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 女性の涙のにおいを嗅ぐと、男性の攻撃性が大幅に低下することが新たな研究で明らかになった。攻撃性に関連する脳の領域の活動が、低下していることがMRI画像検査でもはっきりしたのだ。

 2019年にも同様の研究結果が報告されているが、それを裏付ける形となった。

 こうした影響は、涙に含まれる社会的化学シグナル機能によって引き起こされると考えられ、げっ歯類のオス・メスの間でも見られ、保護機能として働いていることがうかがえるという。

【画像】 哺乳類の涙には社会的シグナルとして働く化学物質が含まれている

 イギリス自然科学者で自然選択説による進化論を提唱したチャールズダーウィンは、感情的な涙というものに当惑した。彼は、涙というものは目を潤す以外にはなんの役にもたたないと考えていたからだ。

 ダーウィン以降、感情的な涙を流すのは人間だけの特質だとされてきたが、哺乳類の涙には社会的シグナルとして働く化学物質が含まれていて、それが攻撃性を減少させるのだという。

 例えば、メスのマウスの涙には、オスの攻撃的な脳ネットワークの活動を抑制することで、オス同士の攻撃性をオフにするシグナル機能がある。

 メクラネズミの下位のオスは、支配的な上位のオスに攻撃されるのを防ぐために、自分自身の体を涙で濡らすという。

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人間女性の涙が男性にどのような機能的影響を与えるのかを調査

 イスラエルワイツマン科学研究所の研究者たちは、げっ歯類と同じように、人間の女性の涙にも男性の攻撃性を抑える効果があるのかどうか、それが男性の脳にどのような機能的影響を与えるのかを調べる一連の実験を行った。

涙のニオイを嗅ぐと、テストステロンが低下し、これが女性よりも男性の攻撃性に大きな影響を与えることはわかっていたため、涙が男性に与える影響を調べることから始めました。そうすれば、影響を見られる可能性が高くなるからです

 本研究のリーダーで研究著者のシャニ・アグロン氏は語った。

 人間の涙における化学シグナル機能についての証拠は限られているが、以前の研究によると、女性の涙には無臭の化学シグナル物質が含まれており、男性がそれを嗅ぐと性的興奮や、興奮の生理学的尺度、テストステロンレベルが減少するすることがわかっていた。

 まず、本当に女性の涙のニオイを嗅ぐと、男性の攻撃性が減少するのかどうかを調べるために、こんな実験をしてみた。

 22歳から25歳の女性6人にひとりで悲しい映画を見てもらい流した涙を採取した。

 25人の男性被験者たちには、2人制の金銭ゲームをやってもらう。

 男性たちは対戦相手は人間だと思っているが、実はコンピュータのアルゴリズムで、不正をするなどして、わざと男性たちの対戦相手に対する攻撃性を刺激するように作られている。

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 男性たちは相手に損害を与えるなど、リベンジできるチャンスを与えられる。

 男性たちはゲームをプレイする前に、女性の涙か生理食塩水のどちらかのニオイを嗅いでもらう。両方とも無臭で区別はつかない。

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涙のニオイを嗅いだ男性は攻撃性に関連する脳の領域の活動が減少

 その結果、涙のニオイを嗅いだ男性たちのほうが、その攻撃性が43.7%も減少したことがわかったのだ。

 結果がどれくらい確実なのかを評価するために、ブートストラップ分析を行った。

 これは、ひとつのデータセットを再サンプル化し、多数のシミュレーションサンプルを作る統計手法だ。

 分析の結果、この結果が偶然に得られる確率は2.9%であることがわかり、げっ歯類と同様に、人間の感情的な涙に含まれる化学シグナルには、攻撃性をブロックする機能があることが示された。

 次に、涙のニオイを嗅ぐ行為が被験者の脳に与える影響を調べた。涙や生理食塩水のにおいを嗅いでゲームを行った男性たちの脳を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)でスキャンしてみた。

 すると、攻撃性に関係するふたつの領域、左の前頭皮質(AIC)と両側の前頭前皮質(PFC)の活動が、涙のニオイを嗅いだ後では低下することがはっきりした。

 涙vs生理食塩水という実験条件とこれらの脳領域の活動の間に、はっきりした相関関係があることがわかったのだ。

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涙のニオイを嗅ぐと、攻撃性に関連する脳の領域の活動が減少する / image credit:Agron et al

 脳の機能的接続性を調べてみると、涙は左の前頭皮質にのみ影響を及ぼし、右の偏桃体および梨状皮質との接続が大幅に増加していることがわかった。

 これらの領域は、構造的につながっているだけでなく、嗅覚と攻撃性に関わる機能性ネットワークの一部でもあるのだ。

涙が嗅覚受容体を活性化し、攻撃性に関連する脳回路を変化させて、攻撃的な行動を大幅に減少させることを我々は示しました

 本研究の論文著者のひとり、ノーム・ソベル氏は言う。

この発見は、涙が化学的な毛布のように、攻撃性を防ぐ機能をもっていること、これがげっ歯類、人間、おそらくはほかの哺乳類に共通の特性であることを示しているのです
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涙には社会的な化学シグナル機能が備わっている

 実際に犬を対象にした2022年の研究では、犬は悲しいときや嬉しいときに涙を流すことがわかっている。

 久しぶりに飼い主に再会した犬のうれし涙の量は大幅に増加したが、飼い主以外の人間が相手ではそうはならなかった。

 ただこれらの涙に、化学シグナル機能が含まれているかどうかを判断するには、さらに研究が必要だ。

今後は男性の涙のニオイの女性への影響を調査予定

 女性の涙のニオイが男性の行動に影響を与えることが確認できた今、研究者たちはさらに進んだ研究に取り組んでいる。

「涙を流してもらうボランティアはほとんどが女性でした。女性が泣くことのほうが社会に認められているからなのではないかと思います」アグロン氏は言う。

「しかし、この影響の全体像を把握するためには、男性に調査対象を女性にも拡大して研究を行う必要があります」

 この研究は『PLOS Biology』誌(2023年12月21日付)に公開された。

References:Tears without Fears: Sniffing Women’s Tears Reduces Aggression in Men - Life Sciences | Weizmann Wonder Wander - News, Features and Discoveries / Sniffing women’s tears reduces male aggression by 44%, study finds / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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女性の涙のニオイを嗅ぐと男性の攻撃性が低下することが判明。社会的化学シグナル伝達が関与