MBSTBS系列全国28局にて放送・配信中のアニメ「呪術廻戦」(毎週木曜夜11:56-0:26ほか、TBS系/ABEMA・ディズニープラスHuluほかにて配信)が12月28日の第47話(第2期23話)「渋谷事変 閉門」で最終回を迎えた。「懐玉・玉折」のスタート時こそまぶしいアオハルが展開したが、その後はダークファンタジーとしての本領を存分に発揮して、胸の痛む出来事の連続となっていった。しかし、そんな中にあって随所ではユーモラスな演出も光り、特にオマージュ系はハードな展開の中、緊張をほぐしてくれる一服の清涼剤でもあった。作中どんなオマージュ演出があったかのか、まとめて振り返ってみたい。(以下、ネタバレを含みます)

【写真】視聴者の大多数が声を上げた「エヴァ」オマージュ?の究極メカ丸試作0号

波多野、洞口が出走。枠番もこだわる「モンキーターン

第26話「懐玉-弐-」の冒頭、伏黒甚爾(CV.子安武人)が自信満々に賭ける競艇のシーンにはさりげないオマージュが仕込まれていた。実況をよく聴いていると「先頭6番、波多野、ゴールイン」「1番、洞口、ゴールイン」(漢字は字幕より)とアナウンスされるが、これは競艇漫画「モンキーターン」の主人公・波多野とライバルの洞口を拝借したと思われる。作中、洞口選手は父親の洞口武雄と息子の雄大の2人が登場するが、甚爾がひらひらと見せた舟券には「洞口大」と選手名が記載されており、雄大の名前をもじったものだろうことが分かる。また、単に競艇つながりで名前をかぶせたというだけでなく、波多野を6号艇に、洞口を1号艇にしているところが芸が細かい。

競艇のスタートは1号艇が最内のイン、6号艇が大外に入るのが一般的で、周回レースの中、インが有利、外が不利という状況での勝負になる。ただし、外側からまくっていくのが得意な選手もいて、波多野はその代表格。そして、洞口はインでのレースを得意とする選手。「呪術廻戦」原作でもこの通りに描かれており、もしかしたら作者の芥見下々がしっかりと読み込んでいる同作のファンなのかもしれない。

■超絶「エヴァ」な究極メカ丸試作0号とゼーレ会議

モンキーターン」は気付く人は気付くという小さな遊びだったが、視聴者の大多数が声を上げた盛大なオマージュが第30話「そういうこと」で登場した究極メカ丸絶対形態“装甲傀儡究極メカ丸試作0号”だ。名前の通り、エヴァ。「呪術廻戦」公式ファンブックにて、芥見が一番見返しているロボットアニメが「新世紀エヴァンゲリオン」、同作の監督・庵野秀明をとてもリスペクトしていると語っており、究極メカ丸試作0号のデザインにはその愛がたっぷり注がれている。コクピット内もよく似た設計になっており、アニメでは咆哮を挙げながら湖から姿を現すという熱の入った演出が追加されたことで、より際立つオマージュとなっていた。また「エヴァオマージュでは、第47話「渋谷事変 閉門」での呪術界上層部と乙骨憂太の会話シーンがゼーレ会議と化していたのも気のせいではないだろう。

究極メカ丸試作0号の戦闘シーンには「天元突破グレンラガン」っぽいという声も上がっていたが、そもそも芥見は多種多様なジャンル、作品に触れてきたことを話しており、そうした作者のエンタメ好きを汲み取っての演出なのだろう。ちなみに第25話「懐玉」にて五条悟(CV.中村悠一)が原作同様に天元の進化の例え話として「デジモンアドベンチャー」を持ち出していたが、公式ファンブックでは「デジモン」の思い出にも触れている。真面目にデジモンの進化を語る五条はちょっと面白いところだった。

■虎杖、三輪の人柄を重ねた「ミミズ人間」=「ムカデ人間」のオマージュ

第30話では、虎杖悠仁(CV.榎木淳弥)が大好きなB級ホラー映画ミミズ人間」も注目を集めたが、これは海外映画「ムカデ人間」のオマージュではないかと考察されている。「ムカデ人間」は“人間をつなげてみたい”という異常な欲求に駆られた分離手術の元名医に口と肛門をつなげられた3人の改造人間の悲しい物語。「ミミズ人間」は第1期で虎杖と吉野順平が観ていた映画として語られ、2人の会話からマッドサイエンティストに改造された境遇、ロゴのデザイン、連作映画などの共通事項が見られるというものだ。

この「ミミズ人間」、原作では「虎杖は観たい映画があるとかなんとか」とひとコマで終わるシーンだったものを、アニメではビジュアルとあらすじまで用意されての拡大描写に。そうした本筋とは離れた部分での力の入れようが話題になったが、これは中学の同級生・小沢優子との再会で見えた、人を外見でなく内面で見る虎杖の人柄。同じようにメカ丸(CV.松岡禎丞)に接する三輪霞(CV.赤崎千夏)の人柄を丁寧に描くための暗喩という、意味の大きな演出であった。

■“東堂のイメージ”はオマージュ? 真人は「寄生獣」のミギー

第44話「理非-参-」では、東堂葵(CV.木村昴)が“存在しない記憶”を展開したときの黒閃アクションが、「僕のヒーローアカデミア」でオールマイトが使うワンフォーオールだと話題になった。これは黒閃の蹴りをアニメオリジナルでモリモリに膨らましたシーンだったため、原作ファンにも完全に予想外の出来事。東堂の突然のオールマイト化が視聴者の目を奪ったが、それ以上に驚愕の事態となったのが第45話「変身」での“東堂のイメージ”だった。

これをオマージュと呼んでいいのかは定かではないが、落ちたペンダントが開くと魔法少女変身シーンのごとくお花畑が広がり、高田ちゃんスタンドが出現。さらにセーラー戦士に変身した東堂がスタンドと共に真人(CV.島崎信長)を攻撃し、パンチラッシュでフィニッシュを決めるという展開。一連の中には「ジョジョ」「セーラームーン」「プリキュア」といった要素が見受けられ、すさまじい情報量の奔流からSNSでは東堂版“簡易無量空処”だと騒がれていた。なお、ペンダントには虎杖と高田ちゃんの写真が仕舞われていたわけだが、この特級呪具からは、もしかしたら虎杖スタンドが出る可能性もあるのかと思うとおかしさが込み上げずにはいられないところだ。

また、同話ではオマージュがもう1つ。冒頭の戦いで真人がカタツムリのような目をにょっきり生やしたコミカルな姿を見せたが、これはおそらく「寄生獣」に登場したミギーオマージュだと思われる。「寄生獣」は人に寄生して体を乗っ取る謎の寄生生物の存在を描いた作品で、乗っ取られた人間は真人のように体をぐにょんと変形させたり、鎌を形成したりという攻撃を見せてくる。そうした特性の共通があった上で、真人役の島﨑が「寄生獣」の主人公・泉新一役を演じていることからアニメスタジオ側が遊びで入れたシーンなのだろう。

■「うずまき」のクオリティーに見るリスペクトの深さ。次回予告には「ミッターマイヤー」「アッガイ」が

そして第46話「変身-弍-」では、ニセの夏油傑(CV.櫻井孝宏)が使った極ノ番・うずまきが、文字通りホラー漫画「うずまき」のオマージュだった。人がうずまき状にねじれてできた本家うずまきに対し、呪霊がねじれあってできたニセ夏油のうずまき。不気味さが「呪術廻戦0」で生前の夏油が使ったうずまきより増しているのは、使用者(中身)の違いだからだろうか。また、原作においては単行本収録時に、より緻密な絵に修正されており、手元に本誌がある方は見比べてみるといい。芥見がこだわりをもってオマージュしているのが見て取れるところだ。

今回はアニメ視聴時に気付いた演出を拾ってみたが、もしかしたらまだ筆者が気付かなったオマージュもあるかもしれない。なお、しばしば混同されがちだが、パロディーオマージュは似て非なるものだ。パロディーはそれを模倣すること自体が目的であり、元ネタを利用して面白おかしく茶化して見せていくというもの。対してオマージュも模倣の1つだが、ただの真似ではなく、ベースに何かのつながりがある場合や、その模倣には元となった作品への尊敬や愛着が感じられるものだ。「呪術廻戦」においてオマージュ演出は作品の本質を語るものではなく、分からなければ分からないで全く問題ないものだ。ちょっとした形で忍び込ませられたこれらの演出は、アニメや漫画好きへのサービス、原作者やアニメ制作スタジオの遊びとして入っているといったところだろうか。

最後にオマージュではないが、次回予告にも触れておきたい。第30話本編終了後の次回予告では、三輪の好きな異性のタイプが“ミッターマイヤー”と判明。禪院真依(CV.井上麻里奈)の「足、速そうだもんね」という突っ込みから、「銀河英雄伝説」に登場の“疾風ウォルフ”ことウォルフガング・ミッターマイヤーが連想されるところ。続く第31話での次回予告では、ガンプラワードから伏黒恵(CV.内田雄馬)が「アッガイなら作ったことがある」という意外な事実も明らかになった。次回予告のキャラ会話は芥見によるもので、こうした本編後のお楽しみがあったのも本作視聴の楽しいところだった。

赤崎千夏島崎信長の崎は正しくは「たつさき」

■文/鈴木康道

アニメ「呪術廻戦」第44話より/(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会 (C)Sumzap, Inc./TOHO CO., LTD.