文=酒井政人

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優勝争いは1区と2区に注目

 最多23校が出場する第100回箱根駅伝は例年以上に華やかな大会になるだろう。そのなかで注目ポイントはどこなのか。

 まずは優勝争いだ。2年連続の「駅伝3冠」を目指す駒大がダントツのV候補になる。出雲と全日本は「佐藤圭汰」という超強力カードで勝負を決めて、悠々と逃げ切っている。両駅伝は佐藤が2区を務めたが、箱根は鈴木芽吹(4年)を2区、佐藤圭汰(2年)を3区に入れて、篠原倖太朗(3年)を補欠登録した。篠原は4区(もしくは1区)の起用が濃厚か。今回も同じようなレース展開に持ち込みたい。

 3区佐藤でトップに立ち、ハーフマラソンで日本人学生最高記録を持つ4区篠原でリードを拡大。これが駒大の勝ちパターンだ。篠原が1区の場合は3区佐藤で後続を突き放すかたちになるだろう。いずれにしても1~2区で大きく遅れない限り、駒大の連覇は濃厚だと予想する。

 一方、前回2位の中大は〝先制攻撃〟を仕掛けて、逃げ切る戦略を立ててきた。1~3区は前回出走した溜池一太(2年)、吉居大和(4年)、中野翔太(4年)を登録している。

 前回は吉居が花の2区を区間歴代8位の1時間06分22秒で走破。3区中野も〝連続区間賞〟をゲットするが、駒大から切り取ったリードはわずか10秒だった。今回、エース吉居は、「1時間05分30秒を切るような勢いで突っ込んでいきたい」と区間記録(1時間05分49秒)を上回る超高速レースに持ち込むつもりでいる。

 吉居が前回と同じく駒大を追いかける展開になると、鈴木にピタリとつけられてしまう。そうさせないためには、1区で駒大に数秒でも先着したいところだ。そして2区吉居でリードを拡大できれば、駒大の3区佐藤にプレッシャーをかけられるはず。メンタル面でも王者を揺さぶり、駒大のリズムを崩していきたい。

 2区吉居で駒大から40~50秒ほどのリードを奪うことができれば、3区佐藤も攻め込むのは難しくなる。中野の実力を考えれば、前半に詰められても、後半は佐藤を引き離すことができるかもしれない。

 前回3位の青学大は黒田朝日(2年)と太田蒼生(3年)を補欠登録。順当なら2区と3区に起用されるだろう。1区に入った荒巻朋熈(2年)が駒大に先着できると、2区と3区は駒大と互角に近い戦いが期待できる。

 前回4位の國學院大は平林清澄(3年)を2区、伊地知賢造(4年)と山本歩夢(3年)を補欠登録した。伊地知は4区、山本は1区もしくは3区での起用になるのだろうか。いずれにしても3本柱を軸に往路から駒大に食らいついていきたい。

 ライバル校が駒大に勝つには2区終了時で前にいることが必須条件になるだろう。3区終了時で駒大から30秒以上のリードを奪うチームがあると、優勝争いの行方がわからなくなる。

5区は区間新記録バトルの予感

 今回は5区に好選手が多く、「山の神」が誕生するかもしれない。その筆頭候補は、前回大会で1時間10分04秒の区間新記録を樹立して、「山の妖精」と呼ばれた城西大・山本唯翔(4年)だ。今季は夏のワールドユニバーシティゲームズ10000mで銅メダルを獲得。出雲と全日本は最終区間で活躍した。今回はどこまで区間記録を短縮するのか。

 それから前々回大会で東海大の5区を務めて1時間10分44秒(区間2位)で走破した創価大・吉田響(3年)にも注目したい。出雲駅伝は5区で区間記録に2秒差と迫る好タイムで区間賞。全日本大学駅伝は5区で区間記録を29秒も更新すると、区間2位に38秒差をつけた。平地でも強さを見せつけているが、上りはさらに強い。本人は「できれば1時間08分45秒ぐらいは出したい」と気合十分だ。

 5区の〝コースレコード〟は現在とほぼ同じ距離を走った順大・今井正人(現・トヨタ自動車九州)の1時間09分12秒。この記録を越えられれば、「山の神」と呼ばれることになるだろう。

 王者・駒大は前回5区を1時間10分45秒(区間4位)で駆け上がった山川拓馬(2年)の出走が濃厚。「最低でも1時間10分切りを目標にしたい」と区間新記録を目指している。

 青学大は原晋監督が「1時間10分前後」を想定しており、今回は前々回大会で1時間10分46秒(区間3位)で走破した若林宏樹(3年)が登録された。國學院大・前田康弘監督は「1時間11分切り」、中大・藤原正和駅伝監督は「1時間11分前後」を計算している。上位校候補は5区に自信を持っており、山での〝大逆転〟があるかもしれない。

シード校をめぐる激闘

 近年、復路はトップチームが独走するようなかたちが続いているが、シード権争いは混戦を極めている。順当なら駒大、中大、青学大、國學院大、創価大、城西大の6校は上位争いを展開するはず。その後のチームはわずかなミスでシード権争いの渦に巻き込まれていくことになるだろう。

 前回5位の順大は出雲10位、全日本11位と今季は大苦戦。箱根はエース三浦龍司(4年)を1区、3年連続で4区を担った石井一希(4年)を5区に登録した。前回6位の早大は2区に山口智規(2年)、5区に工藤慎作(1年)を入れた一方で、前回2区10位の石塚陽士(3年)と同5区6位の伊藤大志(3年)は補欠登録。前回7位の法大も6区を2年連続で好走している武田和馬(3年)と前回8区区間賞の宗像直輝(4年)を補欠登録している。それぞれ上位を狙う戦略がありそうだ。

 予選会校では全日本大学駅伝で7位に食い込み、18年ぶりのシード権をつかんだ大東大の戦力が充実している。帝京大も全日本大学駅伝は12位に沈んだが、4区西脇翔太(4年)が脱水症状に苦しんだのが原因だった。全日本は3区終了時で5位につけており、両校ともシード権争いに絡んでくるだろう。

 シード校で崖っぷちにいるのが東洋大だ。全日本大学駅伝は過去ワーストの14位で、前回2区を務めた石田洸介(3年)がエントリーから外れている。今季はエース松山和希(4年)が復帰するも、1・2年時に快走した2区には梅崎連(3年)が入った。補欠登録の松山が入る区間で順位を押し上げて、なんとしても19年連続シードを死守したい。

 その他の有力選手では東海大のエース石原翔太郎(4年)が7区に登録。箱根予選会で日本人トップに輝き、全日本大学駅伝2区を区間新(区間3位)で快走した東農大・前田和摩(1年)は補欠登録だった。2区には前々回、関東学生連合で同区間を経験している並木寧音(4年)が入っており、スーパールーキーは何区に登場するのか。

 全10区間、217.1㎞の道のりには様々なドラマが待っている。

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