渋谷は、多くの映画館やミニシアターが集まる“映画の街”。そんな渋谷に、映画をイメージしたカクテルを味わうことができるバーがあるのをご存知だろうか?渋谷駅から徒歩約5分、センター街に位置する「八月の鯨」では、古今東西の映画タイトルにちなんだオリジナルカクテルが楽しめる。

【写真を見る】『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士をイメージしたカクテル!

看板には『グレイテスト・ショーマン』(18)や『アベンジャーズ』(12)といった作品のカクテルの写真が並び、店内に入る前からワクワクが止まらない。お店は2階(禁煙)と地下1階(喫煙可)に分かれており、今回は地下1階にお邪魔した。店内は、映画のポスターや登場キャラクターのグッズが数多くのお酒と共に飾られ、映画好きにとってはたまらない空間になっている。地下1階のメニューリストには、選りすぐりの新旧様々な映画タイトルが、アルコール度数ごとに分かれて並ぶ。メニューに記載されていない作品も、バーテンダーの方が観たことがあれば注文することができる。メニュー外のカクテルの価格帯も、基本メニューと同じくらいの450~1500円ほどとのことだ。

■ホラー!スリラー!インパクトの強い作品をカクテルにしたら?

インパクトの強い映画は、イメージカクテルのアルコール度数も高い傾向にあるらしく、ホラー作品は度数が高いものが多いとのこと。頼んだカクテルの度数が高い時には、注文時に教えてくれるので、アルコールにあまり強くないという方でも安心してオーダーすることができる。今回は背筋が凍るほど怖いホラー&スリラー作品のイメージカクテルを作っていただいた。

●サイコサスペンスの金字塔『羊たちの沈黙

第64回アカデミー賞で主要5部門を受賞したサイコサスペンス『羊たちの沈黙』(01)。連続猟奇殺人事件を追うFBI訓練生のクラリス(ジョディ・フォスター)は、自分の患者を手にかけ収監中の天才精神科医、レクター博士(アンソニー・ホプキンス)に捜査協力を仰ぐことに。彼女に興味を示した博士は、捜査の手がかりを与える代わりに、クラリスに自身の過去を語るよう要求する。

優れた知性と内に秘めた狂気を併せ持つ博士を、ジンをベースにコアントローというオレンジリキュールや、キルシュワッサー(さくらんぼの蒸留酒)、レモンジュースでアレンジしたカクテルで表現。マティーニグラスに注がれた乳白色のカクテルは一見優しそうに見えるが、かなり度数が高い!狡猾で頭の切れるレクター博士のイメージにぴったりのカクテルだ。

●真昼間に行われる奇妙な祝祭『ミッドサマー

ミッドサマー』(19)は、スウェーデンのホルガ村で90年に一度開かれる夏至祭に訪れた学生たちに降りかかる恐怖を描いたフェスティバルスリラー。独自の宗教観で生活する村の住人たちに歓迎され、見知らぬ土地での生活を楽しむ学生たちだったが、次第に村の変わった“風習”を目の当たりにしてしまう。

主人公ダニー(フローレンス・ピュー)の恋人クリスチャン(ジャック・レイナー)が恋のまじないをかけられた、“あの飲み物”をイメージして、アニスというハーブを使用したお酒にパンプルムーゼ、ザクロシロップなどがブレンドされている。薬草のリキュールが使用されているだけあって、かなり独特な味わい。そしてドリンクの上に飾られたイチゴと色鮮やかな花たちは、ダニーメイクイーンに選ばれた際の衣装をイメージしているのだそう。

●恐ろしくもかわいらしいパールから目が離せない『Pearl パール

『X エックス』(22)に登場した最高齢のシリアルキラーパールの始まりを描いた『Pearl パール』(23)。スターのいる華やかな世界に焦がれるパール(ミア・ゴス)は、体の不自由な父と厳しい母親と共に農場で暮らしている。ある日、ショーのオーディションが開催されることを知ったパールは参加を望むが、母に諌められたことで彼女のなかに眠る狂気が目覚めてしまう。

フランスの修道院で作られるリキュール“シャルトリューズ”をベースに、スパークリングワイン、カシスレモンで構成され、フォークに刺さったマシュマロが添えられた『Pearl パール』のカクテルパールの容姿と、奥に潜んだ狂気が表現されていた。ドリンクに添えられているマシュマロは、映画の冒頭でパールが農具で殺したガチョウを表しているとのこと…。

●海外の人にも愛されるジャパニーズ・ホラー『リング』

ジャパニーズ・ホラーを代表するホラーアイコン“貞子”。鈴木光司の同名小説を原作とした『リング』(98)は、そんな貞子が人々を恐怖に陥れる様を描いた。観た者を一週間で死に至らしめる“呪いのビデオテープ”の調査を始めた主人公たちが、呪いの元凶が井戸で殺害された山村貞子にあることを突き止める。

ブラヴォドウォッカ(ブラックウォッカ)をベースに、リコリスリキュール“リカール”、烏龍茶で作られたカクテルを、井戸を想起させる和風の湯呑みで楽しむことができる。黒い色のウォッカ烏龍茶といった爽やかさとは正反対の色合いのドリンクによって、『リング』ないし貞子の纏うおどろおどろしい雰囲気が見事に再現されている。『ミッドサマー』同様ハーブのお酒を使用しているので少しクセがあるが、烏龍茶によってさっぱりとした味わいになっている。

■“グラスホッパー“と聞いてあなたが思い浮かべるのは?

映画のタイトルのなかには、カクテルと同じ名前を持つものがある。代表的なものでは『ゴッド・ファーザー』(72)や『カサブランカ』(46)など。今回は、“バッタ”を意味するカクテルグラスホッパー」をご紹介する。

本来の「グラスホッパー」は、鮮やかな緑色が特徴的なカクテルミントリキュールに生クリームカカオリキュールが合わさった、チョコミントのような味わいの甘いカクテルだ。生クリームによってまろやかな舌触りとなっており、デザート感覚で楽しむことができる。

そして、伊坂幸太郎の小説を原作としたサスペンス映画の名前も同じく『グラスホッパー』(15)。婚約者をある事件で失い、復讐のため裏社会に飛び込んだ鈴木(生田斗真)、人を殺すことにためらいのないナイフ使い殺し屋“蝉”(山田涼介)、特殊能力によって対象者を自殺に至らしめる殺し屋“鯨”(浅野忠信)の3人の人生がはからずも交錯していく様が描かれた。

山田涼介が演じた殺し屋“蝉“をイメージしたというカクテルは、ピカソやダリが愛飲していたリキュール“スーズ”(『ミッドナイト・イン・パリ』にも登場!)に、もみの木のリキュール“サパン”、レモンジュース、ザクロシロップ、トニックウォーターを加えたもの。蝉の身を包む派手な黄色い服に、血しぶきが飛んでいるシーンを血に見立てたザクロブルーベリーで彼が部屋で飼っていたシジミが表現されている。やはりハーブ系のリキュールが使用されていることもあり、清涼感抜群の口当たりだ。

■飲めない人でも安心!ノンアルコールカクテル

そしてアルコールが飲めない、得意ではない人は、ノンアルコールカクテルをオーダーすることも可能だ。ただし、なんでも好きなタイトルを注文したり、メニューにあるカクテルをノンアルコールにしたいと頼んだりすることは基本的にはできないので注意してほしい。バーテンダーの方に飲みたい味やイメージなどを伝えることで、ノンアルコールに対応可能な作品のカクテルを提供してもらえる。今回は以下の2作品のノンアルコールカクテルを作っていただいた。

ピュアな子どもたちのラブストーリー『小さな恋のメロディ』

少年少女の初恋を描いたラブストーリー『小さな恋のメロディ』(71)。メロディ(トレイシー・ハイド)という名前の少女に恋をした11歳のダニエル(マーク・レスター)。しだいに惹かれ合った2人は結婚を誓い合うも、幼い彼らの話を親も教師たちも真剣に取り合おうとしない。子どもたちはそんな大人たちに反旗を翻し、ある行動を起こす。

幼いダニエルとメロディのまっすぐな青春を表したかのような透き通る青色が目を引くドリンクは、モナンのライチシロップ、ブルーキュラソーシロップレモンジュース、ソーダという爽やかなラインナップ。甘いというよりも見た目通り爽やかな味わいだ。

●インターネット世界が紡ぐ希望『竜とそばかすの姫

もう1本は、現実世界と仮想世界、2つの世界を舞台にした『竜とそばかすの姫(21)。現実の自分と違う人生を歩むことができる仮想世界“U“で、田舎に住む17歳の少女すず(声:中村佳穂)は絶大な人気を誇る歌姫ベルとして注目を浴びていた。そんなある日、ベルのコンサートに“U”の世界で恐れられる竜(声:佐藤健)が姿を現す。

グラスの上に乗せられたメロンの上に一輪の薔薇を挿し、クジラの上で歌うベルを表現。作品を鑑賞したことがある人にはひと目で「あのシーンだ!」となるビジュアルに仕上がっている。クランベリージュースにローズシロップの組み合わせは、酸味がありつつも甘い味わい。ローズの香りがほんのり漂う、おしゃれなノンアルコールカクテルとなっている。

■「八月の鯨」は、映画をよりもっと好きになれる場所

鑑賞した映画をカクテルとして味わうことができる「八月の鯨」。ドリンクを目や舌で堪能するのはもちろん、どのシーンやキャラクターをイメージして作られたのかを考えながら、再び作品に想いを馳せることも…。また、注文の仕方が異なるノンアルコールカクテルは、目の前にドリンクが運ばれてくるその瞬間まで、どの作品が出てくるのか、ドキドキとワクワクを楽しむことができる。「八月の鯨」では、好きな作品がより忘れない作品になる経験と、新たな作品との出会いが待っているので、ぜひ訪れてみてほしい。

文/高木郁

クジラをイメージしたメロンと薔薇で名シーンを表現