12月8日Netflixで全世界配信がスタートし、世界中で賛否両論を巻き起こすと同時に、SNS上などで様々な考察が繰り広げられている『終わらない週末』(Netflixにて配信中)。本作は、極限状態に追い込まれた二組の家族を通して、終焉へと向かうアメリカを描きだした不条理な“終末映画”だ。

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アマンダ(ジュリア・ロバーツ)とクレイ(イーサン・ホーク)の夫婦は、週末に豪華な別荘を借りて子どもたちとのんびり過ごそうとした計画するのだが、別荘に到着するや携帯電話電波障害に見舞われ、パソコンやテレビなども使用できずに外部からの情報が遮断されてしまう。海岸でタンカーが打ち上げられる不可解な出来事にも直面し徐々に不安を感じていく彼らの前に、別荘の所有者だというG・H(マハーシャラ・アリ)とその娘が訪ねてくる。彼らはマンハッタンで停電が起き、避難のためにここに来たと告げる。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

Netflixはなぜ年末になると“終末”を描くのか

本作の原作は、2020年に全米図書賞の最終選考に残ったルマーン・アラムの同名小説。毎年映画や音楽、小説などのお気に入りリストを発表するバラク・オバマ大統領が、2021年のお気に入り小説リストに加えたことで注目を集めた同作を、ラミ・マレックの出世作となったドラマシリーズ「MR.ROBOT/ミスター・ロボット」のクリエイターであるサム・イスマイル監督のメガホンのもと、オバマ大統領夫妻が製作総指揮を務めて映画化したものだ。

多種多様なオリジナル映画をコンスタントに発表しているNetflixは、年末になると本作のような“終末映画”を配信するというのが近年ではすっかりおなじみの流れになっている。2018年の年末にはサンドラ・ブロックが主演を務め、人類滅亡の危機のなかで家族を守るとする母親の逃避行を描く『バード・ボックス』(Netflixにて配信中)。2019年の年末には地球が滅ぶ目前まで北極に残る科学者をジョージ・クルーニーが演じたSF映画『ミッドナイトスカイ』(Netflixにて配信中)が配信。

さらに2021年に配信されアカデミー賞作品賞にノミネートされた『ドント・ルック・アップ』(Netflixにて配信中) は、巨大彗星の衝突に警鐘を鳴らす落ちこぼれ天文学者とその助手が世論から相手にされずに政治やメディアに振り回されていく様を皮肉たっぷりに描写。そして昨年末に配信されたノア・バームバック監督とアダム・ドライバーがタッグを組んだ『ホワイト・ノイズ』(Netflixにて配信中)も、少々変わり種ではあるが“終末感”を漂わせる作品であった。

古くからゾンビ映画や得体の知れない怪物の襲来など、比喩的表現で物語に落とし込まれてきた“終末”への不安感。例として挙げた作品はいずれも2020年以前に製作がスタートして作品ではあるが、パンデミックや戦争などが身近なものとなってきた昨今では、そうした不安が現実的なものとなりつつある。また、デジタル技術の目まぐるしい発展も含め、人間が制御できる領域を遥かに越える未知の脅威が増加していることも、この“終末映画”というジャンルを拡大させる一因になっていると言えよう。

今回の『終わらない週末』でも、主人公たち家族が電波障害に見舞われ、そこはかとない苛立ちと不安感に苛まれることからすべてが始まる。“終末映画”がこれまで以上にリアルに感じられる土壌が整った現代社会。そのなかで決まって描かれる“生きる”ことへの執着や、家族をはじめとした身近な人々への愛情。映画がどんな結末を迎えるにしろ、そこに描かれるテーマに視聴者が考えをめぐらすことで、心機一転して新たな年を迎える“希望”を各々に見出させる。そんなねらいがNetflixにはあるのだろう。

■監督自らカメオ出演!ヒッチコック映画からの影響も

座礁する巨大タンカーに、上空から撒かれる不穏なビラ。庭先に集まってくる鹿の群れに、暴走する無人自動車。劇中で主人公たちの“不安感”を煽り立てていく数々は、人間による環境破壊や政治・宗教、人種などの社会問題、自然の脅威から急激な発展を遂げる文明への危惧など、現代社会に蔓延する不安要素に直接的に通じるものばかり。

その一方でイスマイル監督自身も公言しているように、往年のディザスターパニック映画からアルフレッド・ヒッチコックのサスペンス映画まで多くの映画のエッセンスが随所に散りばめられており、興味は尽きない。とりわけヒッチコック映画化の影響は顕著で、序盤の別荘の階段をロバーツが上る際の奇妙なカメラワークは『めまい』(58)を彷彿させ、中盤にアリが『北北西に進路を取れ』(59)の名シーンを再現するかのような動きを見せる。さらにイスマイル監督自身がカメオ出演している点も同様だ。

奇しくも同じヒッチコック信奉者であるM.ナイト・シャマラン監督も先日『ノック 終末の訪問者』(23)という終末映画を手掛けていた。人里離れた場所にある家が舞台となる点や、そこにやってきた訪問者によって主人公たちが世界の終焉を知らされる一連、緊急放送が流れるテレビに墜落する旅客機など、様々な部分に本作との共通点が見受けられる。また、なにも解決しないまま観客に委ねられる本作の不条理性は『ハプニング』(08)を想起することもでき、シャマラン作品ファンは思わずにやりとしてしまうことだろう。

もう一つ、この『終わらない週末』を語る上で欠かせない要素は、1990年代を代表するシットコムの名作「フレンズ」である(ジュリア・ロバーツはこのドラマのシーズン2の第13話にゲストとして登場している)。アマンダとクレイの娘ローズ(ファーラー・マッケンジー)は、別荘に向かう車のなかでタブレットを使って「フレンズ」シーズン10の第17話「グランド・フィナーレ」を観ていたのだが、途中で電波が途絶えて続きが観られない。それから彼女は世界の終わりもそっちのけで、「フレンズ」のロス(デヴィッド・シュワイマー)とレイチェル(ジェニファー・アニストン)の結末が気になって仕方なくなる。

ラストでローズは、邸宅の地下シェルターに迷い込む。階段を降りる手前の壁に掲げられた絵に描かれた「Hope Begins in the Dark(希望は闇のなかから始まる)」という言葉は先述の通り、終末映画に必要な希望のメッセージを直接的にあらわしたものなのだろう。映画からドラマシリーズまで様々なタイトルがぎっしりと詰め込まれた壮観な棚には配信サービスの台頭によって失われつつある映像ソフトへの愛が溢れており、ローズはそこで待望の「フレンズ」の最終巻を手にする。

ハイウェイを暴走する車に飛行機事故を予感させるジョークなど、正反対の描き方とはいえ『終わらない週末』と予期せぬかたちでリンクするポイントがある「フレンズ」の「グランド・フィナーレ」。そこに描かれているのは“ホーム”を離れ、新たな旅立ちを迎える登場人物たちの姿に他ならない。そして陽気に鳴り響くザ・レンブランツの「I'll Be There For You」に込められているのは、ついてない日々を笑い飛ばし仲間と支え合うことの喜び。地球の終焉に置き換えたら“ついてない”では済まないが、やはりここにも一貫した希望のメッセージがあることがわかる。

文/久保田 和馬

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