コンクリートや鉄条網による二重フェンスと、およそ50メートルごとに設置された警戒監視所。北朝鮮で独裁の鞭を振り下ろし続けてきた金正恩総書記は2020年1月、唯一の脱北ルートとされてきた中朝国境ルートの完全封鎖に乗り出した。

 その結果、飢餓と餓死に怯える北朝鮮人民による、中国を経由しての韓国への脱北者数は激減。だが、脱北阻止に血道を上げる独裁者の計画は、脱北ルートの完全封鎖だけではなかった。金正恩の動静と北朝鮮の内情に詳しい国際政治学者が明かす。

金正恩は中朝国境地帯で二重フェンスや警戒監視所の造設を進めるとともに、中朝国境を流れる豆満江沿いの全域に、偵察総局の要員を次々と送り込んでいます。偵察総局は、北朝鮮人民軍に所属する工作機関。言うまでもなく、要員投入の目的は、脱北者の監視と摘発にあり、その対象には脱北を手引きする中国人組織も含まれている。最近は脱北希望者と中国人組織の接触現場を急襲するケースも急増していると聞いています」

 そうした状況下、国境警備隊の配置変更も、頻繁に行われているという。中朝国境での勤務が長期間に及ぶと、国境警備隊と中国人組織との癒着が生じ、ワイロを受け取って手助けする隊員が続出しかねない、との懸念から発動された措置である。

「極め付きは2020年8月、金正恩の大号令のもと、北朝鮮の警察当局にあたる社会安全省が発っした残虐指令です。そこには『中朝国境をすり抜けて脱北しようとする人民を発見した時は容赦なく射殺せよ!』と書かれていました。実際に豆満江を泳いで渡ろうとした脱北者を、国境警備隊がハチの巣にした、との報告も上がってきています。まさに『去るも地獄、残るも地獄』です」(前出・国際政治学者)

 中朝国境から脱北を試みる人民への射殺指令については、韓国の市民団体「北朝鮮民主化ネットワーク」が配信しているインターネット新聞「デイリーNK」が、具体的な指令内容を含めて暴露し、警鐘を鳴らしてきた経緯がある。

 さらには、金正恩の指示を受けた妹の金与正朝鮮労働党副部長が現地に赴き、中朝国境でのさらなる粛清にハッパをかけた、との報道も流れている。

 飢えて死ぬか、射殺されるか――。北朝鮮人民には今、絶望的な「究極の選択」しか残されていないということだ。(つづく)

(石森巌)

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