わずか9歳でデビューし、40年以上スター街道を走り続けた“戦後歌謡界の女王”美空ひばりさんの出演映画と伝説のコンサート映像を集めた特集「不死鳥 美空ひばりスペシャル~永遠の歌姫~」が2024年1月、CS放送「衛星劇場」にて放送される。没後30余年を経てなお、色あせることのない名作の数々で人々を楽しませ続けるひばりさん。そんな彼女の偉業と足跡を、あらためて振り返る。

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■“AI美空ひばり”に多くの人が涙

生涯レコーディング数は1500曲、うちオリジナル楽曲517曲という、途方もない実績を残したひばりさん。女性初の国民栄誉賞を受賞し、レコードやCDなどの総合売り上げ枚数は日本の人口に匹敵する1億1,700万枚(2019年時点)。そのうち約2,000万枚は、平成の30年間で新たに積み上げた数字だ。

2019年には、「NHKスペシャル AIでよみがえる美空ひばり」で“AI美空ひばり”が初公開された。最新鋭の音声合成技術を使い、遺された膨大な歌声をもとに再現された歌声で、“AI美空ひばり”が30年ぶりの新曲「あれから」を披露。令和によみがえった“昭和の歌姫”の歌声に、多くの人々が涙した。

東京ドームこけら落としも…数々の伝説を樹立

大きな足跡を残し、今なお人々の心に生き続けるひばりさん。その人生は始まりから非凡だった。1937年5月29日神奈川県横浜市で生まれ、3歳にして小倉百人一首をほとんど暗記し周囲を驚かせたという逸話は、ほんの序章。4歳頃からレコードで流行歌を覚え始め、6歳の時には軍需工場や兵士の壮行会で歌い、大人顔負けの歌唱力で“天才少女”と大評判。9歳から歌手として興行を開始した。

11歳で映画「のど自慢狂時代」に映画初出演。その後12歳を迎えてすぐ「河童ブギウギ」でレコードデビュー。同年、初主演映画『悲しき口笛』の主題歌「悲しき口笛」も大ヒットし、一躍スター街道を歩み出した。『悲しき口笛』での燕尾服姿は米「ライフ」誌に掲載され、少女歌手・美空ひばりアイコンともなった。

■トップ10がすべてミリオンセラー

それ以降の活躍は誰もが知る通りだ。シングル曲出荷枚数別でみると、1989年1月にシングルとして発売され最大のヒット曲となった「川の流れのように」(205万枚)をはじめ、東京オリンピックの年に発売され大旋風を巻き起こした「柔」(195万枚)、ひばりさんが涙を流しながら歌唱した曲として知られる「悲しい酒」(155万枚)…と、トップ10はすべてミリオンセラー(出荷数は2019年当時、日本コロムビア発表)。

数々の記憶に残るステージも遺した。1988年東京ドームこけら落とし公演、ワンステージで50曲歌唱した武道館でのデビュー35周年記念リサイタルなど、“伝説”と称されるコンサートも数多い。1965年には新宿コマ劇場『お島千太郎』『65ひばりのすべて』公演で55日間100回ステージ30万人動員という、当時としては前人未到の記録を打ち立ててもいる。

■出演本数は160本以上!映画スターとしても活躍

さらに映画スターとしてもひときわ輝く存在だった。1949年のど自慢狂時代』でのデビューから最後の映画出演となった1971年の『女の花道』『ひばりのすべて』までわずか20数年の間に160本以上の映画に出演。

流行の歌謡曲をモチーフにした歌謡映画や歌謡ロードムービーのほか、娯楽時代劇や冒険活劇…とジャンルも多岐にわたり、中には『たけくらべ』(1955年)など歌唱シーンのない作品も。当時は歌謡映画を中心に歌手が映画に主演するケースも多かったが、“歌手の映画出演”に限って言えば、ひばりさんの出演本数はけた違い。まぎれもない映画スターの一人として当時の映画業界を支えた。

歌手として、俳優としても大きな存在であり続けたひばりさんだが、家族思いの人柄でも知られた。ひばりさんの最大の理解者で、二人三脚でスター街道を走り続けた母・喜美枝さんとは“一卵性母娘(親子)”と呼ばれたほど。

息子・和也氏の小学校卒業の際には、多忙な中で卒業式に出席後、祝賀会で「芸道一代」を熱唱。「おかあさんありがとう」を歌唱指導もしたという。そんなあたたかい家庭人としての一面が“昭和歌謡界の女王”の輝かしい称号と矛盾なく両立していることこそが、ひばりさんが30年の時を超えても愛され続ける理由ではないだろうか。

美空ひばりの軌跡をたどる10作品6公演のラインアップ

不死鳥 美空ひばりスペシャル~永遠の歌姫~」では、そんなひばりさんの軌跡をたどるようなラインアップが用意されている。

歌手活動からは、1970年に行われた「ブラジル・サンパウロ公演」(1月2日[火]夜6:00~)の貴重な全28曲歌唱映像をはじめ、6ステージを放送する。コマ・スタジアム創立20周年記念でもあった1976年の「’76 歌声はひばりと共に」(1月3日[水]夜6:15~)や、1公演50曲を歌い上げた伝説の「芸能生活35周年記念リサイタル 武道館ライヴ」(1月4日[木]夜6:00~)、「美空ひばり芸能生活40周年記念リサイタル そして、歌は、人生になった。」(1月6日[土]夜6:45~)といった周年リサイタルも登場。東京ドームこけら落としとなった「不死鳥 美空ひばり in TOKYO DOME 翔ぶ!! 新しき空に向かって」(1月7日[日]昼5:15~)は、ひばりさんが病におかされながらも渾身の力で歌声を響かせた、歌謡史に刻まれる名ステージだ。

映画は、ひばりさんが12歳の時に古川ロッパや横山エンタツ、花菱アチャコ、藤山一郎らと共演したコメディ『ラッキー百万円娘』(1月17日[水]夜6:00~他)を含む10タイトルが登場する。ひばりさんの歌が楽しい道中喜劇『びっくり五十三次』(1月1日[月]深夜3:00~他)、高校生の淡い初恋を描いた『青春ロマンスシート 青草に坐す』(1月3日[水]朝8:30~他)、ひばりさんが歌う主題歌「越後獅子の歌」もヒットした『とんぼ返り道中』(1月5日[金]朝8:30~他)といったラインアップ。ひばりさんの凛々しい男装も魅力の『山を守る兄弟』(1月5日[金]昼11:45~)や『女ざむらい只今参上』(1月11日[木]朝8:30~他)、雪村いづみさんとともに主役を務めた『大当たり狸御殿』(1月19日[金]夜6:00~他)も注目だ。

偉大な功績を残し、今なお愛される美空ひばりさん。今回のライブ6本・映画10本からなる特集「不死鳥 美空ひばりスペシャル~永遠の歌姫~」は、その魅力にあらためて触れられる貴重な機会となりそうだ。

◆文/酒寄美智子

「不死鳥 美空ひばり」/(C)ひばりプロダクション