京葉線の車両(写真:railway memory / PIXTA)

2023年ラストの本コラムは、東京湾岸沿いに東京と千葉を結ぶJR京葉線を取り上げます。JR東日本が2024年3月16日に実施するダイヤ改正で、京葉線の改正メニューが波紋を広げています。JR千葉支社は新ダイヤで、「朝夕時間帯の通勤快速と快速の各駅停車化」に踏み切ります。

JRの発表に対し、沿線の千葉市千葉県が「通勤や通学時間が延びて不便になる」と反発しています。本コラムは極力中立の立場で、〝京葉線快速の各停化問題〟を考えてみます。

当初計画は貨物線、国鉄ラストに旅客線化

JR東日本の2024・3新ダイヤは、東北・山形新幹線への新鋭E8系投入、東北・秋田・上越・北陸新幹線の増発といった盛りだくさん改正メニュー。プレスリリース後半に掲げたのが、「首都圏普通列車の利便性向上」、「ご利用状況にあわせた輸送体系の見直し」です。

京葉線に関しては、2021年1月の本コラムで歴史を紹介させていただきました。ポイントを再掲します。

地下の東京駅を発車して、JR内房、外房の両線が分岐する蘇我駅に至る43.0キロ(西船橋への分岐線含まず)の路線。1961年の計画決定時は京浜、京葉の2つの工業地帯をつなぐ貨物輸送ルートでした。

ところが、高度経済成長期の東京一極集中で混雑する総武線バイパス線の必要性が生じ、国鉄改革前年の1986年3月に西船橋ー千葉港(現在は千葉みなと)間を旅客線化して営業開始。1990年3月に東京ー蘇我間が全通しました。

停車列車の拡大で乗車チャンスが増える

2024・3改正のポイントは、「日中帯(10~15時台)を除き、東京ー蘇我駅間はすべての通勤快速と快速を各駅停車に変更。朝・夕夜間帯に外房線内房線と直通するすべての快速も、各駅停車に変更します」(JRのリリースから)。

京葉線路線図総武線の並行路線で、東京ー蘇我間は京葉線経由と総武・外房線経由の2ルートがあります。京葉線快速・通勤快速(上り)は外房線上総一ノ宮、内房線君津などから東京に直通運転します(資料:JR東日本

快速、通勤快速に集中する利用客を各停に分散化して、混雑緩和するのがJRの狙い。2023年3月に開業した新駅・幕張豊砂(新習志野ー海浜幕張間)で、停車列車が現在の1日271本(平日、上下計)から、改正後は303本に増えるといった、乗車チャンス拡大の効果をアピールします。

所要時間を比較すると?

現行ダイヤを確認してみましょう。快速は、蘇我駅発平日上り(すべて東京行き)で、6~9時台に7本運転されます(7時台の2本が通勤快速)。同じく東京発の下りでは、16~22時台に19本設定されています(18と19時台の各1本が通勤快速)。

上り快速は蘇我を発車後、千葉みなとから海浜幕張までは各停。その先は南船橋、新浦安、舞浜、新木場、八丁堀、東京の各駅に停車します。通勤快速は蘇我ー新木場間ノンストップで、その先は八丁堀に停車、終点の東京に至ります。

朝通勤時、蘇我ー東京間の所要時間は通勤快速が平均41.5分なのに対し、各停は同じく55.5分。乗車時間は約14分増える計算です。夕通勤時は同様に、東京ー蘇我間で約19分所要時間が増えます。数字を見ると「朝の10分は貴重」ーー、そんな通勤・通学客の声が聞こえそうな気もしますが……。

JR東日本ダイヤ改正リリース。幕張豊砂ー越中島間の各停停車駅での停車本数増を披露します(資料:JR東日本

「千葉市の評価を揺るがす可能性」(神谷市長)

ここから、地域の反響です。JR千葉支社の発表後の2023年12月21日に熊谷俊人千葉県知事と神谷俊一千葉市長の定例会見があり、そろって京葉線ダイヤ改正に言及しました。お2人の会見は、動画投稿サイトで公開されています。

記者の質問に答える形で、神谷市長は「JRが京葉線の通勤時間帯の快速を全廃するということで、非常に驚いている。日々乗車している方の感想を聞きたいところで、私のところにも不満を訴える声が届いている。千葉市の評価を揺るがす可能性もある」と懸念を示しましました。

神谷市長のSNSには、「生活サイクルが変わってしまう」、「転職や引っ越しを考えなければいけない」といった市民の声が寄せられるそうです。

熊谷千葉県知事も質問に答えて、「ホーム混雑が緩和されるなど、タイヤ改正にも良い面があることは認める。しかし、沿線の住民の生活や事業活動にマイナスがあると認識しており、今後JRに対して申し入れを行いたい」と発言しました。

「狙いや背景を丁寧に説明」(土澤JR千葉支社長)

地域の予想外の反発に、JR千葉支社は驚きを隠せない様子。22日の会見で、土澤壇執行役員・千葉支社長は「狙いや背景を丁寧に説明し、理解を求めたい」と発言しました。

報道を総合すると、快速廃止の背景はコロナ禍後の利用低迷。朝通勤時の通勤快速の利用は各停に比べて7割程度にとどまります。かつて上り通勤快速を最大4本運転した期間もありましたが利用は伸びず、2021年ダイヤ改正で現行2本に縮小しました。

一方で、夜間時間帯は通勤快速に帰宅客が集中。東京メトロ有楽町線東京臨海高速鉄道りんかい線からの乗換客が乗車する、新木場駅で混雑が発生するといいます。

快速各停化の効果では、途中駅での快速通過待ちがなくなって、蘇我ー東京間が最大7分、平均2分短縮できるそうです。

改正まで時間がなく見直しは困難

京葉線の〝快速廃止問題〟は、2023年末まで続きます。自治体では、JR外房線沿線の一宮町の馬淵昌也町長が12月27日の会見で、「全く容認できない」と批判しました。

12月28日には、土澤JR千葉社長が神谷千葉市長に面会。神谷市長が再考を求めたのに対し、土澤支社長は「ダイヤ改正までの時間が短いので難しい。市側の指摘を踏まえて、何ができるのかを真剣に考えたい」と答えました。

表面化しにくいプラスの評価

2024・3新ダイヤは、JRグループの全国改正で、北陸新幹線の敦賀延伸開業が最大のトピックスです。一度決まったダイヤが簡単に変えられないことは、本サイトをご覧の皆さまならご存じでしょう。

「総論賛成、各論反対」は鉄道の世界の日常茶飯事。このまま「JR vs 沿線自治体」に問題が深刻化するのは、JR、自治体ともに望むところではないでしょう。

京葉線ダイヤ改正には、プラスの効果もあります。ネガティブな意見に比較するとどうしても表面化しにくいのですが、沿線住民には各停が増えて利用しやすくなると感じる人もいるはずです。

そうした声を集めて発信するとか、改正後に利用客アンケートを実施して、次のダイヤ改正に反映させるなど、JRと地域が歩み寄れる糸口はいくつもあるはずです。

記事:上里夏生