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走行中にタイヤが外れ女児にあたった軽自動車(写真:共同通信

11月14日に、札幌市西区を走行中の軽自動車のタイヤが外れ、4歳の女の子に直撃した痛ましい事件があった。12月1日には、青森県八戸自動車道で走行する大型トラックから外れたタイヤが衝突し、30代の男性作業員が死亡する事件も。また12月11日には、宮城県内の山道を走っていたトラックの後ろタイヤ2本が脱輪し、軽トラックに正面衝突する事件も起きている。

国土交通省によると、タイヤの脱落事故は、2002年4月から2022年3月までに1188件発生。冬(11月〜3月)に集中して、冬用タイヤの交換後の1〜2カ月に集中している。

この時期にタイヤの脱輪事故が多い理由を、交通事故鑑定人で「交通事故鑑定ラプター」の中島博史所長に聞いてみた。

「冬用タイヤに交換するときのナットの締め付け不足が一番の原因だと考えています。雪が降りはじめたタイミングで慌てて冬用タイヤを交換するケースが多く、工場やディーラーに交換作業が殺到。予約ができない、間に合わないという理由から自分で交換する人が増えます。

ナットを締めつけるときの『力』には規定があり、締め付けが弱くても強くても不適切です。締め付けが弱いと、緩みやすいことは感覚的にわかりますが、締め付けが強すぎると、車軸側についているボルトに負担がかかって折れてしまうことも。その結果、脱落事故が起きてしまうのです」

タイヤ交換はできればプロに任せた方がいいようだ。かりに自分でタイヤ交換をする場合には、トルクレンチで行えば適切な力加減でナットを締めつけられる。脚で踏むようにしてナットを締めたりするのは厳禁だ。

「ナットを締めつけるときに、ホコリや砂がはさみこまれることがあります。適正な力で行ったとしても走っていくうちにホコリや砂がすれて、そのすき間にわずかに緩みが生じることも。プロにタイヤ交換を頼んだ場合でも、走る前には目視で確認する。定期的にナットが緩んでいないか点検することが重要です」

また、タイヤが脱落する場合は、9割以上が左後輪だという。

「大型車の場合に限られますが、左側の後輪の脱輪事故が非常に多いのは、左側通行で左折するときに、左の後輪がもっとも小さい半径で曲がるため、捻られる力が一番かかります。その結果、左後輪のタイヤに大きな負荷がかかりやすく、ナットの緩みが少しでもあれば、その緩みが拡大して脱落しやすくなるのです。

また、道路は水はけをよくするため、中央がやや高くなっていて、左下がりの傾斜になっています。走行中に左タイヤに負担がかかることも要因のひとつでしょう」

さらに、脱輪事故が増えた背景には、2010年にトラックのナットを締める向きが、国際規格に変更されたことによる可能性があるという。

「それまで大型者の左タイヤは、進行方向の『左まわし』のナットで締めていましたが、2009年から2010年にかけて、JIS(日本産業規格)からISO(国際標準化機構)に変更され、すべてのタイヤが進行方向に関わらず『右まわし』のナットで締めるようになりました。

この規格変更は、トラックの輸出のためで、工場で国内用、輸出用と別々に部品を作っていると非効率的であるためですが、現場のエンジニアの間では、脱輪事故が増えるのではと危惧する声がありました」

「右回しのナットに変更したことで、大型者のタイヤが外れる事故が増えたかどうかは国が公式にテストしたわけでもないため因果関係はハッキリしていません。

しかし、右側通行が多い欧米の先進国では、右後輪に負担がかかりますが『右回し』のナットなら締めつけが緩むことはあまり考えられません。

またイギリスは日本と同じ左側通行ですが、馬車文化だったこともあり、歩行者優先の日本と違って車両を優先して整備・設計されているので左後輪への負荷が少なくなっていることが考えられます。

規格変更後に、あらたな規格の大型車が増えていくのと比例して、タイヤの脱落事故、しかも左後輪タイヤが脱落するケースが増えていることもあり、規格変更が影響していると考える人は少なくありません」

ハンドルを握らない歩行者はどんな注意が必要なのだろうか?

「ゴムのタイヤがアスファルトの路面を転がっても音はまったくありません。つまり道路の左側を歩いていれば、後ろからタイヤが迫ってきてもまったく気づかないまま衝突する可能性が高くなります。

少しでもリスクを下げるには右側通行を徹底することです。道路の右側を歩いていれば、対向してくる車の様子が見やすく、たとえ前方からタイヤが向かってきてもギリギリ回避できる可能性も高くなります」

一歩間違えば大事故につながるタイヤの脱輪事故。トラックドライバーや運送会社は、交換作業やその後のメンテナンスを徹底することが重要なようだ。