MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、『グラインドハウス』(07)で上映された架空の映画CMの長編映画化、オーストラリアの海を舞台に母娘の絆を描くヒューマンドラマ、幸せの絶頂にいた女性に降りかかる悪夢を描いたホラーの、監督のセンスが輝く3本。

【写真を見る】ジョン・カーヴァーを名乗る殺人鬼が次々と住民に襲いかかる(『サンクスギビング』)

■がっつり見応えのある怪作…『サンクスギビング』(公開中)

キャビンフィーバー』(02)や『ホステル』(05)など、おもしろいスプラッターホラーを撮らせたら間違いのないイーライ・ロス監督が、久しぶりにこのジャンルに復帰!米国の祝日、感謝祭で賑わう町で住民が次々と惨殺される。恐怖に怯える高校生たちのスマホに、謎のメッセージを発信する犯人の目的とは!?

刃物だけでなく調理器具を駆使した傷害描写はユニークで、ときにユーモラス。謎解きや犯人捜しの要素も注目ポイントで、最後の最後まで目が離せない。一方で、行事にかこつけた商魂やそれに群がる大衆心理が風刺され、ロス監督らしい社会性も見て取れる。日本人としては、お正月に向けて考えてしまう!?ともかく、がっつり見応えのある怪作だ!(映画ライター・有馬楽)

■グッと「自分事」として物語を引き寄せてくれる…『ブルーバック あの海を見ていた』(公開中)

スーッと心が伸びやかに解放されてゆくような碧い海の世界、そこで自由にたゆたう心地よさ…。まずは、映像の圧倒的な美しさだけでも味わうべし!西オーストラリアの海辺の町を舞台に、海洋生物学者となったヒロインと、美しい故郷の海を守るべく闘い続けた環境活動家の母、2人それぞれの生きる道、母娘の絆や葛藤を映しだす。その中心となって物語を輝かせるのは、母に連れられて潜った海中でヒロインが出会った「ブルーバック」という巨大な青い魚。美しい海、かけがえのない自然や環境の象徴、あるいは化身でもあるブルーバックとヒロインのつながりが、ファンタジックに(永遠の)少年少女の夢想を掻き立て、グッと「自分事」として物語を引き寄せてくれる。

自然の美しさや厳しさ、その恩恵、どこの国や地域でも変わらぬ目先の利益を優先する政治家や企業、それに抗い環境を守る難しさ、だからこその尊さなど、色んな展開が幾重にも感情を揺らす秀作。ヒロインにミア・ワシコウスカ、その母にラダ・ミッチェル、母娘と交流する漁師にエリック・バナと、ハリウッドほか世界で活躍するオーストラリア出身のスター俳優が共演。さらに監督も前作『渇きと偽り』(22)が高く評価された、オーストラリア出身のロバート・コノリー。前作のゴロリと骨太&肉厚なテイストとは一味違う、青春のほろ苦さと瑞々しい感性に満ちた本作でまた確かな腕を示した。(映画ライター・折田千鶴子)

■フィネガン監督が新たに紡ぎ上げた悪夢…『NOCEBO/ノセボ』(公開中)

マイホーム購入を夢見るカップルが、なぜか郊外の住宅地から抜けだせなってしまう不条理系スリラー『ビバリウム(21)で大反響を呼んだロルカン・フィネガン監督。この気鋭監督が放つ3年ぶりの新作は、原因不明の体調不良に見舞われたファッション・デザイナーの運命を描くホラー映画だ。

体の震えや恐ろしい幻覚によって家族との幸せな日常が壊れかけている主人公クリスティーン(エヴァ・グリーン)。彼女のもとに使用人としてやってきて、怪しげな儀式を行うフィリピン人女性ダイアナ(チャイ・フォナシエ)は何者なのか。そんなミステリー&スピリチュアル要素を織り交ぜた映像世界は、突然ありえない場所に不気味な犬が出現するショック描写、主演女優エヴァ・グリーンの凄まじい錯乱演技からも目が離せない。あらゆる謎が“投げっぱなし”だった『ビバリウム』ほどシュールではないが、フィネガン監督が新たに紡ぎ上げた悪夢はやはり予測不能で刺激的。最後に待ち受けるのは救済か、それとも破滅か、劇場で見届けよう!(映画ライター・高橋諭治)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

感謝祭に沸き立つ町を襲う惨劇を描いた『サンクスギビング』