世界経済の“けん引役”である米国が、好調です。FRBによると、米国では2024年も景気拡大が続く見込みとされています。こうしたなか、米国では今月NYダウが連日史上最高値を更新するなど、株価も大きく上昇しました。では、いったいなぜここまで相場が好調なのでしょうか。またこうした環境下ではどのようなリスクに注意すべきなのか、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が解説します。

2024年も米国は「景気拡大」が続く見込み

[図表1]に示すとおり、米連邦準備制度理事会(FRB)によれば、2024年も米国経済は成長が続く見込みです。

現在の米国の労働市場は完全雇用の状態であり、米国経済は「フル稼働」での生産が続いています。人口の伸び鈍化や早期リタイアの増加で、企業は人材の獲得・維持に苦戦しています。反対に、家計の賃金は上昇し、所得は増加しています。

所得の増加を追い風に、個人消費は拡大が続いています。また、株式市場などの資産価格の上昇も、個人消費の支援材料です。あわせて、国内総生産(GDP)対比でみた家計債務残高は、2007~08年の世界金融危機をきっかけに低下傾向をたどっており、家計のバランスシートは健全です。

一時期、前年比で下落していた全米住宅価格は、このところ、上昇に転じており、住宅市場には持ち直しの動きがみられます。

“やっかい者”のインフレは鈍化か

[図表2]に示すとおり、米連邦準備制度理事会(FRB)によれば、2024年の米国のインフレ率は鈍化する見込みです。

半導体や自動車など、2020年以降の新型コロナウイルス禍がもたらした生産のボトルネックは、その多くがすでに解消されています。また、2022年以降のロシアによるウクライナ侵攻がもたらしたエネルギーや農作物の供給不足についても、徐々に解消されつつあります。

加えて、2022年からの主要国での大幅な利上げにより、(供給能力に比べて過大であった)需要が抑制されてきました。

供給制約の解消と需要の抑制により、インフレ圧力は収束しつつあります。

「景気拡大・インフレ鈍化・利下げ」のバラ色シナリオ

2024年に0.75%の利下げを見込む

[図表3]に示すとおり、米連邦準備制度理事会(FRB)は、経済成長率とインフレの鈍化に合わせ、2024年中に金融緩和に転じる見込みです。

2023年12月時点のFRBによる最新見通しによれば、FRBは2024年に0.75%、2025年に1%の利下げをそれぞれ実施する見込みです。

FRBが想定する「米国景気の拡大、インフレの鈍化、金融緩和」は、金融資産にとっての『バラ色シナリオ』です。2024年も、金融資産にとって良好な年になる見込みです。

ただし、さまざまなリスク要因や注意点があるため、幅広い資産への分散投資が必要と思われます。

米国景気にある「上振れリスク」…さまざまなシナリオに備えて分散投資を

[図表4]に示すとおり、米国では高めのインフレが持続したり、景気が再過熱する可能性も残されます。

【左の図】に示す「粘着価格・消費者物価指数」の「3ヵ月前比・年率」をみると、インフレ率は足元で上向きになっています。「粘着価格・消費者物価指数」は、将来のインフレ期待をより明確に表すとされる物価指数です。

また、「前年比」ではなく、「3ヵ月前比」で計測することで、「足元のスピード」を確認できます。インフレ率は「前年比」では鈍化してみえても、「上向きの勢い」は保たれている可能性があります。

【右の図】に示す「OECD・米国景気先行指数」は、景気循環の転換点を把握するため、実体経済に先行して動く指標を合成して作られる指数です。「100」が長期の成長トレンドの水準を示します。これに従えば、米国景気はすでに「底打ち」をし、「景気回復」に転じている可能性があります。

幅広い金融資産にとって米国景気が強いことは望ましいことですが、その分、金融緩和が遠のき、政策金利が高止まりして、市場金利が上向きに転じるリスクがあります。

「2024年は概して、多くの金融資産にとって良好な年である」と考えられるものの、高金利がもたらす変動性にも備えておくことがよいでしょう。

重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュー

首席研究員/マクロストラテジスト

(※写真はイメージです/PIXTA)