いよいよ、日本銀行がマイナス金利からゼロ金利へ転換するのではないか……、そんな期待が高まっている。最近は、メディアでも「金利のある世界」というフレーズがしばしば聞かれる。日本の金融市場もやっと「正常化」が話題にできる時代が訪れようとしているわけだが、世界的には依然としてウクライナイスラエルで戦闘が続いている。加えて、2024年は世界の流れを大きく変えてしまう可能性を秘めた米大統領選挙もある。為替市場は、2024年もまた大きく動く1年になるのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに1月の為替相場の見通しを伺った。

――1月もしくは4月にも日銀の利上げがあるのではないかと予想されていますが……?

 27日夜のドル円相場では、植田日銀総裁がNHKテレビのインタビューに答えた内容に市場が反応する場面があるなど、日銀の動きに市場は敏感になっています。インタビューでは、「今年の春それを少し上回るぐらいの賃上げが決定されることが望ましい」と述べていますが、そのうえで金融政策変更のタイミングを聞かれると、「中小企業の賃金データが完全に出ていなくても、ある程度前もっての判断は可能だ」と述べました。

物価上昇に見合った賃金の上昇が見通せる「確度」によっては、早い時期に金融政策転換のタイミングがあることを示唆しました。市場は、中小企業のデータが出ていない段階でも判断できる、と述べたことが早期のマイナス金利解除を期待したようです。とは言え、1月23-24日に行われる日銀の金融政策決定会合でのマイナス金利解除は、難しいのではないでしょうか。

 米国のパウエルFRB議長は、前回のFOMC(連邦公開市場委員会)で2024年の利下げの回数にまで言及するような「ハト派」に大転換しましたが、日銀は米国の利下げ前にゼロ金利脱出を図るのではないか……、と見る人もいます。しかし、米国利下げのタイミングもいまだに不透明であることを考えると、そう簡単には10年も続いた異次元の金融緩和から脱出するのは容易ではないと思われます。

――では、その米国の利下げはいつ頃になるのでしょうか?

 これもコンスタントに発表される景気指数次第と言わざるを得ません。年明け早々の1月5日には、米雇用統計が発表されますが、そこで想定外の数字が出るとFRBのハト派姿勢もどうなるか不透明です。

 ちなみに雇用統計では、12月の非農業部門雇用者数の予想は17万人増(11月は19万9000人増)。失業率は3.8%と11月の3.7%より若干悪化する予想になっています。1月11日には「CPI((消費者物価指数)」の結果も発表されますが、まだまだFRBが利下げに踏み切る判断を下すのは難しいと思われます。

 実際に、直近のケースシラー住宅価格指数は主要20都市で前年同月比「4.9%」と予想外の上昇を見せ、一部地域では供給不足による物件の争奪戦が始まっている、とさえ言われています。不動産市場が堅調であることを考えると、米国の利下げのタイミングは、私は早くて6月ごろではないかと考えています。

――日銀の金融政策転換はいつになるんでしょうか、その影響は?

 FRBが早期に利下げを開始する可能性は少ないと考えると、日銀が金融緩和から脱出するのも早くて4月ぐらい、と見るのが自然かもしれません。また、最初の段階としてはマイナス金利をゼロ金利にするだけのことですから、依然として「金利のある世界」の実現にはなりません

 私は金利のある世界は、早くても秋以降ではないかと考えています。それまでに様々な景気指数が出てくるわけですから、これらの結果次第によってこの先も不透明になります。さらに2024年は、戦争など多くの課題が残り、米大統領選挙などのイベントも控えており、通常の年よりもずっと不透明な状況が続くと思います。

たとえば、ウクライナイスラエルの戦争に加えて、アジアだけでも1月には台湾の総統選挙があり、韓国は4月に総選挙があります。結果次第では為替も含めて大きく動く可能性があります。2024年1年間で見れば、ドル円相場のレンジは「1ドル=130円から160円」ぐらいになるのかもしれません。来年もまた、ボラティリティの大きな相場になるということです。

―― 2024年で特に注目しているものは何でしょうか?

 やはりアメリカの大統領選挙だと思います。トランプ大統領の再選が実現したら、世界は大きな変化を遂げるかもしれません。ロシアによるウクライナ侵攻もまったく違った展開になる可能性があります。

 世界の貿易も、再びアメリカ第一主義に逆戻りして高い関税に引き上げられるなど、経済に与える影響は甚大です。為替市場も、2016年にトランプ大統領が誕生したときには、1ドル=100円を一時的に割り込む超円高に進みました。防衛、行政、司法……、何もかもが変わる可能性があり、それだけの大きなインパクトがあると思います。日本にとっても、また世界にとっても正念場の1年になるかもしれません。

――1月の予想レンジを教えてください。

 先日発表された11月の米国の個人消費支出(PCE)では、コア価格指数が6か月間の年率ベースで「1.9%」の上昇率となり、FRBが目標としている「2%」を割り込むなど、パウエル議長の「ハト派発言」を正当化させる根拠となりました。

 日本の消費者物価指数でも、日銀が重視する「基調的変動」として活用している独自のコア指数が、11月は揃って前月に比べて鈍化しました。刈り込み平均値が3.2%(前月)から「2.7%」へ。加重中央値は同2.2%から「1.7%」へ、そして最頻値も同2.6%から「2.4%」へと上昇率が鈍化しました。

 欧州圏でも、顕著にインフレ率は鈍化傾向を示しており、ドイツなどはすでにリセッションではないかと言う声も聞こえています。世界的なインフレ鈍化の中で、それでも為替市場は変動幅の大きなレンジで動くことになりそうです。1月の予想レンジは次の通りです。

●ドル円……1ドル=138.5円-143.5円
●ユーロ円……1ユーロ=152円-159円
●ユーロドル……1ユーロ=1.08ドル-1.1350ドル
●英国ポンド円……1ポンド=175円-183
●豪ドル円……1豪ドル=94円-98円

――来年の為替相場では、どんな点に注意すべきでしょうか?

 これまで紹介した様々なイベント以外にも、日本では新NISAのスタートがあり、政治では自民党の政治資金規制法違反の問題や自民党総裁選(8月)などがあり、為替市場も含めて金融市場全体が大きく動くような相場になる可能性があります。

 変動幅の大きな市場では思い込みに走らず、利益が出たら小まめに利益を確定させる……、そんなトレード法を心がけましょう。(文責:ウエルスアドバイザー編集部)。

日銀、ゼロ金利解除はいつになるのか?外為オンライン・佐藤正和氏