現在公開中のウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作『ウィッシュ』日本語吹替版で、主人公アーシャの相棒である子ヤギのバレンティノ役を好演している山寺宏一。“七色の声を持つ男”と評され、人気実力を兼ね備えた山寺の功績は枚挙に暇がないが、なかでもディズニー作品とは特に深い関わりを持つ。そこでドナルドダックをはじめ、『美女と野獣』(91)の野獣や『アラジン』のジーニーなど、これまで山寺が演じてきたバラエティあふれるディズニー・キャラクターをおさらいしていこう。

【写真を見る】あの役も山ちゃんだった!ディズニーに欠かせない声優、山寺宏一が演じたキャラクターを振り返り

タレント、声優、歌手など様々なフィールドで八面六臂の活躍を見せる山寺。朝の子ども向けバラエティ番組「おはスタ」では2020年までMCを務め、数多くのレパートリーを持つモノマネで、定期的モノマネ番組にも参加。俳優としても、近作では大河ドラマ「鎌倉殿の13人」などにも出演している。声優デビュー作は1985年のOVA作品「メガゾーン23」だが、声優歴はすでに38年となり「かいけつゾロリ」のゾロリや「それいけ!アンパンマン」のジャムおじさん、チーズなど長寿番組の人気キャラクターの声も多数担当している。そんな山寺のキャリアにおいて絶対に外せないのがディズニー作品だが、初めて吹替えを務めたのは、アニメーション史上初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされた不朽の名作『美女と野獣』の野獣役だった。

本作には特別な想い入れがあったようで、過去に実施したインタビューでは「僕にとって『美女と野獣』は、ディズニー作品で最初に関わらせていただいた記念すべき作品。この作品をやることで、これから声優としてやっていけるんじゃないかという自信を持てた作品です」と自身のキャリアにおいて重要な作品になったことを明かしていた。

いまや声優スキルの高さから“七色の声を持つ男”と言われている山寺だが「期待されるのはいいことだと思うし、それに応えたいとは思います。でも、声の仕事って、そんなに完璧にできるわけがないんですよ。微妙なニュアンスまで僕に出せるのか?ほかの人がやった方がもっとよかったんじゃないか?と思う時も多々あります。でも、期待されることがうれしいので、やってやろう!とは思います」と、1つ1つの仕事に対してあくまでも謙虚な姿勢で、試行錯誤をしながら期待に応えてきたことがうかがえる。

■愛らしい動物たちから、真実の愛を囁くいい声すぎるキャラクターまで

ディズニー作品における山寺といえば、ドナルドダックなどの動物の鳴き声系から、『アラジン』のジーニーなどの愉快なマシンガントークキャラ、“イケボ”を最大限に生かした『美女と野獣』の野獣などのシリアス系キャラまで、様々な役柄を好演してきたがどれも印象に残るものばかり。

例えば、ウォルト・ディズニー・カンパニー本社のお墨付きであるドナルドダック役は、声帯を使わず息を使って楽器のようなイメージで声を出しているそうだが、まさに山寺にしかなし得ないようなスキルの高さだ。そういう愛らしい動物らしさを絶妙な塩梅で入れ込んだ「リロ&スティッチ」シリーズのスティッチも、愛くるしさとやんちゃさを内包した声色がすばらしかった。

『シンデレラ』(50)では、シンデレラのためにドレスをあつらえる愉快なネズミのジャック役を、野獣役では孤独さや尊厳と共にベルへの至高の愛を表現。アニメ版、実写版ともに演じた『アラジン』のジーニーや『トレジャー・プラネット』(02)のロボットB.E.N(ベン)、『ムーラン』の守護龍ムーシューなど、おしゃべりなお調子者キャラにも定評があるし、「シュガー・ラッシュ」シリーズのラルフなど、ヒロインを支える重要なポジションのキャラも数多く演じてきた。特筆すべき点は、山寺は似たようなキャラクターを演じる時も、少しずつ声色を変えていて、きっちりと演じわけているところで、これぞ匠の技といっても過言ではないだろう。

とはいえ、「シュガー・ラッシュ」のラルフ役を演じた際に実施したインタビューでは「いままでのディズニー作品だったら、ほかの人は出せないであろう声のキャラクターが多かったんです。ドナルダックとかスティッチとか、たいてい発声自体がやっかいなものが多くて。でも、今回はラルフ役ってことで、『これ、僕でいいんですか?』と思いました。というのも、ラルフのようなガタイのいいキャラクターを、主役としていただいたことはあまりなかったので」と最初は戸惑いもあったとか。

でも、結果的には「本当にやり甲斐のある役でうれしかったです」と語る山寺。「ラルフは悪役ですが、ゲームの中で悪役を演じているだけで、今回はそのバックステージ、すなわち私生活を描くわけで。本当はとても優しく、ちょっとマヌケなところもあるラルフ。いろんな面を持っているので、それをまとめて出すのに苦労しました」というコメントからも、常にキャラクターの内面に寄り添い、声を当ててきたのかという姿勢が垣間見える。

■『ウィッシュ』バレンティノの愛くるしい見た目と低音ボイスギャップ萌え

いまや「ディズニーの吹替といえば山寺宏一」といわれるほど、ディズニー作品に欠かせない“レジェンド”的な存在となった山寺。だからこそウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作という冠つきの『ウィッシュ』への参加は、ディズニーファンたちも熱望していたに違いない。

アナと雪の女王(13)のスタッフ陣が贈る『ウィッシュ』の主人公は、どんな願いも叶う魔法の王国の驚くべき真実を知ってしまったアーシャ。ある日、すべての“願い”が魔法を操る王様に支配されているという衝撃の真実を知ってしまった彼女は、みんなの願いを取り戻したいと星に願う。すると“願い星”のスターが空から舞い降り、アーシャとともに王国に奇跡を巻き起こしていく。山寺が演じたのはアーシャの相棒となる、生後3週間の子ヤギ、バレンティノだ。

山寺は「まず、参加することができて非常にうれしく、光栄に感じています!100周年記念の作品が作られると聞いてから、なんとかして参加したいと思っていたんですが、これまであまりにたくさんの作品に参加させていただいているので、もうないかなあと思っていたんです。ですが、非常に重要な役をいただきまして、本当にそういう意味では“願い”が叶ったという感じでございます!」と喜びを語っている。

バレンティノは、どんな時もアーシャの味方で頼りになる相棒だが、スターの魔法で人間の言葉を話せるようになる。山寺が当てた声は、キュートな外見からは想像できない低音ボイスという点がギャップ萌えで、大いに反響を呼んだ。自身が演じたバレンティノの魅力を、山寺も「まさに見た目の可愛さと声のギャップですね」と語っている。「生まれてそんなに経っていない子ヤギなので、見た目は本当に可愛いんですが、スターの魔法によって渋い声になっていて、声質だけじゃなくてしゃべり方も、なにかいろいろなことを心得たベテランというか、大御所の風格があるんです。そのギャップがとても魅力的だなと思います」。

また、山寺は、数多く声を当ててきたディズニー作品が世界中の人を魅了し続けている理由について、「ウォルト・ディズニーさんの想いをずーっと、ディズニーに関わる方々が、見事に継承しているからだと思います。ディズニー・アニメーションに関しては圧倒的なクオリティー、それは技術的なことだけじゃなくてストーリーや、想いがとても高く、そして誰が見ても楽しめるという、そういうところじゃないかと思うんです」とコメント。

さらに「ウォルト・ディズニーさんは一切の妥協を許さない方だと伺っていますが、関わる方みんながこだわりにこだわって、想いを込めて作っているんじゃないかと感じます。そうでなければこんなに長い間、これだけたくさんの作品で、皆さんに夢を届けたりはできないと思うんですよね」と、まさにウォルト・ディズニーの想いを継承する1人である山寺ならではの熱い気持ちを口にしている。

ディズニー映画の集大成的な作品という評価を受けている『ウィッシュ』は、ディズニー御用達声優である山寺にとっても、その華麗なるキャリアにおいて特別な1本になったのではないだろうか。歌と踊りと魔法が散りばめられた本作は、ぜひ大スクリーンで体感していただきたい。

文/山崎伸子

『美女と野獣』の野獣など、数多くのディズニーキャラクターを演じてきた山寺宏一の軌跡/『美女と野獣』ディズニープラスで配信中[c] 2023 Disney