昨年に引き続き、2023年もまた、様々な”バーチャル”関連のトピックが生まれた。特に今年は、大きな躍進や変動が起こり、これまでにないような社会的な注目が起きた一年だったと、通年で観測していた筆者は感じている。

 本連載「Weekly Virtual News」も2023年の最後の更新ということで、様々なことが起きた一年を、「VTuber」「XR」「メタバース」という大枠で振り返っていく。

【画像】2023年話題になったバーチャルのニュースたち

■業界の“外”へと飛躍するVTuberたち スマッシュヒットが続いたVTuberの音楽シーン

 VTuberシーンはとりわけ、音楽の方面で顕著なインパクトを残す事例が相次いだ。

 「ホロライブ」所属の星街すいせいや、「KAMITSUBAKI STUDIO」の花譜など、トップランナーとして活躍するバーチャルアーティストは今年もすばらしい楽曲を送り出した。特に星街すいせいは、名だたるアーティストが集うYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』にVTuberとして初出演、さらにその後すぐに2度目の出演も果たし、大きな話題になった。

 一方で、予想外の角度から、記録的なヒットも芽生えた。にじさんじ所属の剣持刀也と個人タレントのピーナッツくんが毎年恒例でおこなっている配信から生まれた「刀ピークリスマスのテーマソング2022」は、ピーナッツくんにとっても初となる1000万再生を達成。当時の最速記録を樹立し、著名な歌い手が歌い、『モーニング娘。’23』のメンバーが踊り……VTuber業界の内外で桁外れのヒットを生み出した。

 かと思えば、ホロライブ宝鐘マリンが送り出した「美少女無罪♡パイレーツ」が、1000万再生最速記録を塗り替える。ショート動画作成アプリ『VARK SHORTS』のテンプレートにも起用されるなど、大きな広がりを見せた。そして9月、しぐれういの「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」が、18日間での1000万再生達成という、偉業とも呼べる記録を達成した。

 「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」は現時点(12月27日)で約7300万再生。楽曲そのものの流行にくわえて、MVの中で特に目を引くダンスシーンのアニメがミーム化し、海外ではVTuberと無関係な場所でも散見される事態になった。

 振り返ってみると、上記の3曲はともに『TikTok』でヒットした点が共通している2022年にヒットを記録したぼっちぼろまるの「おとせサンダー」のように、『TikTok』はシーンの“外”へと波及させ、スマッシュヒットを生み出すための大きなカギになっているといえるだろう。

個人勢VTuberからもスターが続々登場 “専門系の星”・宇推くりあは政府とコラボを果たす

 また、今年は個人勢からも多くのスターが生まれた。外へ飛び出していった点でいえば、先述のピーナッツくんはまさにその筆頭だろう。一方で、Twitchを軸に活動しストリーマーやプロゲーマーとの共演で大きな存在感を発揮したVTuber・赤見かるびも、今年の「顔」の一人として名が挙がるだろう。

 よりマスに広がったところでいえば、宇推くりあ大躍進を遂げたひとりだ。H3ロケットの打ち上げ中止の詳細な解説で話題になり、内閣府「第6回宇宙開発利用大賞」PRキャラクター抜擢、さらにはJAXAとのコラボなど、ロケット宇宙開発とVTuberをつなぐ大きなキーマンとなった。

 ある種特異なクリエイティビティが注目を集め、YouTube公式にもピックアップされたVTuber・ヘアピンまみれの存在も、この一年を語る上で欠かせないだろう。

 日本の外へ目を向けると、韓国のVTuberシーンも躍動が続いた。とりわけバーチャルアイドルグループ「ISEGYE IDOLL(イセゲアイドル)」は、今年発表した楽曲「KIDDING」が大ヒットし、韓国音楽チャート・Melonにて上位ランクインを果たす快挙となった。

 ISEGYE IDOLLはソーシャルVR『VRChat』も活動拠点としており、特に2023年は日本のバーチャルボクシングイベント『VRCボクシング大会』とコラボした「バーチャルファイター」という企画が、Twitchで4万人超の視聴者を集めた。同じく、韓国発のアイドルサバイバル番組『少女リバース』も、『VRChat』向けアバターを採用したバーチャルアイドル路線だ。韓国ではいま、日本とも大きく異なるバーチャルタレントの文化が花開いている。

■新陳代謝が激しいVTuber業界 古参が去り、“ベテラン新人”登場が相次ぐ

 こうしたポジティブなトピックと並び、今年騒がせたのは著名なVTuberの活動終了だろう。とりわけ、黎明期から活躍してきた一人・ミライアカリが活動を終了したことは、業界を大きく揺るがせた。そして、筆者もその一人だ。その最後に『VRChat』で一般ファンを招いたイベントを開催したのは、いまも記憶に残る出来事だ。

 ミライアカリだけでなく、「にじさんじ」の勇気ちひろや、「KMNZ」のLIZなど、2018年からデビューした面々までも活動終了に至るケースも見られたり、にじさんじからは下半期に活動終了の報告が続いたりと、かなりのタレントがバーチャルタレントシーンから去ることとなった。

 また、「ななしいんく」から「ぶいすぽっ!」へ移籍した小森めとや、「Re:AcT」から別会社へ移籍した かしこまり、「ななしいんく」から独立し個人勢となった周央パトラや同様に独立を果たした富士葵など、これまでの体制を大きく変えるVTuberも現れた。「いまいる場所に居続けることが全てではない」ということなのだろう。

 去るものもいれば、訪れるものもいる。とりわけ今年は著名人がVTuber化する事例が、かつてないほど続いた。後藤真希は「ぶいごま」に、今井麻美は「詩趣ミンゴス」に。CM出演も含めれば、二宮和也温水洋一まで含まれる。インターネット発の著名人としては、ピアニストのまらしぃもそのひとりだ。

■ゲーム業界で広がりを見せる、“生きたキャラクター”という概念

 そして、「VTuberとIPコンテンツのはざま」も一気に広がった。『アイドルマスター』からは「vα-liv」、『ラブライブ!』からは「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」、『BanG Dream!』からは「夢限大みゅーたいぷ」が、それぞれプロジェクトとして始動した。

 IPコンテンツのキャラクターのようでありながら、リアルタイムで動き、時にはリアクションを返す、「生きたキャラクター」という在り方が急速に立ち上がりつつある。VTuberという様式は、既存のIPコンテンツにも大きな影響を与えつつある、と言えるだろう。

 そして、REALITYや17LIVE、Brave groupなど、新たな勢力の参入も相次いだ一年だった。大きな新陳代謝を経て、VTuber業界は次の一年へと歩みを進める。

■『Vision Pro』に『Meta Quest 3』――複合現実へと進み出したXRデバイス

 デバイスの話題でいえば、やはりAppleの『Vision Pro』が象徴的だ。あのAppleの参入、ということ自体もインパクトがあるが、その打ち出し方が「空間コンピューティング」であるということも大きい。

 VRへ没入するのではなく、「頭にかぶるPC」として、日常生活の上にデジタル情報を重ねるという「未来の暮らし」のビジョンは、多くの消費者にとって想像しやすいはずだ。唯一の懸念を挙げるとすれば、その価格だろうか。いずれにせよ、世に放たれるのが楽しみなデバイスだ。

 発売されたXRデバイスの中で、もっともインパクトがあったものといえば『Meta Quest 3』だろう。2020年に発売された普及機『Meta Quest 2』の後継に位置づけられる、新型HMDだ。小型化と高画質化が進みつつも、「MR(複合現実)」機能を本格的に盛り込んだことが大きな変化として挙げられるだろう。

 「現実世界にバーチャルなものを呼び出す」という方向性は、ある意味では『Vision Pro』に通ずるところがある。MetaがVRは捨てず、しかしMRという新たな路線の開拓へと動き出したのは、一つの転換点だろう。また、『【推しの子】』や『銀魂』を招いたプロモーションまで展開する姿は、日本を市場として本格的に意識し始めていることのあらわれだろうか。

 ソニーのモバイルモーションキャプチャーmocopi』も、様々な場面で見かけるようになってきた。やはりVTuberの需要が伸びているが、つい最近にはアニメ『葬送のフリーレン』にて活用されたという事例も登場した。

 「スタジオ不要で動くモーションキャプチャーデバイス」というデバイス特性は、VR/VTuberという枠組みすら超えて活躍することが立証された形だろう。アップデートも継続しており、ソーシャルVR需要に応えるためのモード追加など、より汎用的なデバイスとなるべく邁進を続けている。来年以降の発展にも期待したいところだ。

■予測されていた「幻滅期」はどこへ? 活発な企業参入が相次いだメタバース業界

昨年もてはやされたメタバースは、今年は「幻滅期」と呼ばれつつ、話題の多くは生成AIに取って代わられた印象だ。一方で、前線の動きを見てみると、むしろ昨年以上に活発だったように思う。

最大規模のメタバースと評される『Roblox』はMeta Quest版が登場しつつ、国内で『Roblox』向けコンテンツ制作に着手する企業が相次いで登場した印象だ。『ドラえもん』クラスのIPを巻き込む事例も生まれ、『東京ゲームショウ』に運営会社が招かれるなど、日本へのリーチがいよいよ始まろうとしている。

Fortnite』も「Unreal Editor for Fortnite (UEFN)」の登場により、コンテンツ制作に乗り出す企業やクリエイターが増えた印象だ。これまで以上に自由なコンテンツを作って公開できるようになり、収益化プログラムまで動いている。人口も非常に多いため、今後さらに活用事例が広がるだろう。

国産メタバースの『cluster』は、UIが一新されただけでなく、ソーシャルシステムの改修や、3Dアイテム購入ができる「clusterポイント」「商品チケット」の導入など、サービスの利便性をより高める方向へとアップデートが続いている。そして、『cluster』でイベント・企画を行いたい企業とクリエイターをマッチングさせる新会社、クラスタークリエイタージョブズ株式会社も設立し、新たな展開を見せている。

『VRChat』はこうした拡大の流れと無縁である……ように見えて、企業参入の動きが強まっている。運営企業と公式パートナー契約締結に踏み切った企業・団体は、今年に入って国内で18組織にものぼった。日産自動車G-SHOCK京セラホビージャパン横須賀市などなど、官民の両面で案件が次々に発生しており、大丸松坂屋百貨店に至ってはアバター事業にまで乗り込むという攻めの姿勢を見せている。

エンタメの領域でも、『SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio Puroland』や『プリキュアバーチャルワールド』など、ネームバリューの面でもよく知られる大規模なイベントが開催されるようになった。『SANRIO Virtual Festival』は2024年開催も決定済みで、さらに規模を拡大して『VRChat』に舞い戻る予定だ。『バーチャルマーケット』も引き続き開催されており、今年はリアルイベントも大盛況となるなど、大きな進歩を見せている。

「幻滅期」という言葉など、どこ吹く風。“粗熱”のとれたメタバース業界は、着実な一歩を積み重ねるフェーズへと踏み出している。その成果が見えてくるのが、2024年という一年になるだろう。

(文=浅田カズラ)

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