ニューアルバム『世界/WORLD』を提げて、いよいよ全国ツアー『人、々、々、々』へと突入していくCRYAMY。アメリカ・シカゴで名エンジニア、スティーヴ・アルビニとともに作り上げたアルバムは、CRYAMYとその中心にいるカワノにとって大きなターニングポイントとなった。アルバムを完成させたあと、帰国したカワノは体調を崩した。それだけすべてを注ぎ込んだということなのだろう。彼は今も傷だらけの体と精神を引きずるようにして、ツアーに向けて邁進している。それは決して意図したことではないが、だからこそこのツアーは特別なものになる。ファイナルは2024年6月16日に日比谷公園野外大音楽堂で行われるワンマンライブ『CRYAMYとわたし』。決死の覚悟で挑むこのツアー、ぜひその目で目撃してほしい。

── アルバムももうすぐ発売ですね(取材はアルバムリリース前に行われた)。

カワノ はい、もう来週ですね。でも、いろいろな人に音源を送ったんですけど、反応があまりかんばしくないんですよね(笑)。感想来たのはa flood of circleの(佐々木)亮介さんと時速36kmの(仲川)慎之介ぐらい。あとAnalogfishの(佐々木)健太郎さん。みんな、なんて言っていいのかわからないみたい。すでに賛否両論のアルバムになりそうな感じはあるなと。

── 自分的にはどうですか?

カワノ そうだな、自分で聴き返すと、結構エネルギーを持っていかれるというか。ちょっとしんどいくらいの気持ちにはなりますね。曲の受け取り方も難しいだろうなとは思うし、感想をくれた人たちも、なかなか言語化しづらいみたいなので。

── まあ、楽しみですよね。ファンがどういうふうに受け取るのか。

カワノ アメリカに行く前にリキッドルームで全部新曲のライブをやった時も、お客さんみんな棒立ちだったし、帰ってきて最初のライブかとかも、やっぱりみんな「えぇー?」みたいな感じになってたんで。これがどう受け取られるのかっていうのはあるんですけど、俺は結構楽しみです。不安は全然ない。

── そしてアルバムを携えて1月からツアーが始まっていくわけですが、改めて今回のツアー、どういう思いで組み立てていったのかを教えてください。

カワノ 出発点は6月の野音が決まったことだったんです。アルバムができて帰ってきたら野音でワンマンをやろうというので、そこから逆算してツアーを組もうということになった。そこから会場含め全部組んで、誘いたい人をどんどん誘っていきました。もちろん旧知の人、親しい人にはぜひ出てほしいと思ったし、関わりがなかった先輩たちや後輩たちもそうだし、純粋に僕が尊敬する、音楽的に好きな人たちに声をかけました。

── 今回の対バン、これまで関わりがなかった人も結構いるんですか?

カワノ そういう意味だと、念願だったのはLOSTAGEかな。もちろん音楽も中学生の頃から大好きですけど、活動スタイルとしてもあの人たちも全部自分たちで回して、今は47都道府県ツアーを自分でやったりしていて。そのくらいパワーのある人たちなので、それを見習って僕らも頑張ろうと思うし、CRYAMYというバンドにおいては先人のようなバンドなので。だから今回出てくれるってなったのはすごくうれしい。思い切って声をかけて、アルバムも聴いてもらって。そういえば五味(岳久)さんからはすぐに返事が来たな。アルバムを送ったら「めちゃめちゃかっこいい」って言ってくれて。そこでピンとくるものがあったから出てくれたのかなと思う。

── ちなみにこの「人、々、々、々」というツアータイトルはどういう思いでつけたんですか?

カワノ これはアルバムを象徴するような1ワードがないかなと思っていて出てきたんです。今までは自分の内側を掘っていった末に出たものを作品として出すっていう感じだったんですけど、このアルバムは図らずも外に対して目を向けるとか、外に対して出すことを前提に自分を掘るっていうものになって。だから微妙に今までとは違ったんです。テーマとして、大きい世界の枠組みの中でそこに生きている人間一人ひとりに問いかける、人間一人ひとりの実存を問うっていうのがあった。それで、人がいっぱい点在しているという状況そのものを認識した上でその中の一人ひとりに呼びかけるんだよ、という意味合いを込めて「人、々、々、々」というタイトルにしました。ずっと考えてつけましたね。

── アルバム自体も『世界/WORLD』というタイトルですし、アメリカに飛んでこれまでと違う環境でレコーディングをするということも含めて、これまでとは違う世界との向き合い方の中でアルバムを作っていったんだと思うんです。どうしてそういう視点の変化が生まれたんですか?

カワノ いろんな理由があるんですけど、一番わかりやすいところで言うと、この2、3年、世界がすごく揺れたじゃないですか。コロナで自由がなくなってしまったというのもありますし、戦争もあって。日本でも安倍元首相の銃撃事件とかがあったり、あと、オリンピックの時も小山田圭吾さんが叩かれたりしたじゃないですか。キャンセルカルチャーというんですかね、人の失敗を過剰に上げつらって、これからの人生を潰してしまいかねないような動きがいわゆる「正義」とされてしまうような情勢があって。そういう、ざっくり言うと世の中が揺れているというのを見た時に、その世の中に対して自分がリンクできていない気がしたんですよね。ライブのフロアとか音楽を通して出会う人たちに対して呼びかける職業でありながら、世の中と全然リンクしていないのにそこの人たちとリンクしようというのは、すごく格好の悪いことだなって正直すごく思ってしまって。

── なるほどね。

カワノ だからある種強制的に、自分でこの大きい世界とのリンクというのを作ろうと思った。それが影響を及ぼしたところがすごく大きいかな、というのはありますね。

── でも、世界とリンクしなくてもいい、という選択肢もあるじゃないですか。逃避するというか、閉じこもるというか。そこで成立しているんだったらそれでいいじゃんという考え方もあるけど、それでは嫌だったんですね。

カワノ 嫌でしたね。嫌だったし、僕が発しているメッセージを正当に届けようとする以上はここから逃げちゃいけないと思った。大きい枠組みから逃げちゃいけないし、揺れている世の中の渦中の人間として発した言葉じゃないと、それはただただカッコつけているだけだなと。そういう反省が一番デカかった。自分の負った痛みとか傷みたいなものを歌に変えてみんなに手渡している以上は──これも変な話なのかもしれないですけど──現在進行形で僕も痛んでいないといけないなって思ったんです。逃げて傷を負わないか、逃げないで傷を負うかという時に、僕はしんどいけどこっちを選ばないとダメだと思ったんですよね。

── 今までも逃げてたとは思わないですけど、よりシビアに向き合うということを選んだ。

カワノ そう。向き合うというか、向き合わなければと思うようになったというのが違いのかな。

── その結果、アメリカから帰ってきた後体調を崩して。体にダメージが来るというのはやっぱり正直ですよね。

カワノ そうですねえ。お医者さんには「過労だよ」って言われたんですけど、俺はあっちでいろんなものを出し切っちゃったんじゃないかなと思っていて。シカゴに置いてきた魂の部分があるんじゃないかなって。ある種の代償というか、その時掲げるものも大きかったし、できたものの成果もデカかったという。

── そうやってボロボロになりながら走ってきて、ここからツアーがあって野音に向かっていく半年間が始まっていくわけですけど、それもたぶん、当初想定していたのとは違う状態だと思うんですよね。

カワノ うん。何事もなければじゃないですけど、僕の体にしろ精神的なものにしろ、何事もなくフラットに向き合った状態でツアーに向かうというのはそれはそれでいいとは思うんですけど、今は図らずも肉体も精神も揺れている状態で、ツアーに臨まなければならないという状況に置かれていて。でも向き合い方としてはただ一点だけというか、死んでもこれはやり切るぞっていう。もちろん死ぬほどの病気ではないとはいえ、一瞬そういう部分に接近した感覚はあるので。こないだ、復帰して弾き語りライブをやったんですよ。お医者さんにも「大きい声を出すのは年内は控えなさい」とか「無理をしちゃいけない」と言われていたんですけど、出ていかないとみんな心配すると思って強行したんです。お客さんも心配しながらも観に来てくれたんですけど、終わった後に声をかけに来てくれた男の子が、僕と喋っていて泣き出しちゃったんです。きっと心配だったのか、それともライブで僕が思うように声が出せてない状態で、不安とか悲しみとかもあったのか、いろんな気持ちがあったと思うんですけど、それを見た時に俺は「ここで終わってもいいからやりきらなければ」って思ったんですよ。理屈じゃなく、そう思った。それがこのツアーの意義として一番かなと思います。

── お客さんとはいえ、他者であるその人が涙を流すような状況を自分が作ってしまっているということですからね。

カワノ そう。もともと僕は、自分たちがやっていることがセンセーショナルに見られるのは嫌いだったんですよ。炎上商法みたいだし、悪く言えば、それってちょっとフェイクなんじゃないかと。そういうものではなくて、みんなには僕らを自然と見るような感じでバンドに向き合ってほしかったし、ライブにも来てほしいなって。そういうふうにこれまではできてたと思うし、そこは自分でも誇りに思っているんですけど、今回はアメリカに行くっていう時点でそういうバイアスはかかってくるし、もっと言えば日本帰ってきたらライブでは新曲しかやらないし、ボーカルはもう目がギンギンで、最終的にぶっ倒れたとなると、それはどうしてもセンセーショナルな見られ方をしてしまうよなっていう。そこはちょっと忸怩たる思いがあるというか、もっとフラットにストレートに見られればよかったんだけど、そうもいかなくなってしまったので。

── それは予期せぬことだったかもしれないですけど、でも今回リリースに際してはプロモーションもこれまで以上にやっているし、カワノさんのほうからドアを開けに行っている感じもするんですよね。

カワノ ああ。それも僕発信ではないんですけど、やっぱり周りのスタッフの人たちに言われたのは、「今回のアルバムは今まで隠していた部分も全部出して書いている」と。これは僕の持論ですけど、音楽に限らず表現というものはある程度デフォルメが効いていた方が人って感動するものだと思っているんですよ。写真に例えることが多いんですけど、化粧品の広告とかそうだけど、肌がきっちりレタッチされて美しい状態で出ているものに対して、今作はレタッチもしない状態というか、顔に近づけば産毛も浮いているし、毛穴も写っている。そういう状態のものは捉えようによってはちょっとグロテスクだし、フィルターをかけていないぶん、聴いた人にとっては逆に理解ができないものになってしまう。でも、矛盾するようだけど、そういうものを出した結果、理解ができないってなっちゃうのはかわいそうだよって言われたんですよ。

── ああ。

カワノ そうなると今まで僕のことを理解しようと思って頑張ってくれた人も、人に分かってもらおう、人に何かを及ぼそうと思って曲を書いていた僕自身も裏切ることになる。だから矛盾してるようだけど、自分のフィルターを取ったものを出している以上は、こういう取材の場でもちゃんと窓を開けて、自分のことは全部洗いざらい話をして残していかないといけないんじゃない?って。僕は「確かにそうだ」と思ったんです。だから、あらかじめ「一瞬汚いものが見えるけどいいですか?」っていう。

── そうやって受け取る人をガイドしていくというか、説明してあげるというか。

カワノ うん。その枠の中にちゃんと誘ってあげるようなものを作っていくというか。

── このツアーを通して新たな出会いも生まれていくでしょうし、野音はCRYAMYにとってはひとつの集大成ですけど、同時にここから未来が生まれていく始まりにもなるのではないかと期待しています。どんなツアーになるでしょうね。

カワノ 僕らのフロアの空気って特殊ではあるとは思うけど、どんな空気にも許容されるということをずっと目指してきたし、それはやれてきたと思っているので、今回もそうなるとは思います。僕から何かを望むとかっていうことではなく、みんなが望んだものを僕が返せる、そういうものになればいいなと思っています。

── まだ野音の先みたいなことは考えていない?

カワノ 何も考えてないですね。考えられない。だからこそそこに集中してるっていうのもあるし。全然予測つかないですね。「どうなるんだろう」ってずっと思ってますね。

Text:小川智宏 Photo:小境勝巳

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<公演情報>
CRYAMY WORLD TOUR 2024 『人、々、々、々』
DAY0『HAPPY? NEW YEAR』 ※ワンマンライブ
1月5日(金) 東京・下北沢DaisyBar ※SOLD OUT

CRYAMY WORLD TOUR 2024 『人、々、々、々』
1月8日(月・祝) 長野・松本ALECX  w/SuU、Hue's
1月13日(土) 宮城・仙台MACANA w/JIGDRESS
1月19日(金) 埼玉・HEAVEN'S ROCKさいたま新都心VJ-3 w/小林私
1月21日(日) 神奈川・F.A.D YOKOHAMA w/Khaki
1月28日(日) 大阪・Yogibo META VALLEY w/a flood of circle
2月10日(土 )愛知・名古屋CLUB UPSET w/pavilion、突然少年
2月11日(日) 京都・磔磔 w/Helsinki Lambda Club、Hammer Head Shark
2月24日(土) 広島・4.14 w/鋭児
2月25日(日) 岡山・CRAZYMAMA 2nd Room w/鋭児、天国注射
3月2日(土) 福岡・LIVEHOUSE CB w/LOSTAGE
3月3日(日) 熊本・Django w/LOSTAGE
3月15日(金) 兵庫・神戸太陽と虎 w/Analogfish、KING BROTHERS
3月16日(土) 香川・高松TOONICE w/Analogfish
3月20日(水・祝 )福島・club SONIC iwaki w/時速36km
4月6日(土) 新潟・GOLDEN PIGS RED STAGE w/w.o.d.
4月7日(日) 石川・金沢van van V4 w/w.o.d.
4月14日(日) 北海道・札幌SPiCE w/時速36km
料金:前売4,000円/当日4,500円
※オールスタンディング、入場時ドリンク代が必要
チケット情報:https://w.pia.jp/t/cryamy-tour/

CRYAMY特別単独公演『CRYAMYとわたし』
6月16日(日) 東京・日比谷野外大音楽堂
料金:全席指定2,500円
チケット情報:https://w.pia.jp/t/cryamy-yaon/

CRYAMY 2nd フルアルバム『世界/WORLD』
発売中
価格:CD 3,000円、カセット 3,500円(税別)

『世界/WORLD』ジャケット画像

1.THE WORLD
2.光倶楽部
3.注射じゃ治せない
4.豚
5.葬唱
6.待月
7.街月
8.ウソでも「ウン」て言いなよね
9.天国
10.人々よ
11.世界

CRYAMY 2nd ALBUM Digest Movie

関連リンク

■CRYAMY公式サイト:http://cryamy.tokyo/