人生3大支出のひとつである「老後資金」。不安を抱く人も多いでしょう。しかし、正しいお金の知識を身につけ、明確な計画を立てておくことで、その不安は解消できると、FPである田中和紀氏はいいます。本記事では、金融業界25年のキャリアを持つFP田中和紀氏による著書『FPが教える!マネーリテラシーを高める教科書』(ごきげんビジネス出版)から、老後の資金計画の立て方について解説します。

老後の不安は「お金」ではなく「無知」からくる問題

人生3大支出において、老後は注目される話題であり、老後2,000万円問題もそのひとつでしょう。少子高齢化や日本の低成長で年金資金が足りなくなり、社会保険料や税金の負担が重くなりつつあります。

老後は働けず、お金を借りることも厳しい状況で、多くの人たちが不安となっています。マスコミも不安を煽れば注目されるため、老後不安の話題はつきません。老後不安を煽られ、ますます不安も続くという悪循環は社会を暗くしています。

しかし本当の不安はお金の問題ではなく、無知から来る問題ではないのでしょうか。お金があっても、盗難や浪費があればなくなります。知識があれば、盗難や浪費はもちろん、あらゆる危機に対処可能です。老後の不安も知識でカバーできるのです。

私個人の老後の考えをお伝えしましょう。私は普通のサラリーマンを10年で辞め、その後は15年以上自営業を営んでいます。現在は第1号被保険者であり、サラリーマンを続けている第2号被保険者より年金は期待できないため、プランを明確にしています。その計画は簡単で、ただ長く働き投資を続けることです。

年金を10年繰り下げ受給すると…

年金は65歳から受け取れますが、その時期を伸ばし、70歳や75歳で受け取ることを目指しています。年金受給を繰り下げることで、年金額は増額します。75歳からの受け取りであれば、65歳から受給できる額の1.84倍です。仮に100万円の年金であれば184万円、150万円の年金であれば276万円、200万円の年金であれば368万円。このように10年繰り下げることで、大きく変わってくるのです。

であれば、75歳まで働き続けることが必要になります。私の場合は自営業で定年はありません。あとは健康に気をつけておけばよいでしょう。そのために、健康管理や体力維持を自分なりに心がけています。仕事も嫌いではないので、モチベーションは維持しています。

そして仕事柄、投資も得意です。たとえ働けなくなっても、投資はアタマさえしっかりしていれば続けられます。仕事と投資の二刀流で、年金受給を伸ばす方針です。会社員に比べ、リスクがある自営業であり、貯蓄よりリスクがある投資ですが、自分にとっては心強い味方ですね。私の老後プランは、健康を維持し仕事を長く続け、投資や年金繰り下げでお金を準備していくスタンスです。

プランを明確にしていれば、不安は少なくなるでしょう。もちろん、人生は何が起こるかわかりませんが、知識があれば、そのときに対処可能かと思われます。

そして日本には、最低限の生活を保証する生活保護もあるのです。外国に比べれば社会保障恵まれています。不安でストレスを溜めて不幸にならず、知識を身につけ、ストレスを払拭しましょう。

老後のお金への対応は、明確なプランをもつことですが、基本は老後の収支を明確にすることです。そして消費を抑えることが最強になります。少ない支出で楽しく過ごせる術を学べばよいのです。限られた資産を効率的に使い、身の丈にあった消費ができるようになりましょう。

退職金だけでは足りない…会社員として老後に備える方法

老後資金の準備については、会社員であれば退職金や自助努力で対応していく人が大半でしょう。

その他にオススメは、DCやiDeCoといった非課税積立制度です。これらの年金積立は税制優遇が大きく、節税しながらお金の積み立てができ、投資も可能です。大企業では確定拠出年金であるDCの導入は進んでおり、多くの人たちが加入していることでしょう。DCを導入していない企業で働いていても、民間の金融機関が扱っているiDeCoに加入できます。

積み立てたお金は60歳まで引き出せませんが、税制優遇があり、長期投資ができることで、資産を築きやすい面があります。ぜひ老後資金の準備に検討しましょう。特徴である税制優遇について、3つの分野で優遇されます。

確定拠出年金で税制優遇される3つの分野

1つ目は、掛け金に対する優遇です。掛け金は非課税になります。iDeCoでは、税金の項目で先述した基礎控除や扶養控除などと同じように、掛け金すべてが控除となるのです。年間10万円の掛け金であれば、10万円が所得控除になります。掛け金が多ければ多いほど所得控除も大きくなります。民間の生命保険は、掛け金の半分程度の控除で上限も低いのですが、iDeCoは全額控除で上限も高めです。

2つ目に、運用益も非課税です。運用で利益を得られたとしても課税されません。株や投資信託の証券口座では、利益金の20%程度が課税されますが、その課税がないのです。よって、投資で多くの利益を得れば得るほど、税制優遇の恩恵は大きくなります。

3つ目に、受け取り時も税制優遇があります。受け取り時は退職所得か雑所得になりますが、退職所得控除や公的年金等控除が使えます。これらの枠を使い、非課税で引き出しも可能です。

以上3つの税制優遇があるため、多少投資でマイナスになっても、あまり慌てる必要はないでしょう。

「ほったらかし投資」でコツコツ積み立て

投資ができる積立制度は、投資をせず積み立てだけをしてもよいのです。投資は不向きと思えば、元本保証の積み立てだけを行っても、掛け金の税制優遇などはあります。積立投資をする加入者は、分散・長期の運用を心がければ、プラスも期待できます。

※分散:株式や債券の投資信託を多岐に渡って購入すること。1つの投資信託だけ購入していくのではなく、株や債券や海外の資産を万遍なく購入していく。

分散投資をすることで、リスクやストレスをやわらげることができ、それが長期投資にもつながり、購入資産の成長がプラスとなるのです。投資には、分散・長期投資を行えば利益になる確率が高い、という投資理論があります。要は世界の経済成長が続く限り、株などの資産はインフレなどの影響もあり、成長するという考えです。

投資といえば、株の価格を毎日見てトレードを常に行うイメージがあるかもしれませんが、実際はそのような運用ではなく、分散して長期で運用したほうが利益につながる可能性は高いのです。よって、老後資金も、このような運用で積み立てるほうが無難といえるかもしれません。リスクはありますが、ぜひトライしてみましょう。少額からの運用も可能です。

DCやiDeCoについては、企業などで説明する機会がよくあります。DCは最初のころは浸透しておらず、加入者は金融機関や会社への不信もありましたが、近年は普及しポジティブな印象で、好意的な意見や質問も増えました。

商品選択でも投資商品を選ぶ層が増え、順調に資産を増やしているケースが多いようです。年率10%もの利回りを実現している人も珍しくありません。アベノミクス以降の株高の影響もありますが、投資の心理的負担が少ない影響もあると思われます。

うまくいっている人に話を聞くと、相場をよくチェックしているわけでもないようです。積み立て途中で引き出せないので、相場に関心をもっても仕方がないとのことでした。この仕組みが心理的負担をやわらげ、コツコツと継続でき、長期分散投資が実現しやすくなっているのでしょう。投資は結局のところ心理なので、相場に関心を示さない層のほうが欲や不安に振り回されることなく、プラスになりやすいのでしょうか。

このように、老後資金はお金より知識でカバーすることであり、プランを明確にすることです。そして準備はDCやiDeCoが適しています。

先進国に遅れをとる日本の金融リテラシー

日本の金融リテラシーは欧米に比べ遅れており、ようやく進みはじめたといった段階かと思われます。欧米を中心とした先進国の金融教育は先に進んでおり、日本も追いつかねば、ますます豊かさから遠ざかってしまうでしょう。

欧米の金融教育に関して、学校で金融を学びはじめるのは小学校の低学年です。カリキュラムには投資教育もあり、高校などでは本格的に学習します。イギリスでは3歳から学び、国主導で行っており、金融が義務教育に組み込まれ、10歳前後でクレジットカード・経費・控除といった内容も学ぶようです。

米国でも州単位で違いはありますが、小学校では小切手の学習、高校では投資教育を行っています。また、学校だけでなく、地域や家庭でも学ぶ土壌があり、自然に身につく環境があるといえそうです。

過去20年で、欧米に比べると、日本の個人資産が増えていないワケ

日本の金融資産に占める預貯金の比率は50%程度で、欧米に比べれば多く、株などの投資比率は15%前後です。欧州では預貯金の割合が30%程度で、投資比率は30%程度。米国では預貯金が15%程度で、投資比率は45%程度です。

過去20年で比較した場合、日本は個人資産を約1.4倍、英国は約2.3倍、米国は約3.4倍にしています。日本は個人資産が株などに流入していない状況で、株の上昇率も低い。この差は金融教育も影響しているかもしれません。近年では、日本も高校での金融教育必須化や、投資非課税制度NISAやiDeCoなどの導入もあり、変化はしつつあります。

社会保険や税金に関して、他先進国と比べ負担率が大きいわけではなく、小さいわけでもありません。欧州に比べれば負担率は小さく、米国に比べれば負担率は大きいようです。

米国は自己責任の国で、税や保険料負担は少なめ。日本は法人税の負担率は高いようで、他消費税所得税に関しては欧州より少ないようです。今後消費税などは増税する可能性がある、といえそうです。

欧米の不動産は、移民受け入れで人口は増えており、日本の空き家問題などはなく、インフレとともに価格は上昇しています。地震や湿気も少なく、家は長持ちし、中古住宅の流通も盛んです。不動産価格の上昇は続いており、日本以上の上昇になっています。ただし、欧州の一部は下落しているところもあり、人口や経済成長に関係しているといえそうです。

比較的高額な日本の「相続税

相続は、日本の相続税は高いといわれます。実際に、最高税率は55%で、欧米の45%以上という数値と比較すると高めです。ただし、基礎控除では、日本は3,600万円に対して、仏は1,500万円程度、英独は5,000万円から6,000万円程度といった感じです。欧州と比較すると、高いほうではありますが、突出しているわけではありません。

米国などは基礎控除が6億円ほどで、富裕層以外の相続税はないといってよいでしょう。他先進国を見ると、カナダオーストラリア相続税を廃止し、中国やシンガポールはありません。これらの国は、富裕層を招きたい意図もあるのでしょう。相続税に関しては、不平等や格差解消の税金ではあり、必ずしもなくしたほうがよいともいえないようです。

田中 和紀

ファイナンシャルプランナー

※本記事は『FPが教える!マネーリテラシーを高める教科書』(ごきげんビジネス出版)一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

(※写真はイメージです/PIXTA)