一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。新年1回目は、世界の富裕層から注目され続ける「フィリピン」の投資対象としての魅力について探っていきます。

世界経済減速もフィリピンの経済成長は「東南アジアNo.1」

フィリピンの人口は、インドネシアに次ぐ約1億1,000万人。東南アジアを代表する経済大国です。近年は、コロナ期間を除いて経済成長率が6%を超える安定した経済成長を遂げききました。直近の経済成長率は、2022年7.6%、2023年5.6%(世界銀行着地予想)です。

2023年は世界経済の地政学リスクやインフレ、利上げの進行により、2022年に比べて経済成長にブレーキがかかった格好ですが、他の主要東南アジア諸国の世界銀行の経済成長率着地予想(インドネシア5.0%、ベトナム4.7%、マレーシア3.9%、タイ3.4%)を上回り、東南アジアでトップの経済成長率となりそうです。

そして、今後マルコ大統領が推し進める交通インフラ整備計画(BBM政策:Build Better More) などが進んでくると、経済成長がさらに加速していくことが期待されています。

活況続く「不動産市場」、「永住権取得」のハードルも低い

投資家はじめ、世界の富裕層から注目されるフィリピン。その不動産市場は、近年急速に拡大しています。その背景には、以下の3つの要因が挙げられます。

・経済成長に伴う中間層の拡大

・ドテルテ前政権からマルコス政権に引き継がれた大規模交通インフラ整備の進展

・海外からの投資の増加

フィリピンの経済成長率は、近年6%を超える安定した成長を遂げていて、これに伴い、中間層の人口が増加しており、住宅需要が非常に高まっています。また、インフラ整備の進展により、都市部への人口流入と住宅、オフィスショッピングモールなどの商業施設、工業団地、物流施設、カジノなど様々な不動産開発が同時進行的に進んでいます。さらに、海外からの投資も増加しており、コンドミニアム、オフィスビルやホテルなどへの投資需要が高まっています。

このような状況から、フィリピンの不動産市場は、今後も堅調に成長していくことが期待されています。

また、フィリピンの不動産は堅調に値上がりしてきているものの、日本に比べてるといまだ価格が安く、取得しやすい点も魅力です。価格面だけではなく、コンドミニアムなどの物件の取得においては、プレビルドという分割支払いの仕組みが導入されているため、購入者は、それぞれの資金状況に応じたフレキシブルなキャッシュフローマネジメントができることも魅力です。

フィリピンは、経済成長に伴う市場の拡大が見込まれる有望な国です。また、英語が公用語であるため、海外からの企業の進出がしやすい環境も整っています。事業進出にあたっては、輸出企業などに対する免税特典が魅力です。フィリピン政府は、全売上に対する輸出売上が一定の%以上の企業に対して法人税免税など各種税制優遇制度を整えています。これらの特典は、輸出企業の誘致や、輸出産業の振興、そして雇用の創出を目的としています。

また、フィリピンは、物価が安く、気候も良いため、リタイアメント先としても人気です。リタイアメントビザを取得すれば、フィリピンで無期限に居住・滞在することができます。

さらに、フィリピンには、投資家ビザ(SIRV)と呼ばれる、投資家向けの永住ビザがあり、以下の比較的簡単な要件を満たすことで取得できます。

・年齢が21歳以上であること

フィリピンの上場株式などへの投資額が7万5,000米ドル以上

フィリピンは、今後もさらなる成長が見込まれる有望な国であり、富裕層にとっても魅力的な投資先や事業進出先となるでしょう。

「フィリピン不動産」と「フィリピン株式」…特徴とリスク

それでは、ここからは、具体的な投資対象としての不動産と株式について、その特徴やリスクについて書いていきます。

(1)不動産投資

フィリピンの不動産市場は、今後も堅調に成長していくことが期待されています。特に、都市部の住宅や商業用不動産は、投資対象として魅力的です。とはいえ、すべてのフィリピン不動産が有望という訳ではありません。

フィリピン不動産投資の成功のためには、立地とディベロッパーの選定が大切です。

フィリピンの不動産市場は、都市部を中心に成長しています。そのため、不動産投資を行う際には、都市部へのアクセスが良好で、人口増加や経済成長が見込まれるエリアを選ぶことが重要です。

具体的には、マニラ首都圏、セブ、ダバオなどのエリアが有望です。さらにマニラ首都圏であれば、マカティー、ボニファシオ・グローバルシティー(BGC)、ベイエリア、ケソン、オルティガスなどです。

ディベロッパーとは、不動産開発を行う企業です。ディベロッパーの選定は、不動産投資の成功を左右する重要な要素です。信頼できるディベロッパーを選ぶためには、以下の点に注意しましょう。

・実績と信頼性

・資金力

・開発プロジェクトの質

実績と信頼性のあるディベロッパーは、これまでに成功した開発プロジェクトを複数持っており、顧客からの評価も高いです。また、資金力のあるディベロッパーは、開発プロジェクトを円滑に進めることができます。そして、開発プロジェクトの質が優れているディベロッパーの物件の資産価値は上がりやすい傾向にあります。

日本と比べて高い経済成長をしている国ですので、物件選定も千三つというようなことではなく、立地とディベロッパーの選定を慎重に行うことで、不動産投資の成功率が高まります。

フィリピン不動産投資の対象としては、以下のものが考えられます。

・居住用コンドミニアム

・ホテルコンドミニアム

リゾートコンドミニアム

オフィスビル

・REIT

フィリピン不動産投資のリスクとしては、プレビルドという投資しやすい仕組みがある反面として、物件が完成しないあるいは完成が大幅に遅れるというリスクがあります。このリスクに対しての対処は、やはりディベロッパーの選定です。前述したように実績のある信用できるディベロッパーの物件を取得することがとても重要です。

(2)フィリピン株式投資

次に、フィリピン株式投資について解説していきます。フィリピン株式投資の魅力は、以下の3つが挙げられます。

1)フィリピンの長期の経済成長を取り込む

フィリピン経済の成長は、当然フィリピン企業の業績に好影響を及ぼしています。そのため、フィリピン株式投資は、フィリピン経済の成長に投資することになります。

2)価格が安く買いやすく、分散しやすい

フィリピンの株式市場は、日本株と比べて、最低取得株数が少ないため、ほとんどの優良株が数千円程度で買えるという買いやすさが特徴です。さらに各銘柄が安く買えるので、様々な業種への分散投資がしやすいというメリットもあります。

3)上場銘柄が約300銘柄弱と少ないため優良銘柄が見分けやすい

フィリピン株式市場には、財閥、不動産、通信、金融、小売、製造、エネルギーなど、さまざまな業種の企業が上場していますが、上場銘柄が300銘柄弱と、日本の約4000銘柄などと比べて非常に少なく、いわゆるブルーチップと言われる優良銘柄を見つけることが容易にできます。

一方、フィリピン株式投資のリスクとしては、以下のようなことがあります。

1)為替リスク

昨今の円安傾向で、海外投資を躊躇する方が多いと思います。為替は、金利差だけではなく、経常収支や貿易収支、物価の違い、マネーサプライなど様々な要因で決まるため、予想することは難しいものです。フィリピンペソは対ドルで、日本円以上に変動の少ない安定した通貨ですので、読めない為替リスクを気にするよりもフィリピンの成長性に投資し、日本円だけではなく海外分散を行うという考え方もあると思います。

2)流動性リスク

フィリピンのブルーチップと言われる大型優良株は問題ないですが、中小型株の中には流動性が低い銘柄もありますので、注意が必要です。フィリピン株式投資は、フィリピン経済の成長や、価格の安さ、分散性の高さなどの魅力があります。一方で、為替リスクや流動性リスクも存在しますので、これらの魅力とリスクを十分に理解した上で、投資の判断を行うことが大切です。

魅力的なフィリピンだが…投資・事業進出で注意すべきこと

最後に、フィリピンへの投資や事業進出は、富裕層にとっても魅力的な選択肢の一つです。しかし、投資や進出を検討する際には、以下の点に注意が必要です。

フィリピンの法律や規制を理解すること

フィリピンの経済情勢を把握すること

・現地のパートナーや専門家のサポートを得ること

これらの点を踏まえて、慎重に検討・計画を進めることが大切です。

写真:PIXTA