文=酒井政人

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〝高校時代無印選手〟たち

 熱狂がとまらない箱根駅伝。有力高校生ランナーは各校の争奪戦になる。その一方で、4年間で〝這い上がってきた男たち〟がいる。第100回箱根駅伝で大活躍が期待される〝高校時代無印選手〟たちを紹介したい。

 まずは現在の4年生世代が高校3年時だった2019年度の5000mランキング(3年生の日本人のみ)を振り返ってみたい。順大・三浦龍司(洛南)が13分51秒91でトップ。以下、明大・児玉真輝(鎌倉学園)、中大・吉居大和(仙台育英)、順大・石井一希(八千代松陰)、駒大・鈴木芽吹(佐久長聖)、青学大・佐藤一世(八千代松陰)、東洋大・松山和希(学法石川)の順で、ここまでが13分台だった。

 彼らはプロ野球でいえば〝ドラフト1位〟ともいえる選手たちだ。なおインターハイ5000mは吉居が日本人トップで、全国高校駅伝1区は佐藤が日本人最高記録で制している。

 上記の選手たちは大学入学後も各校の主力として君臨しているが、〝ドラフト下位〟からチームの主力に駆け上がった選手たちも少なくない。

 

中大の主将・湯浅は9番目の選手として入学

 前回2位の中大は4年生世代に好選手が多く、藤原正和駅伝監督は「君たちが4年生のときに箱根駅伝で優勝しよう!」と1年時から声をかけてきた。そのなかで大学入学時の5000mベスト(14分27秒02)が同学年10人中9番目だったのが湯浅仁だ。

 宮崎日大高では全国高校駅伝に2年連続で出場。3年時は3区で区間31位(24分46秒)だった。なお同区間の日本人トップは現在のチームメイトである中野翔太(世羅)で23分44秒。湯浅は55秒遅れでスタートした中野に抜かれている。そして中大に入学して吉居、中野らの強さに衝撃を受けた。

「レベルが違いましたね。正直、4年間で追いつけないだろうなと思いました」というが、コツコツと努力を積み重ねていき、2年時の箱根駅伝は9区を区間3位と好走。翌年も9区を担って、2年連続の1時間8分台で走破した。そして今季は主将としてチームを引っ張っている。

 5月の関東インカレは1部ハーフマラソンで日本人トップ。出雲駅伝は最終6区で、全日本大学駅伝はエースが集結した7区で区間2位と好走した。さらに11月22日のMARCH対抗戦10000mでは自己ベストの28分12秒17を叩き出している。箱根は補欠登録だが、3年連続の9区か、4区に起用される可能性が高い。

「区間に強いこだわりはありません。任された区間で求められた仕事をするだけです。自分たちが入学してから、『第100回大会で優勝しよう!』とずっと言ってきました。2日間、全力で勝ちにいきたい」と湯浅は燃えている。

國學院大の主将・伊地知は11番目で入学

 全日本大学駅伝の8区で中大をかわして3位でゴールに駆け込んだのが國學院大の主将・伊地知賢造だ。松山高時代に全国大会の出場はなく、当時の5000mベストは14分43秒97。チーム内11番目のタイムで入学した。

 高校時代は全国トップクラスではなかった浦野雄平(現・富士通)、土方英和(現・旭化成)らが学生駅伝で活躍した國學院大を見て、「あそこに行けば僕も変われるんじゃないか」という予感が的中する。学生駅伝は1年時からフル参戦。2年時は全日本8区で区間賞を獲得して、箱根は花の2区を務めた。

 昨年度は出雲と全日本でアンカーを担い、ともに準優勝のゴールに飛び込んだ。しかし、箱根は11月中旬に左膝を痛めたこともあり、5区で区間7位と振るわず、チームも4位に終わった。今季は主将に就任するも、1月末に右足首を痛めて出遅れた。

 それでも4月末から走り始めると、7月に5000mを13分40秒51の自己新をマーク。9月の日本インカレ10000mで日本トップに輝いた。3区を任された出雲駅伝は4位に終わったが、アンカーを務めた全日本大学駅伝は3位を確保。最後の学生駅伝となる箱根は補欠登録されており、往路に起用されそうだ。

「4区あたりの可能性が高いと思うんですけど、2区や5区にアクシデントがあっても僕なら入ることができる。いずれにしても、後ろの選手たちが心を揺さぶるような走りをして、ゲームチェンジャーの役割を担いたい」

 伊地知は〝てっぺん〟を目指して、熱い走りを披露する。

名門高の補欠だった選手がチームの主力に

 高校時代の5000mベストから考えると、各校に〝這い上がってきた選手〟がいる。

 日大・下尾悠真はチーム内7番目の14分36秒95で入学すると、5000mの記録は学内日本人トップの13分48秒55まで短縮。駅伝主将として最初で最後の箱根駅伝に臨むことになる。

 国士大・山本雷我はチーム内6番目の14分38秒2で入学。〝仮想5区〟として箱根駅伝出場校が多く出場した11月18日の激坂最速王決定戦(登りの部)を制しており、3年連続となる5区で区間上位が期待されている。

 神奈川大・小林篤貴はチーム内12番目の14分38秒40で入学するも、10000mで神奈川大記録の28分21秒10を樹立。箱根駅伝は前々回で2区を区間9位と好走しており、今回は2区での出場が有力だ。

 駿河台大・新山舜心はチーム内トップながら高校時代の5000mベストは14分39秒71。大学では10000mのタイムを28分14秒30まで伸ばした。主将としてチーム引っ張り、最後の箱根は往路で勝負する。

 城西大・野村颯斗はチーム内10番目の14分43秒94で入学。主将としてチームを牽引すると、10000mで28分34秒70をマークするなど、走りでもチームを盛り立てている。箱根は1区に登録された。

 それから世羅高時代に全国高校駅伝を走ることができなかった山梨学大・北村惇生と法大・細迫海気は大学でチームの主力になった。北村は前回4区で区間10位。今季は日本人エースと呼ばれるほど成長して、箱根は1区に登録された。細迫は2年連続で5区を担うと、今回も5区に入っている。

 箱根駅伝はどこにヒーローがいるのかわからない。雑草魂を持つ非エリート選手たちが正月決戦でドラマを作る。

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