当媒体「水先案内人」コーナーでもお馴染みのミュージカル文筆家・町田麻子さんが現地で観劇した公演のレポートと共に、最新のブロードウェイ情報をお届けするコラム。2024年冬号が到着!

毎年開幕ラッシュとなる春を控え、今年も旧作のクローズと新作のオープンの情報が入り乱れている冬のブロードウェイ。今シーズンは特にミュージカルが豊作で、1回の渡航ではとても押さえきれない数の開幕が予定されている。そんななかで今号は本連載の初心に立ち返り、現在上演中&間もなく開幕予定の全ミュージカルを後半でリストアップ、そして前半では、リストにある作品のうち私が直近の渡航で観てきたものを少し詳しめにご紹介。とはいえ前号で白状した通り、「直近」=昨年4月に観てきた作品は既にほとんどが取り上げ済みまたはクローズ済みなので、ちょっとしたズルを交えてお届けしよう。

■間もなくクローズ! 抱腹絶倒コメディ『シャックド』

『シャックド』が上演されているネダーランダー シアター。1月14日クローズを発表(筆者撮影)

残念ながら今月半ばでのクローズが発表されてしまった、昨年のトニー賞作品賞ノミネート作。とうもろこし畑が広がる田舎町で結婚を控えていた主人公カップルが、とうもろこしが急に腐るという謎現象に直面してひとまず結婚を取りやめ、ヒロインが問題解決のために向かったフロリダで出会った詐欺師とうもろこしの専門家と勘違いし、町に連れて帰ってきて婚約者よりもそっちを好きになってしまう……というぶっ飛んだ粗筋から分かる通り、それはもう抱腹絶倒コメディとしか言い表しようのない作品で、コメディの英語は難しいので正直、観光客向きではないかもしれない。だが、何でもかんでもミュージカルのネタにしてしまう凄さ、そして日本では考えられない観客の大大大爆笑ぶり、というブロードウェイの二大特徴(?)を肌で味わうには最適につき、味わいたければ急ぎ渡航されたし!

■読み飛ばし推奨!? ネタバレ回避が正解の『&ジュリエット』

『&ジュリエット』が上演されていたロンドンのシャフツベリー・シアター(筆者撮影)

実はまだウエストエンドでしか観ていないのだが、きっと大きくは変わっていないと思うので、ネタ少なめの今紹介してしまおう(ちょっとしたズル)。バックストリート・ボーイズブリトニー・スピアーズらの楽曲を手掛けてきたプロデューサー、マックス・マーティンのヒット曲をちりばめたジュークボックスミュージカルで、音楽が耳馴染み良く楽しいのもさることながら、とにかくストーリーが衝撃的に面白い! 知らずに観たほうがより楽しめること間違いなしなので観劇予定のある方は読み飛ばしていただきたいのだが、「ロミオとジュリエット」の結末に納得のいかないシェイクスピアの妻アンが夫(=沙翁本人)を巻き込み、ジュリエットは実は生きていたとの設定で続きを書いていくという展開だ。

死ななかったジュリエットはパリへと旅立ち、利害関係が一致した貴族と結婚しようとするものの、実はまだロミオのことが好きで、貴族はジュリエットのノンバイナリーな友達のことが気になっていて……と色々あった一幕の最後、実はロミオも生きていた! となった時にはあまりの面白さに開いた口が本当に塞がらないという初めての経験をした。そして二幕、アンに鼓舞されて自分の意志に目覚めたジュリエットがケイティ・ペリーの《Roar》を力強く歌い踊るクライマックスは、音楽、装置、衣裳、照明、振付、紙吹雪などひっくるめてミュージカル史に残る名シーン。ぜひともいつかブロードウェイで再見したい。

■番外編:ミュージアム・オブ・ブロードウェイ

オープンした演劇の博物館(筆者撮影)

ズルをした分、オマケにもう一本。といっても作品ではないのだが、2022年末に開館した新観光スポット、ミュージアム・オブ・ブロードウェイに行ってきたので軽くレポートを。ブロードウェイの歴史が学べる映像や解説パネルはもちろん、有名作品のセット模型や実際の衣裳と小道具、そして自分もその一部となって出演者気分が味わえる上に撮影まで可能な名作の名場面の再現セットなど、ビルの3フロア分にオタク心をくすぐる展示物が詰まった体験型ミュージアムだ。さらには劇作家や作曲家のインタビュー映像ゾーンまであって、オタクのみならずクリエイター志望者も楽しめそう。劇場街にあるため、観劇の合間に訪れるスポットとしてはかなりオススメなのだが……入場料が50ドル前後というのは、ちょっと割高かもしれない。

ライオンキング』の再現セットも!(筆者撮影)

ブロードウェイで上演中&開幕予定の全ミュージカルをチェック

【2023-24シーズンの新作】

*情報は2023年12月21日時点のもの

■既に始まっている作品

バック・トゥ・ザ・フューチャー

言わずと知れた大ヒット映画の舞台化。ロンドンオリヴィエ賞を受賞してのBW入り。
https://www.backtothefuturemusical.com/new-york/

『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』 1月28日まで

日本でも上演歴のあるオフのコメディが『モルモン』の初代主演コンビを得てオン進出。
https://gutenbergbway.com/

『Harmony』

ドイツの6人組エンターティナーの実話をB・マニロウの音楽で綴る。S・ボーゲスも出演。
https://harmonyanewmusical.com/

『How to Dance in Ohio

自閉症の若者たちを追ったドキュメンタリーに着想を得た新作。自閉症俳優たちが出演。
https://howtodanceinohiomusical.com/

『メリリーウィー・ロール・アロング』

D・ラドクリフらが出演し、オフでチケットがプラチナ化したリバイバル版がオンへ。
https://merrilyonbroadway.com/

『スパマロット』

福田雄一による日本版もお馴染み、2005年トニー賞受賞作が超豪華キャストでリバイバル。
http://spamalotthemusical.com/

■これから始まる作品

『酒とバラの日々』1月6日プレビュー開始予定

1962年の同名映画を『RENT』のM・グライフ演出で舞台化。ケリー・オハラら主演。
https://daysofwineandrosesbroadway.com/

『きみに読む物語』2月10日プレビュー開始予定

映画版も大ヒットしたベストセラー小説を『RENT』のM・グライフ演出でミュージカル化。
https://notebookmusical.com/

Water For Elephants』2月24日プレビュー開始予定

同名ベストセラー小説をスペクタクルにミュージカル化。『アキンボ』のJ・ストーン演出。
https://www.waterforelephantsthemusical.com/

The Who’s Tommy』3月8日プレビュー開始予定

日本でも上演歴のあるロックオペラのリバイバル。演出はオリジナル版と同じD・マカナフ。
https://tommythemusical.com/

アウトサイダー3月16日プレビュー開始予定

原作は同名小説および巨匠コッポラ監督による映画版。「持つ者と持たざる者」の物語。
https://outsidersmusical.com/

『レンピッカ』3月19日プレビュー開始予定

『ヘイディズタウン』の演出家の最新作。アールデコの画家レンピッカの半生を描く。
https://lempickamusical.com/

『Suffs3月26日プレビュー開始予定

参政権を求め闘った女性たちの物語。ヒラリー・クリントンがプロデューサーに名を連ねる。
https://suffsmusical.com/

『Hell’s Kitchen』3月28日プレビュー開始予定

アリシア・キーズのジュークボックスがオフからオンへ。こちらも演出はM・グライフ。
https://www.hellskitchen.com/

『The Heart of Rock and Roll』3月29日プレビュー開始予定

米のロックバンド、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのヒット曲に着想を得た新作コメディ
https://heartofrocknrollbway.com/

ウィズ3月29日プレビュー開始予定

1975年トニー賞受賞作のリバイバル。ブラックミュージックが炸裂する「オズの魔法使い」。
https://wizmusical.com/

『キャバレー4月1日プレビュー開始予定

カンダー&エッブの名作のリバイバル。英国で好評を博したエディ・レッドメイン主演版。
https://kitkat.club/cabaret-broadway/

【2022-23シーズンの準新作】

『&ジュリエット』

M・マーティンのヒット曲で綴るロミジュリの後日譚。トニー賞無冠を疑いたくなる傑作。
https://andjulietbroadway.com/

『ビューティフル・ノイズ

ニール・ダイアモンドの伝記系ジュークボックス。こちらもトニー賞無冠ながら意外と長寿。
https://abeautifulnoisethemusical.com/

『キンバリー・アキンボ』

早老症の女子高生の物語をJ・テソーリの音楽で。トニー賞で作品賞含む5冠を達成。
https://kimberlyakimbothemusical.com/

『シャックト』1月14日まで

とうもろこしが題材の抱腹絶倒コメディノンバイナリー俳優がトニー賞助演男優賞。
https://shuckedmusical.com/

スウィーニー・トッド

J・グローバンらの登板は1月14日まで。2月9日に新たな豪華キャストが投入される。
https://sweeneytoddbroadway.com/

【ロングラン作品】

■日本で既に上演された/されている作品

アラジン

ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/

シカゴ

オペラ座の怪人』の閉幕を受け、上演中の作品としては最長ロングランとなった名物作。
https://chicagothemusical.com/

ライオンキング

シカゴ』に次ぐロングラン第2位を安定飛行中の大名作。相変わらず満席を誇る。
https://www.lionking.com/

ムーランルージュ!』

2021年のトニー賞受賞作。原作はB・ラーマン監督の映画。さあ日本版と観比べよう。
https://moulinrougemusical.com/

ウィキッド』

定期的に観たい傑作。昨10月に開幕20周年を迎えた。今秋には待望の映画版も公開予定。
https://wickedthemusical.com/

■日本未上演の作品

『ブック・オブ・モルモン』

2011年のトニー賞を制した、もはや古典の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/

『ヘイディズタウン』

『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/

ハミルトン

近年最大のモンスター級ヒット作。リン=マニュエル・ミランダの才能にひれ伏そう。
https://hamiltonmusical.com/

『MJ The Musical』

M・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。トニー賞受賞の主演俳優は降板しロンドンへ。
https://mjthemusical.com/

『SIX: The Musical』

ヘンリー8世の6人の妻がガールズパワーを炸裂させる痛快作!バンドまで全員女性。
https://sixonbroadway.com/

プロフィール

町田麻子(まちだ・あさこ)

1980年ロンドン生まれ、横浜育ちのミュージカル文筆家。2002年早大一文演劇専修、2022年東京藝大楽理科卒。公演パンフレット、演劇誌、WEB等で主にミュージカルの解説文、インタビューやレポート記事を執筆。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。趣味は翻訳版の妄想キャスティング。

町田麻子ウェブサイト:
https://www.rodsputs.com/