タブレットやスマートフォンの使用が当たり前となった今日、子どもの視力は徐々に低下してきています。子どもの眼を守るために、どのようなことができるのでしょうか。医師の秋谷進氏が、視力低下の原因と予防策を解説します。
スマホやタブレットの普及で年々悪化する「子どもの視力」
自分が子どものころ、「テレビから十分距離をとって見なさい」「テレビから離れないと、どんどん目が悪くなるよ」などと親からいわれたことはありませんか?
その際、子どもながら思ったはずです。「本当にテレビを近くで見ると目が悪くなるのだろうか」と。
この昔からの言い伝えは、単なる迷信ではなく、現代科学によって裏付けられつつあります。そして今日、テレビだけでなく、スマートフォンやタブレットなど、さまざまな画面に囲まれた生活を送る子どもたちの「視力低下」が深刻な問題となっているのです。
文部科学省による「令和4年度学校保健統計調査」によると、各成長期における裸眼視力1.0未満の子の割合は次の通りです。
ちなみに昭和60年度では、高校生で裸眼視力が1.0以下の割合が51.65%。年々「目が悪い子ども」が増えていることがわかりますね。
特に、小学校からの視力の低下が著しい傾向にあります。
幼稚園では平成24年度と令和4年度と比較しても、むしろ視力が低下している割合は減っています。しかし小学校では、平成24年と比較すると7%以上の増加になっています。そしてその傾向は中学校、高等学校にも引き継がれ、それぞれ7%の増加となっています。
このように、子どもの視力は小学校を起点にして悪くなってきているのです。
子どもの視力が悪くなっている原因は?
では、どうして子どもの視力は小学校から悪くなるのでしょうか。最新の研究から以下のことがいわれています。
1.屋外活動の減少
外で遊ぶ機会がめっきり減ってしまっていることが原因のひとつです。屋外での活動を増やすことは、多くの調査で近視から目を守る作用があることがわかっています。
外に出ると、日の光に照らされた環境でしっかり体を動かして遊ぶようになります。日の光はビタミンDを作り、日の光とともに活動するので「サーカディアンリズム」といって、体内時計を調節するのにも役立ちます。
また、鬼ごっこやかくれんぼなど、屋外活動をすると自然に「遠くを見る」習慣が芽生えてきます。
このような利点が近視を予防するといわれているのですが、最近は屋外活動の機会が減ってきていることで、近視の子どもが増えてきているのです。
2.“近くでものを見る作業”の増加
屋外活動の代わりに増えてきているのは「近見作業」といって、近いところで見ながら作業する時間です。近見作業には読書や、パソコン、スマートフォンやタブレットの使用などが含まれます。
実は、近くの物を長時間見ることは、眼の屈折システムに負担をかけ、近視を促進する可能性があります。
京都女子大学の研究によると、
- 30cm以下の距離で作業をする子どもは、それ以上の距離で作業をする子どもに比べて、近視の割合が2.5倍になった。
- 1 回の読書時間が30分以上の子どもは、30分未満の子どもよりも近視の発症率が高かった。
といった報告があります。
3.デジタルデバイスの使用
さらに、近年の子どもの遊びや生活の特徴として「デジタルデバイス」の使用が挙げられます。
コロナ禍により、タブレットやスマートフォンの使用が増加しました。また、スマートフォンがないと周囲とのコミュニケーションがとれないということで、買ってもらっている子どもも多いでしょう。
さらに、新型コロナウイルスの影響でリモートワークやオンライン学習が増え、インターネットが日常生活に欠かせないものとなりました。これに伴い、子どもたちもパソコンやスマートフォンを長時間使用するようになってきています。
このようなスマートフォンなどのデジタルデバイスと近視の関連性は、15件の研究のうち7つの研究で認められています。
このように、近年小学生から近視が進んでいることの背景として、さまざまな要素が絡んでいることがわかるでしょう。
子どもの視力を守るために、大人の私たちができること
近年、子どもの視力は低下しています。逆にいえば、生活環境を整えて目に優しい生活を作ってあげれば、子どもの視力をもっとよくすることもできます。
たとえば、以下のことから始めてみてはどうでしょうか。
1.屋外活動を積極的にやってみる
子どもたちに毎日の屋外での遊びやスポーツを奨励しましょう。前述の通り、自然光の下での活動は視力保持に有効です。
家でテレビを見るだけでなく、積極的に外で遊んでみるのもいいでしょう。
2.スクリーンタイムを管理する
スマートフォンで遊ばせると静かになる子どもは多いため、つい使ってしまいますよね。しかし前述の通り、タブレットやスマートフォン、テレビは目にあまりよくありません。
デジタルデバイスの使用時間を制限し、まずは「20・20・20のルール(20分ごとに20秒間、20フィート※約6メートル先を見る)」を実践してみましょう。
3.適切な照明の確保する
教育水準が高くなっているなか、読書や勉強は必須ですし、目のためにそれらを制限するのは得策ではありません。そこで気をつけていただきたいのが「照明」です。
子どもが読書や勉強をする際は、十分な照明を用意し、目への負担を減らしてあげましょう。暗い場所での読書やスクリーンの見過ぎは、視力低下のリスクを高めます。
4.定期的な視力検査をする
どんな疾患でも、検査をしなければ発見することができません。なかなか普段の子どもの生活を注意深く見ていても、子どもの視力は推し量ることができないもの。「視力検査してはじめてわかった」という親も少なくないでしょう。
そこで、定期的に眼科医の検査を受けさせることが大切です。早期発見と対処をしてあげることで、視力低下を防げるほか、視力低下に伴う学力の低下や、生活の障害を防ぐことができるでしょう。
ゲーム機やスマホのデジタルデバイスの登場やSNSでの連絡の取り合い、外で活動する機会が減っているなか、子どもたちの視力低下はある程度仕方のないことかもしれません。
しかし、時代の流れで犠牲になるのは、子どもたちです。そして上記のように、親が子どもたちの視力を回復させるためにできることは多くあります。ぜひ子どもたちの「目の健康」を気にかけてみてください。
秋谷 進
医師
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