文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)

JBpressですべての写真や図表を見る

昭和の汽車旅を体験できる

 やってきた列車は、板張りの床と4人掛けの木造りの椅子が奥まで続く古い車両。しかし扉を開けて車内へ一歩足を踏み入れると、雪が降り積もる外の寒さとは打って変わって熱気であふれかえっている。乗客たちはつまみ片手に酒を呑みながら、上機嫌で語らいあう。こんな昭和の良き時代を彷彿させる列車が、今なお現役で走っているのだから驚きだ。

 りんごと米で有名な青森県の津軽地方を走る津軽鉄道は、津軽五所川原から津軽中里までの20.7kmを結ぶ小さなローカル私鉄。日本の民営鉄道では最も北に位置するこの路線に、冒頭の列車が走っている。その列車とはストーブ列車だ。

 ストーブ列車というからには車内にストーブがあることは想像できるだろうが、実際にはいったいどんな列車なのか紐解いてみよう。車両は昭和20年代に造られた旧国鉄のオハフ33形とオハ46形という客車である。車内は前述したとおりレトロそのもので、今ではほとんど見ることない紐を編んだ網棚や窓下のテーブルにある栓抜き、木製の窓枠など車両や座席によって若干の差はあるものの、否が応でも昭和の気分が味わえる。

 肝心のストーブダルマストーブが1両に2台ほど、4席分の座席を撤去して設置されている。ストーブからは煙突が車外に延びており、煙突からストーブの熱気が漏れているのが外から確認できる。

 客車を引っ張る機関車のDD350形ディーゼル機関車もなかなかのレアものだ。機関車を真横から見てもらうと計4つの動輪のうち、前2つと後ろ2つの動輪がロッドと呼ばれる棒でSLのように結ばれているではないか。このロッド式を採用している機関車が走っているのは全国でもこのストーブ列車だけなのでお見逃しなく。

ストーブ列車の満喫ポイント

 さてハード面はさておき、ストーブ列車の真の楽しさを味わうためのポイントをこれからいくつかお教えしよう。ストーブ列車には専用のアテンダントさんが乗務しており、津軽弁で観光案内をしてくれる。最近はSNSなどで津軽弁の難解さが人気になっているが、実際にリアルで聞くとその理解不能さに納得する。

 またどこかのタイミングで車掌さんが数回ダルマストーブに石炭をくべにやってくる。メラメラと炎がたなびくなかへリズム良く石炭を投げ入れるシーンがみられるのも、この列車ならではの光景だ。

 そしてこの列車最大の魅力といえば、ストーブの上の網で焼くスルメである。日本海で獲れたスルメは車内で700円で販売しており、購入するとアテンダントさんが自ら網の上で丁寧に焼いてくれる。焼き上がると食べやすいように細く割いて渡してくれるサービスには感激する。お酒が呑める人であれば青森の地酒とともに食すと良い。ストーブの網から立ちこめるスルメ香ばしい香りとお酒の甘い匂いが旧型客車の車内で絡みあい、令和時代の鉄道旅とはとても思えないほどの高揚感と充実感が味わえるだろう。

 乗車日は比較的空いている平日がおすすめだが、土休日しか乗れないというときは、上りの154もしくは156列車が良いだろう。そうしておけば、もし津軽中里駅からバスツアーなどの団体客が乗り込んできても金木駅で下車する確率が高いので、その後は終点までのんびり過ごせる。団体客などで車内が混雑してしまうと、せっかくスルメを買っても焼いてもらうための順番待ちが必要で、最悪の場合は下車駅まで順番が回ってこないこともあるからだ。

 あと午前中2本のストーブ列車はDD350形機関車が連結されないことが多いので、もし都合がつくなら午後の列車に乗車したい。客車はオハフ33形の方が製造当時の姿を色濃く残しているため、こちらの車両に乗りたいところ。

 ちなみにストーブ列車に乗るには乗車券の他に500円のストーブ列車券が必要だ。全席自由席のためダルマストーブ前の席にみんな座りたがるが、経験からいうと暑すぎて汗をかくほどなので、個人的にははす向いの席を推奨しておく。

 そして最後はストーブ列車が生まれた理由。津軽鉄道が全線開業した昭和初期の時代は、機関車から客車へ暖房の元となる蒸気や電気を取りこめなかったため、仕方なく車内にダルマストーブを置いたのがきっかけだという。それが今では冬の津軽の人気列車になっているのだから、全国の赤字ローカル鉄道の活路も、実は身近なところに潜んでいるのかも知れない。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  ローカル線・近江鉄道、22期連続赤字の末に挙げた白旗…そして沿線自治体は?

[関連記事]

まるでアニメな駅舎、懐かしの硬券…味わいある近江鉄道が迎えた存続の危機

大井川鉄道がリアル「きかんしゃトーマス号」を走らせた理由と危機感

津軽鉄道を走るストーブ列車。毎年12月1日から翌年3月31日まで、1日3往復運行されている(12月の平日のみ2往復)