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 愛する人を亡くした悲しみに向き合うことは、私たち人間が体験するもっとも困難な試練のひとつと言える。これは、愛する人があまりに突然に、若くして悲惨な亡くなり方をした場合、とくに当てはまることだ。

 このような喪失の後に襲ってくる耐え難い苦しみのひとつは、その死に意味を見い出すことだ。

 残された者は、愛する者の死に至る経緯を知るだけでなく、故人との関係や今後人生を歩んでいくにあたって、その死がどのような意味があるかを理解しなくてはならない。

 心の傷を回復させるには、無理に絆を絶つ必要はないという。そうした観点から死者と疑似コミュニケーション体験ができる「サイコマンテウム」療法なるものも存在し、体験した人の多くは悲しみが大幅に軽減したと述べている。

【画像】 愛する人の死後、つながりを絶つべきか、維持するべきか?

 昔から、悲しみを克服するためのカウンセリングは、故人との絆を断ち切り、前に進むために過去を葬り去るというアプローチの仕方だった。

 故人の持ち物を持ち続ける、しょっちゅう故人のことを考える、故人の墓を訊ねるといった、故人とのつながりは、解決できない複雑な悲しみとして分類されることが多かった。

 こうした視点は、フロイトの考えが基になっているようだ。フロイトは、悲しむことの大きな目的は、絆を断ち切り、新たに夢中になれるものを獲得することだと指摘している。

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無意識のうちに故人とのつながりを持とうとしている人は多い

 故人との絆を絶つことは、自然な悲しみのプロセスに反して、故人との意味あるつながりを必要とし続けることを軽視している可能性がある。

 昔の研究では、遺族の44~50%がなんらかの形で故人との接触を無意識のうちに体験していることがわかった。

 最近の調査では、この数字は、こうした体験を過小評価している可能性があることを示している。

 故人との接触体験で一般的なのは、故人の夢をみる、故人ゆかりの音が聞こえる、故人の存在を感じる、故人との会話などがあげられる。

 こうした体験は、性別、年齢、民族、教育レベル、収入、宗教、無宗教の違いに関係なく、一貫しているようだ。

故人との絆を無理やり断つ必要はない

 これは、故人とのなんらかの形のコミュニケーションが、悲しみのプロセスでは比較的普通のことである可能性を示している。

 より現代的なグリーフセラピー(悲嘆療法)のアプローチ法は、こうした自然のプロセスをサポートするようにしていて、「継続的な絆」と呼ばれている。

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 このような観点は、悲しみは終わることのない継続的なプロセスだという考えからきている。

 故人とのつながりを断つのではなく、そのまま保つのが正常だとしていて、そのほうが悲しみを癒

すことができる場合があるという。

 「死後コミュニケーション(ADC:after-death communication )」を促進するさまざまなテクニックを通じて、こうした継続的な絆をサポートするセラピストもいる。

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死者とコンタクトできるサイコマンテウムの効果

 とくに興味深いのは、「サイコマンテウム」というテクニックだ。精神科医で哲学者のレイモンド・ムーディが1994年に考案したもので、鏡を見つめたり、占いに頼る昔のアプローチを刷新した感覚遮断テクニックだ。

 サイコマンテウムは、黒一色の閉ざされた狭い部屋だ。ここには、座り心地のいい黒い椅子、黒いフットレストが置いてある。

 椅子の向かい側の壁の上のほうには、椅子に座る人自身の姿が写らない角度で鏡がかかっていて、部屋には常夜灯のような明かりがひとつある。

 ここに座った遺族に、時間をかけてゆっくりと故人について詳しく語ってもらう。

 それから、澄んだ心と故人と接触する明確な意思をもってサイコマンテウムに入る。この部屋に入ったら、ただリラックスして、鏡を見つめ、次の45分間になにが起こるかを待つ。

 この技術を使った長年にわたる研究では、サイコマンテウムに入った48~63%の人が、愛する故人となんらかの接触をしたり、幻視、存在を感じる、

 幽体離脱、音、声、におい、時間感覚の歪みなどの異様な体験をしている。重要なのは、このサイコマンテウムに参加した人の多くは、死別の悲しみが大幅に軽減したと報告されていることだ。

 例えば、27人という小規模なサイコマンテウム研究では、ADC(死後コミュニケーション)を体験した参加者は悲しみと喪失感が大幅に改善されたことが示された。

 おもしろいことに、とくにADCを体験しなかった参加者も、同様に悲しみが軽減されたという。

 100人の参加者を対象とした追跡調査でも、悲しみ、嘆き、切望、コミュニケーション不足、後悔、自責の念が大幅に軽くなり、賞賛、感謝、愛、許しの感情が増したとのことだ。

 参加者がサイコマンテウム中にADC体験をしたかどうかは、関係ないようだ。

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仮想現実(VR)を利用したサイコマンテウムも

 この治療法をさらに進める試みとして、研究者のマリリン・シュリッツ氏は、仮想現実(VR)型のサイコマンテウム体験を考案した。

 ここではトランス状態を誘発させ、従来のサイコマンテウム体験に共通する状況を模倣するようデザインされている。

 参加者は、指示を聞きながら姿が見えない他者と遭遇する方向へと仕向けられる。音声によるガイドの後、およそ18分間その空間に留まり、その間に見たもの、聞いたもの、感じたもの、受けとった情報すべてを言葉で表すよう求められる。

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仮想サイコマンテウム体験の始まりによく似た夕陽のイメージ / photo by iStock

 この研究プロジェクトの参加者に与える影響と有効性は驚くべきものだった。

 ニューロメディテーション研究所でテストを受けた11名の参加者全員が、かなりの異常体験を報

告していて、多くは愛する故人との明確なADCだった。

 ほとんどが、体験中に涙を流し、その後気分が良くなったと言っている。

 92人の参加者の完全なデータセットはまだ分析中ではあるが、悲しみを癒すという意味で、この方法はかなり有望と思われる。

 すでに終わって済んでいる初期の研究結果では、現実のサイコマンテウムもVRのサンコマンテウムも、同じような影響を及ぼすが、参加者が完全にこの体験に没入できる程度によって左右される可能性があることがわかった。

 この結果は、どういう被験者がこうしたアプローチに適しているのかを特定し、将来の研究の方向性を決めるのに役立つかもしれない。

 VRサイコマンテウムを使った将来の研究で、こうした介入の有用性が継続的に証明されれば、この治療法へのアプローチがより容易になる可能性がある。

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 つまり、現実のサイコマンテウムとVRサイコマンテウム療法を使った研究は、悲しみを癒すセラピストにとって効果的な治療ツールとして有望であるといえる。

 死後のコミュニケーションが本物であることは、決して証明できないかもしれないが、それは必要なことでも、重要でもないかもしれない。

 故人とのコミュニケーションという主観的な体験が、結果として強い感情的な影響をもたらし、精神的な苦しみや悲しみを癒してくれる可能性があることは明らかだろう。

 同様のアプローチに関する今後の研究は、肯定的なADC体験をめいっぱい引き出す特徴に焦点を当てることで、臨床医や研究者がそれぞれの患者にどのような介入が適切かを特定するのに大いに助けになるだろう。

References:Is There a Therapeutic Benefit to After-Death Communication? | Psychology Today / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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愛する人を失った後の心のケア。死者と交信する「サイコマンテウム」で悲しみが軽減