巷には、さまざまな「儲け話」が溢れています。しかし、資産を増やすにはリテラシーが不可欠であり、ウマい話には必ず裏があることを忘れてはなりません。本稿では、テクニカル分析の解説サイト『テクニカルブック』を運営する株式会社アドバンの代表取締役・田中勇輝氏が、プロのトレーダーにFX取引を委託することで月10~20%もの利益を得られると謳うサービスに全財産を投じ、そのすべてを失ってしまった女性の事例を基に、身近に潜む投資詐欺とそれを見極める4つのポイントについて解説します。

「知識ゼロでも利益」を信じた37歳の独身女性

地元の小さなカフェでアルバイトをしている37歳の独身女性、田山幹子さん(仮名)。母親と同居している彼女は、将来のために少しずつ貯金をしていました。ただ、彼女の貯金は80万円ほどで、余裕のある生活ができるように資産を大きく増やしたいという願望があったといいます。

そんなある日、SNSでFXの「PAMM(Percentage Allocation Management Module)」というサービスに関する投稿を目にしました。PAMMとは、口座に入金した資金を、自分の代わりにプロがトレードしてくれるものです。優秀なトレーダーをみつけることができれば、知識がなくても大きな利益を得られる可能性があります。

投資の勉強はしていないものの、資金を増やしたいという思いが強かった田山さんは、PAMMが自分にぴったりのサービスだと感じました。そして、とあるPAMMサービスを紹介するWebサイトに出会います。

このサイトでは過去の成績を示すスクリーンショットが掲載されており、月あたり10~20%の利益を安定して出していることを謳っていました。過去の取引履歴のスクリーンショットがあったことで信用した田山さんは、思い切って自分の全財産である80万円をPAMMに投じる決断をします。

「実績通りに運用できれば、30%の手数料を差し引いても資産は1年で優に2倍を超える計算。倍々ゲームで、すぐに1,000万円を超えると思っていました」と、当時の心境を振り返る田山さん。指定された海外事業者でPAMM口座を開設して、実際に入金すると、しばらくの間は資産は順調に増えていったといいます。

しかし、ある日突然大きく資産が減り、それまでの利益が一気になくなっていることに気づきます。トレードなので負けることもあるとは思いつつも、不安を感じ始めた田山さんは入金した半分を出金しようと考えますが、「いまは取引中のためポジションを解消できない」と対応してもらえません。

徐々に不安が大きくなるなか、しばらくすると資金はさらに大きく減少し、あっという間にゼロになってしまいました。「破産したので返金できない」と一方的に通知され、投資資金が返ってくることはありませんでした。

田山さんは少しずつ貯めてきた貯金を大きく増やすどころか、逆にすべて失ってしまったのです。

頭に入れておくべきPAMMの構造

田山さんは、プロが運用してくれるということに魅力を感じてPAMMを始めました。しかし、自分の大切な資金を預けるのであれば、PAMMがどういう仕組みのものなのか、もう少し深く理解しておく必要があったでしょう。

まず大前提として、PAMMの紹介者やトレーダーも利益を得るために行動していることを認識しておく必要があります。実はPAMMを通じて彼らは、紹介報酬と運用手数料という2種類の利益を得ています。

【紹介報酬】 PAMMのプラットフォームを提供する海外事業者から受け取る、いわゆる「IB報酬」と呼ばれるもの。トレード毎に発生する手数料(スプレッドを含む)の一部が、紹介者に分配される仕組みになっている。 【運用手数料】 トレードを代行することに対する報酬。PAMMでは、投資家の資金を運用して得た利益から一定割合(田山さんのケースでは30%)が差し引かれる。なお、損失が発生した場合には、利用者の資産は減るが、運用者がペナルティを負うことはない。

つまり、PAMMを提供する側の立場からみると、取引を重ねるほど紹介報酬を得られると同時に、損失のリスクを負うことなく運用手数料を得られる構造になっている訳です。最終的には利用者の資産がなくなることを前提に、紹介報酬や運用手数料を得ることを主目的として運用が行われることも考えられるでしょう。

そもそもPAMMのサービスは、基本的に金融庁に無登録の海外事業者のプラットフォームを利用することになります。こういった領域は投資家を守るための国内規制が機能しづらく、詐欺まがいの行為が行われるリスクが高いと考えておくべきです。

田山さんはWebサイトに掲載されていた取引履歴のスクリーンショットを信用して、PAMMを利用することを決めましたが、こういった取引の証拠画像はいくらでも偽造できます。現実の結果を踏まえると、謳われていた実績が本物かどうかは非常に疑わしいところ。単に投資に失敗したというだけでなく、詐欺の可能性も高いでしょう。

身近にアクセスできる詐欺まがいの投資話

ここで、23年10月に筆者らが独自に実施した投資詐欺の手口に関する調査結果を紹介します。1つ目は、投資詐欺と接点を持った経路についてです。

投資詐欺に接触した人のうち、もっとも多かった接触経路は「メール」(31.2%)でした。2番目以降には、「SNS」(29.4%)、「Webサイト」(28.2%)が続きます。田山さんのケースではSNSでPAMMに興味を持ち始め、最終的にWebサイトからPAMMへの投資を決めていました。これは、投資詐欺に遭遇する典型的な流れの1つだったといえるでしょう。

続いて、接触した投資詐欺による想定被害金額についての調査結果です。

金額を回答した人のうち、もっとも多かったのが「50万円~100万円未満」(16.5%)でした。これに「10万円~50万円未満」(15.2%)、「100万円~300万円未満」(12.3%)で続いています。ニュースなどでは、もっと大きな金額の詐欺被害が報じられることもあります。しかし、実はこういった取り返しのつかない金額だけではなく、数十万円程度の被害も身近に数多く起こっていることが推測されます。

あやしい投資情報に騙されないために意識すべき4つのポイント

今回は、投資知識がないなかでSNSの投稿からPAMMに興味を持ち、貯金を失った独身女性のエピソードを紹介しました。

インターネットが発達した現在、誰でも手軽に優良な情報にアクセスできるようになったのと同時に、真偽の不確かな情報に接する機会も増えています。最後に、今回のエピソードを踏まえて意識しておくべきポイントを、4つ紹介します。

・投資の運用代行には金融庁の投資運用業の登録が必要 日本において、投資の運用代行を行うには金融庁で投資運用業の登録を受ける必要があります。登録されていない業者は正規の手続きを踏まずに運営を行っており、投資家が不当な損害を受けるリスクが高いと考えられます。適切な登録を確認することは、安全に投資を行うための第一歩です。 参考:金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧 - 金融商品取引業者登録一覧」 ・海外の無登録業者は詐欺に利用されやすい PAMMのプラットフォームを提供する海外の無登録業者は、日本の法律に基づく監督を受けていません。そのため、これらの業者には透明性が欠けており、詐欺に利用されるリスクが高い環境であることが少なくありません。不当に不利益を被らないためにも、信頼性の低い環境での投資は避けるようにしましょう。 ・資産を増やすには投資リテラシーが欠かせない PAMMサービスは、自分ではなにも考えずに、他人にお金を預けて運用してもらう仕組みです。しかし、これでは自分で市場を理解して投資判断を下すスキルを身に付けることはできません。資産を増やすには投資リテラシーが欠かせません。楽に儲けようとするのではなく、良質な情報や教材を通して、自分の投資スキルを高め続けることを意識しましょう。 ・なぜウマい話を持ちかけられているのか考えよう PAMMに限らず、見知らぬ人が高利回りの運用話を紹介してくれるのは、紹介する人が利益を得られるからです。彼らがどのように利益を得ようとしているのか、理解した上でその話を吟味する必要があります。ウマい話には必ず裏があるものです。

あやしい儲け話から自分の資産を守るためには、常に情報の信頼性を確認し、必要であれば専門家の意見を求めることが重要です。特定の広告や記事を妄信することなく、必ず複数の信頼できる情報源をチェックしましょう。

正しい情報に基づいて構造を理解することで、初めて適切な投資判断が可能になります。

(※写真はイメージです/PIXTA)