※本記事は、東洋証券株式会社の中国株コラムから転載したものです。

産業用ロボット市場が世界最大規模の中国

南京市中心部から車を走らせること30分強。工場が立ち並ぶ江寧経済開発区の一角に南京埃斯頓自動化(エストン、002747)の本社が見えてきた。広大な敷地と洗練されたビル群。今年、創立30周年を迎える中国最大手の産業用ロボット企業だ。

社内に掲げられた「譲生活更美好(For a Better Life)」というスローガンからは、ロボットを通じて豊かな社会や生活を実現しようとする意志が強く感じられる。

中国は世界最大の産業用ロボット市場だ。国際ロボット連盟(IFR)によると、2022年の導入台数は29万300台。世界全体が55万3,000台なので、シェアは52.5%だ。産業用ロボットの2台に1台が中国で導入されていることになる。ちなみに2位は日本の5万400台、世界シェアは9.1%となる。

中国市場では、いわゆる“世界4強”のファナック安川電機、ABB、クーカ(美的集団傘下)のシェアが計39.6%と強く、外資系全体で6割程度を占める(22年、出荷台数ベース)。

地場系ではエストンのシェアが5.9%(6位)と最も高い。ただ、23年上半期に限るとファナックに次ぐ第2位に躍り出た。

背景にある「少子高齢化」と「国産化政策」

躍進の背景にあるのは、中国政府が進める国産化政策だ。「中国製造2025」では、25年までに自主ブランド(国産)シェアを70%に引き上げる目標が設定されている。23年上半期時点では43.7%(前年同期比7.7pt上昇)。エストンのIR部門幹部は「23年通年では50%まで高まりそう」と自信を示す。

少子化高齢化に伴う労働力不足から、中国では産業のオートメーション化が喫緊の課題。中国政府は23年1月、ロボット密度(製造業の労働者人口1万人当たりの産業用ロボット導入台数)を25年に20年(246台)比で倍増させる方針を発表している。

世界のロボット関連企業を次々買収する「エストン」

エストンは創業者の呉波董事長が大株主(41.95%出資)のオーナー企業だ。収益の柱をNC(数字制御)システムからロボット事業に転換し、成長を遂げてきた。

16年以降、3Dセンサー開発などの伊エウクリッド、ファクトリーオートメーション(FA)の独M.A.i、ロボットアームの米バレットに出資し、制御装置の英トリオ、溶接ロボット大手の独クロースを買収。産業用ロボットの売上構成比率は31.1%(16年)⇒77.3%(23年6月中間期)に上昇した。

中国では新エネルギー(新エネ車、リチウムイオン電池、太陽光パネルなど)分野で強みを持つという。国家政策に沿った成長産業への注力でシェアを伸ばしてきたようだ。

海外売上比率は29.3%(23年6月中間期)。現在は主にクロースが担うが、24年以降は「ESTUN」ブランドの海外進出を本格化させる。

同社の本社近くには送配電網システムを手がける大手国有企業がある。前述のIR幹部は「あの企業はクーカのロボットを使っているのよ!」と苦笑い。国有企業だから国産ロボットを使いなさい、と冗談半分で諭しているようだった。

逆にいえば市場拡大のチャンスはまだまだあるということ。年内には足元の年産能力2万台を5万台に引き上げる考えだ。「中国メーカー推し」の追い風を受け、今後のさらなる成長を見守りたい。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)