売のわずか2週間後に投稿したオリジナル曲恋スルVOC@LOID」でボカロP活動を開始。2012年の『beatmania IIDX 20 tricoro』でのBEMANIデビュー以来、コナミ、セガ、バンダイナムコUbisoftなど各社の音楽ゲームに寄与している。

 ポストロックジャズクラシカルと多ジャンルに通暁するOSTER projectは、極上のフレンチポップ「犬に雨傘」をはじめ、risette常盤ゆうをボーカルに迎えた「ラブラドライト」「ひとりきりのパレード」「エディブルフラワーの独白」、かなたん歌唱の「シエルブルーマルシェ」、ああああによる高速ラウンジポップ「rainbow」のリミックスといった渋谷系シーン周辺曲を、音楽ゲームの内外で制作してきた。3Dモデリングアーティストでありユニットpicoco(ピコッコ)の一員・たまことしても活動するひなた(hinatanso)が歌唱を執る本楽曲は、ポップンが有する楽曲史の最先端においてもギターポップ・渋谷系のDNAがいまだ健在であることを示す、愛しくも美しいひとつの里程標だ。

3. KUGUTSU
アーティスト:onoken
ゲームタイトル:Pump It Up
メーカー:Andamiro

 国内のアーケード音ゲーシーンは、コナミアミューズメントが展開するBEMANIシリーズ、セガのいわゆるゲキチュウマイの3大タイトル、バンダイナムコによる『太鼓の達人』、そしてタイトーによる『グルーヴコースター』『テトテコネクト』『MUSIC DIVER』が競い合う、相も変わらぬ激戦区である。

 そんななかで、見逃せない独自の存在感を保っているのが韓国アンダミロ社だ。国内では長らく展開が非常に限られていたアンダミロだが、2021年にラウンドワン独占の完全新規タイトルとして『クロノサークル』をリリース。こちらは残念なことに最近、2024年はコンテンツアップデートを一切行わず、2025年1月をもってオンラインサービス終了とオフライン化を行う旨の予告がなされた。

 一方でアンダミロ社の本陣たる、世界に名だたるステップリズムアクション「Pump It Up」シリーズは好調だ。本年は最新作となる『Pump It Up 2023 PHOENIX』をリリース。7月にモード限定の特別楽曲として追加されたのが、20年以上の活動歴を持つ日本のベテランコンポーザー・onokenによる、彼の製作歴で最速となるBPM220を記録したハードコアテクノ「KUGUTSU」だ。アートコアやバラード方面で武器とする抒情的メロを最小限に抑え、緻密に打ち込まれた強烈なビートがグルーヴを牽引するストイックな作風は、彼の近作よりもむしろキャリア最初期の「esc」「K8107」といったインディーズリリース作品を想起させる。

 本年11月には、セガ『オンゲキ』収録曲の「Maqrite」などで知られる匿名アーティストowl*treeもまた自身の変名義であることを大々的に公表したonoken。国内外のメジャー音ゲータイトルの多くで大きな看板を担い、国際的な舞台へも躍進を続ける彼が、今後どのようなフィールドへ活躍を広げることになるのか、ますます目が離せない。

■PC音楽ゲーム

4. OverjoyOVERDOSE!!
アーティスト:Luna Fozer (BilliumMoto, 黒皇帝, Sobrem)
公開フォーマットBMS

 現代音ゲー文化は、常にクローンゲームと共にあった。将棋プログラム「やねうら王」でも知られる磯崎元洋が開発した『BM98』(1998年)。『DanceDanceRevolution』『Pump It Up』両作品のクローンに端を発し、米国では商業AC音ゲーIn the Groove』にまで派生した『Stepmania』。『押忍!闘え!応援団』を模したオーストラリア発作品『osu!』。PMSフォーマットを世に広めた『ふぃーりんぐぽみゅ』。2010年代後半以降も、『Just Shapes & Beats』『初音ミク -Project DIVA-』『Guitar Hero』各作品のクローン『Project Arrhythmia』『Project Heartbeat』『Clone Hero』、複数の既存ゲーム形態に対応したシミュレータ『Project OutFox』『Malody』と、その勢いは留まるところを知らない。

 それぞれに功罪は伴いつつも、クローンゲームが単に元タイトルの劣化複製に陥ることなく、新鋭ミュージシャンや映像作家の技量を培い、また優れたオリジナル曲を生み出すプラットフォームとして機能してきたのは確かである。なかでも前述の『BM98』用フォーマットとして生み出された「BMS(Be-Music Source file)」は、アーティストとゲーマーとレビュアーが曖昧な境界線上で相互作用する特異なコミュニティの中、初出から25年を経たいまもなお発展を続ける、ひとつの創作文化を築き上げるに至った。

 2004年から続く伝統ある競作イベントの最新回「THE BMS OF FIGHTERS : NT -Twinkle Dream Traveler-」で公開された「OverjoyOVERDOSE!!」は、そのBMS文化を煮詰めに煮詰めた凝集体だ。架空の多文化BMS VTuberであるLuna Fozerのテーマ曲という体で、トリリンガル詞をスタイリッシュに歌い上げる洗練のダンスポップ。NankumoDRAGONLADY」、削除「AXION」、Silentroom「nulctrl」、ぽんきち「PPBQ」、siromaru + crankyconflict」、fether (Remixed by Yamajet)「consider numbers 3」などBMS文化発の名曲オマージュを歌詞中へ高密度に折り込む遊びも心憎いほどに見事だ。

 披露したのは、BilliumMoto、黒皇帝、Sobremからなる米仏韓の国際合同チーム。Sobremは、2017年の『Dynamix』『O2Jam U』『RIDE ZERO』への楽曲提供を皮切りに15以上の音ゲー作品に関与歴があり、2023年も『DJMAX RESPECT V』の楽曲パックの看板曲「DIE IN」をTAKと組んで制作している。彼をはじめ長年にわたりBMSシーンに絡んできた第一線のミュージシャンたちが、その実力を如才なく発揮しつつ、25周年を迎えたBMS界隈へのリスペクトを表意した渾身の一作である。

5. Changeable Weather
アーティスト:Cres.
ゲームタイトル:Sounds of Succubus
メーカー: ラクライ

 音楽に同期して動作する弾幕を自機が回避する類の音楽ゲーム。その系譜は、少なくともBMSプレイヤー『おたま』(2000年)まで遡ることができる。同作は『ピカチュウげんきでちゅう』『ポケモンダッシュ』『ポケモンチャンネル』のBGM担当や『サクラ大戦』サウンドデザイン等で知られる小畑幹(wjaz)が開発したものだ。

 近代のインディーゲームにおいて弾幕×音楽ゲームというコンセプトがブレイクを果たしたのは『Just Shapes & Beats』(2018年)が契機であることに疑いはないだろう。以降、前出の『Project Arrhythmia』のほか、地形と演出に工夫を凝らした『Soundodger 2』、リズムと升目が自機をも制約する『Beat Ship』、『Pump It Up Infinity』の開発陣が制作しSTG要素を強く取り入れた『NOISZ』シリーズ、2024年リリース予定の奥行きスクロール型作品『HyperCore : Rhythm Bullet Hell』など、同コンセプトとその派生は音楽ゲームにおける一つのトレンドとなっている。

 DLsite限定販売の18禁美少女ゲーム『Sounds of Succubus』もまた、上述の文化的背景から生まれた『Just Shapes & Beatsオマージュ作品の一つだ。本稿で取り上げる「Changeable Weather」は、その冒頭ステージの楽曲であり、担当キャラであるソルリンデ&セレーネキャラクターソングとしての顔も持つ一曲。現代音ゲーらしからぬ余白を有する音遣いながら、一曲に一体いくつのジャンルを詰め込むんだという怒涛の勢いが楽しい、遊び心をたっぷりと携えたトランスポップだ。

 作曲を担当したCres.は元BMS作家。残した作品は少ないが、BMSコンペ「BOF III - THE BMS OF FIGHTERS 2006 -」で公開した叙情トランス「End Time」で著名である。同作品は公開から13年以上が経過した2019~2020年にかけて、セガ『CHUNITHM』『maimai』『オンゲキ』に収録を果たした。Cres.は本作のほか、『Succubus Quest 短編 -老司書の短い夢-』『Succubus Rhapsodia』『サキュバスアカデミア』といった一連のサキュバス系ゲームでもBGM制作を担っている。

6. ChikuTaku
アーティスト:Watson Amelia
ゲームタイトル:ChikuTaku
メーカー:ホロライブEnglish(カバー株式会社

 音楽ゲームはもはや一つの文化であり、ほかの文化の中にも自然に織り込まれることになる。VTuberと音楽ゲームの関わりという切り口でいえば、VTuber関連曲の既存ゲーム収録はもはや日常茶飯事であり、VTuberをテーマにしたコナミアミューズメントの新作『ポラリスコード』も予告されている。一方でそれらとはやや毛色の異なる、VTuber×音楽ゲームの新しいありかたを見せたのが本楽曲だ。

 ホロライブEnglish所属のVTuberワトソン・アメリア。彼女の新作シングル『ChikuTaku』は、アキシブ系の香り漂う疾走感のあるトラックに乗せてキャッチーなメロを歌う、まっすぐなポスト渋谷系ポップスだ。アメリア本人も作詞に関与した、やや舌足らずな日本語を織り交ぜた歌唱も楽しい一曲。本楽曲は、そのMVが『リズム天国』ライクな音楽ゲームとして演出されているだけではなく、実際にブラウザ上でリズムゲームとしてのプレーが可能である、いわば“遊べるMV”としてもリリースされた。

 楽曲制作を担当したのは英国バーミンガム在住のソングライター・音楽プロデューサーであるWUNDER RiKU(ヴンダー陸)。本名のJosh Wunderlich(Joshua Max wunderlich)名義ではDWB MUSIC所属アーティストとしてのソロ仕事や、ロックフュージョンバンドBig Band of Boomのフロントマン活動など多数の実績がある。本業のかたわら、2022年1月にはアメリア非公式テーマソング「MYSTERY OF LOVE 恋の不思議」を自主制作していた。同年6月にはホロライブEnglish所属の九十九佐命にSnail’s Houseが書き下ろしたシングル「Astrogirl」の作詞担当など、ホロライブ公式作品にも関与。翌年リリースの本作で、晴れて公にアメリアへ楽曲を書き下ろすに至った。

 2023年11月にはKing & Princeの楽曲「1999」の作曲に関与するなど活動の幅を広げるWUNDER RiKU。確認の限りではほかにゲーム音楽の公式仕事を担当した事例は見当たらないが、ホロライブEnglishを扱った二次創作ゲーム『D10 Myths』向けに、オーストラリア出身のVTuber・小鳥遊キアラをイメージした楽曲「TORI NO WATARI 鳥の渡り」を制作している。

7. Deadly Bomber
アーティスト:Daisuke Kurosawa
ゲームタイトル:DJMAX RESPECT V
メーカー: NEOWIZ

 “音ゲーボス曲としてのプログレッシブ・ロック”という潮流が存在する。泉陸奥彦DAY DREAM」、佐々木博史The Least 100sec」、西脇辰弥と菅沼孝三の共作「Threshold Lebel」、小野秀幸Over there」、千本松仁「Rock to Infinity」、あさき「天庭」、AIKO OI大井藍子)「Limitless Possibility」、桜庭統Hard distance」。手数の多さと複雑なリズムという素性により、時代と共に高度化するプレイヤーレベルへの要請にも適合しながら、プログレというジャンルは音楽ゲーム史のなかで威厳あるひとつの立ち位置を築いてきた。

 96こと黒沢ダイスケは、そのような音ゲー×プログレの潮流に寄与してきた一人だ。2003年にドリーム・シアター主催の楽曲コンテストで2位を受賞、プログレバンド・軌道共鳴で活動の後、コナミに参画した経歴を持つ。同社の『GuitarFreaks』『DrumMania』(現・GITADORA)に制作した衝撃作「一網打尽」以来11年のキャリアを積んだのち、音楽プロダクションINSPIRONに移籍。『太鼓の達人』『CHUNITHM』『SEVEN’s CODE』『Arcaea』『Cytus II』『EXTASY VISUAL SHOCK』など各社作品に寄与してきた。

 本稿で取り上げる「Deadly Bomber」は、韓国NEOWIZによる世界に名だたる音ゲーシリーズ『DJMAX』の最新作である『DJMAX RESPECT V』、その楽曲パックDLC「V EXTENSION IV」収録曲のひとつとして公開された楽曲だ。もちろん彼の得意とする、複雑を極めた進行のなか次々と超絶技巧が繰り出されるド直球プログレッシブ・ロックである。黒沢の運営するYouTubeチャンネルでは、自身による演奏動画も公開されており、こちらも必見だ。

 Steamに存在する全音ゲー中でも5指に入るレビュー数を有し、圧倒的な支持を受けながら高水準のオリジナル楽曲収録を実現し続ける『DJMAX RESPECT V』。世界各国からボーダレスにあらゆる音ゲー文化をインポートしつづける本作は、黒沢の招聘により音ゲープログレ文化開拓の当事者による極み付きの作品を収録し、その概念とスコープをますます拡大させてゆく怪物音ゲーだ。この12月にも続編パック「V EXTENSION V」がリリースされ、NieN、TAK、seibin、ND Lee、Ice、細江慎治、Pure 100%ら日韓台を中心とした豪華アーティスト陣による新曲群が収録されている。

音楽ゲームアプリ

8. Skyrocket
アーティスト:uraboroshi
ゲームタイトル:Hexa Hysteria
メーカー: Wiseye Studio

 インディー系の音楽ゲームは、2023年もその勢いを増しており衰えを知らない。ここ1~2年の要注目作を並べ立ててみれば、たとえば『Phigros』で知られる中国Pigeon Gamesの新作『Rizline』、『Lanota』『WACCA』『MUSIC DIVER』ライクな円環型音ゲー『Liminality』、新鋭デベロッパーTunerGamesによる『Paradigm: Reboot』、インドネシア発の『SparkLine』、オーストラリアから創発し本年Switch版もリリースされた『Spin Rhythm XD』、韓国の動作検知型音ゲー『DanSparkling』、『CROSS×BEATS』文脈でリリースされNAOKIこと前田尚紀が変名義祭りを披露した『DeltaBeats』、もと『陽春白雪(Lyrica)』制作チームが立ち上げた浮光遊戲(Dusklight Games)による新作『Gadvia』、際限が見えずこのあたりで止めておく。

 『Hexa Hysteria』は台湾Wiseye Studioが2022年にリリースした、ストーリー要素と楽曲解禁システムの融和が特徴のインディーゲームだ。その展開の初期から、セガ『CHUNITHM』発のイロドリミドリにも楽曲提供歴のあるbassyこと石橋弘史のユニットNyaronsや、アンビエントエレクトロニカ作家Sweet Doveといった、国内外のインディーズアーティストに対する鋭い選曲眼を見せていた。

 本稿で取り上げる「Skyrocket」は、2023年9月に『Hexa Hysteria』へ収録された楽曲。ゲームボーイ用の音楽エディタLSDjLittle Sound Dj)の扱いを得意とするチップチューンアーティストuraboroshi(ウラボロシ)による楽曲で、元はSoundcloud上で2021年に公開されていたものである。ハードコアの疾走感と重低音に押し支えられた高密度のチップサウンドが広音域を遊びまわり、音の渦に叩き込まれ翻弄されるチップブレイクの極みだ。

 Wiseye Studioからは、ピアノをモチーフにした新作音楽ゲームリリーファンタジア』のリリースも予告されている。音楽制作を手掛けるのはP3-Studio音樂工作室。台湾出身音ゲーアーティストの雄PYKAMIAと3R2が共同設立、かつてRayarkのサウンドディレクターを務め現在は『Starri』のNex Team Incにも所属するIceや、『Cytus』『VOEZ』『Lanota』『KALPA』『太鼓の達人』等でも知られるボーカリスト・薛南らを擁するサウンドチームだ。的確なサウンドディレクションと信頼のおける音楽制作陣によるまだ見ぬ新曲たちに、いまから期待も膨らむばかりである。

9. アイムマイン
アーティスト:halyosy
ゲームタイトル:プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
メーカー:セガ/Colorful Palette

 2000年のヤマハ「DAISYプロジェクト」に端を発する音声合成技術VOCALOIDを用いて、クリプトン・フューチャー・メディア社が「MEIKO」「KAITO」に続いて2007年に発売した「初音ミク」が、UTAUなど後続ソフトウェアと共に形成したボーカロイド文化。同年中にはすでにクリプトン社との交渉を開始していたセガが、「初音ミク」発売1周年となる2008年8月31日に発表、翌2009年にリリースした『初音ミク -Project DIVA-』から、令和のいまなお続くボーカロイド音楽ゲームの蜜月は幕を上げた。『初音ミク and Future Stars Project mirai』、『ミクフリック』、『初音ミク VRフューチャーライブ』……10年以上にわたるボカロ×音ゲーの潮流における最新形態として2020年にローンチされたのが『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』だ。

 ゲーム内ユニットの担当声優とボーカロイドのコラボによる既存ボカロカヴァーや、持続的な楽曲コンテスト企画であるプロセカNEXT、クリエイターとファンの架け橋となるイベントであるクリエイターズフェスタなどの施策を通して、それ自体が新しい音楽を生み出すプラットフォームとしても本作は機能してきた。そしてアニヴァーサリーにはボカロ界の大御所ミュージシャンによる書き下ろしの記念楽曲が公開されるのが定番となっており、1~2周年の機会にはEve「群青讃歌」、DECO*27「Journey」がそれぞれ生み出されてきた。

 3周年を迎えた本年には記念曲・じん「NEO」に加え、ゲーム内の各ユニットへの書き下ろし曲が公開された。「アイムマイン」は、初音ミク鏡音リン・レンボカロ文化黎明期を支えたキャラクターらが在籍するユニットVirtualSingerのために制作された楽曲。制作を担当したのはhalyosyこと森晴義だ。森は笹原翔太、中村博とのバンドabsorbでの活動の傍ら2007年12月に発表した、ryo(supercell)によるボカロ文化黎明期の代表作「メルト」のカヴァーブレイクオリジナル曲桜ノ雨」が全国各地の高校で卒業式の定番曲として広がるなど、ボカロ曲がニコニコ動画の枠をはるかに超えた支持を得て一般社会へ広がってゆく潮流へ大いに寄与した、ボカロ界のレジェンドアーティストの一人である。

 「桜ノ雨」「Blessing」「Flyway」といった自身の代表曲を引用しつつ、メロディ重視のソフトロックに乗せたテンポの良いラップ・ポップスが繰り出すのは、いままさに駆け出そうとするクリエイター志望者の背中を押す応援歌だ。プロデューサーであるColorful Paletteの近藤裕一郎は『プロセカ』開発の動機について、ボーカロイドやインターネット発の音楽を若い世代の人たちへと伝え、次世代にとってのボカロ文化への入り口となることを望んだものと語る。元ボカロPでもある近藤が『プロセカ』への中長期的な目標として掲げていた、ネットの音楽シーンが盛り上がり、また楽曲のクリエイターが増えてゆくようにとの願い。時代の先駆者としてボカロ界を牽引し見守ってきたhalyosyが、その想いを汲み上げて見事に具現させた一曲だ。

10. Gunners in the Rain
アーティスト:Mili
ゲームタイトル:Deemo II
メーカー:Rayark

 ニコニコ動画を契機としてつながったカナダのボーカリストCassie Weiと国内コンポーザーYamato Kasai葛西大和)らによる国際ユニット、Mili(ミリー)。インディーゲームデベロッパーProject Moonによる『Limbus Company』『Library Of Ruina』や、Binary Haze Interactive『ENDER LILIES』に高品質なテーマソングやBGMで貢献。日本国内でもアニメ『ゴブリンスレイヤー』『処刑少女の生きる道』での主題歌担当などメジャーシーンでの知名度をますます高めつつある。

 Miliとしての遍歴のごく初期から、彼女らはモバイル音ゲー発展期を代表する台湾Rayark社の諸作に貢献を続けてきた。とりわけ作品全体を貫くストーリーを音楽ゲーム体験と融和させる現在のトレンド形成に寄与した重要作『DEEMO』には、2013年のリリース当初から「Nine Point Eight」「YUBIKIRI-GENMAN」といった傑曲の数々を提供し、同ゲームが世界のコミュニティへと広がる一助を担ってきた。

 『DEEMO』の直接の続編としてRayarkが2022年にローンチした『Deemo II』にも、Miliは立ち上げと同時に「Dandelion Girls, Dandelion Boys」「Bento Box Bivouac」の2曲を提供、あわせてフルサイズの楽曲をシングルとしてリリースしてきた。2曲は『Deemo II』初期の精選となる1stサウンドトラックの収録曲にも選出されている。そして2023年になって同作へと新たに提供したのが「Gunners in the Rain」。ミドルテンポで紡がれる思弁的な歌詞に情緒を翻弄される、ジャジーなシティポップである。

 Rayark社による『Deemo II』はスマホ音ゲー業界中でも最上に属するサウンドディレクションの技量が光る、コンテンポラリーピアノ楽曲集としての観点からも至高の作品だ。2023年もkidlit「memories of love」「Symphony Blue for 2 Pianos」、Yu_AsahinaHarvestSeason!」、Feryquitous「MirageStation」、technoplanet「Antikythera」、Elliot Hsu「Unwavering Spirit」、かねこちはる「bAllAd」……取り上げきれないほど収録された傑曲たち。ベテランMiliがその魅力を最大限に発揮した「Gunners in the Rain」は、そのなかにおいても一つ群を抜いた、同ゲームタイトルのまさに白眉と捉えたい一曲だ。

音楽ゲームシーンはもっと面白くなる

 以上、今年も筆者なりの価値基準と独断をもとに10曲を選出した。なんらかの統計に基づいたランキングではなく、観測範囲とリスニング傾向の異なるリスナーごとに、選はまったく異なるものになるだろう。ここまで目を通してくださった読者のみなさまにおかれましては、それぞれのベスト選曲をぜひ教えていただきたいと願っている。

 音楽ゲームシーンは2023年も盛況を極めた。本稿で語られた以外にも、Tango Gameworks『Hi-Fi RUSH』の爆発的ヒットとCEDEC AWARDS 2023サウンド部門最優秀賞受賞、セガ『サンバDEアミーゴ』のまさかの続編作『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』リリース、アーケード音楽ゲーム各社による垣根を超えた合同ライブイベント「AMUSEMENT MUSIC FES 2023」の開催はじめトピックスが満載だ。

 来年も各社アーケード作品の新バージョンが期待されると共に、PCやアプリにおいてもインディー作品のリリースや大型アップデートが多く予定されている。主だったところだけでも、例えばDÉ DÉ MOUSE細江慎治、そしてなんとコトリンゴまでが楽曲を担当することが明かされている、AREA 35社の『Felicity’s Door』。cosMo@暴走PTOKOTOKO(西沢さんP)ボカロPを招いてのオリジナル曲収録が予告されているフィットネスリズムゲームFit Boxing feat. 初音ミク -ミクといっしょにエクササイズ-』。そして2月に豪華陣容による楽曲収録の数々が予告されるもゲームエンジンUnityの騒動がらみで延期されていた、開発者Tommy Liによる『polytone』のバージョン2.0あたりは目が離せない案件である。

 来る2024年、世界の音楽ゲームシーンはますます面白くなるだろう。まだ見ぬ楽曲たちもまた、ただ一人のリスナーでは全容の把握すら難しいほど出現することにまったく疑いはない。シーンのさらなる発展を心待ちにしたい。

(文=市村圭)

音ゲーライターが選ぶ2023年の「音楽ゲーム楽曲」10選