人出が戻り、運輸収入も回復基調にある鉄道業界。しかし一件落着とはいかず、その先で待ち受ける人口減少を見据えて動き出しています。自動運転に代表されるように、2024年は技術の熟成が求められる1年かもしれません。

コロナ禍の先には人口減少社会

2024年、鉄道はどうなるのでしょうか。2023年は新型コロナの「5類化」で行動制限が撤廃され、鉄道利用は急速に回復しました。

これまで漠然と「コロナ前には戻らない」といわれてきましたが、4年が経過し傾向がはっきり見えてきました。利用の回復と昨年の運賃改定が相まって、JR東日本と関東大手私鉄の定期外収入はほとんど戻りましたが、定期収入は10~20%減で推移しており、今年もこれ以上の回復は難しそうです。

一方、JR西日本と関西大手私鉄の定期収入は5%前後の減。直近でも月ごとに回復しており、コロナ禍前に近い水準まで戻る可能性があります。定期外は関東とは異なり10%程度の減ですが、年末にかけて回復した事業者も見られます。今年は関西鉄道事業者の収入がどこまでコロナ禍前に近づくか注目です。

しかし業績が回復しても、鉄道事業のあり方はコロナ禍前には戻れません。コロナを乗り越えたとしても、その先には本格的な人口減少社会が待っているからです。そんな将来を見据えた取り組みが姿を現し始めるのが、2024年という1年です。

まずはデジタル分野です。ここ1~2年、空港アクセス交通を中心にクレジットカードのタッチ決済乗車サービスが急速に広がっていますが、関西万博を来年に控えた関西では、2024年春に神戸市営地下鉄大阪モノレール、年内に近畿日本鉄道阪急電鉄阪神電鉄、年度内に大阪メトロがほぼ全線全駅に正式導入します。

また6月には大阪メトロ大阪シティバス、近鉄、京阪、南海、阪急、阪神が、QRコード乗車券「スルッとQRtto(クルット)」を導入予定です。ICカード、QRコード乗車券、タッチ決済の次世代改札3本柱が出そろう関西の動向は、今後の鉄道利用の在り方を占う試金石となりそうです。

自動運転 試験から本格運用へ

続いて列車運行の合理化、省力化です。今年、新たにワンマン運転を開始する路線は新型車両E131系の投入が完了するJR鶴見線。また昨年から水戸~いわき間の一部列車でワンマン運転を開始したJR常磐線が、土浦~いわき間に拡大します。

JR東日本は2021年に、山手線京浜東北線常磐緩行線などの主要路線で、2025年以降にワンマン運転を導入すると発表しています。すでにATO(自動列車運転装置)を導入している常磐緩行線が第一候補となりそうですが、2025年3月のダイヤ改正に向けて今年中に何らかの発表がありそうです。

私鉄でも阪急電鉄伊丹線で今年3月からワンマン運転を開始し、箕面線2026年春ごろ、嵐山線では2027年春ごろに導入する方針を発表。小田急電鉄も2025年度以降、傘下の箱根登山鉄道小田原~箱根湯本間でワンマン化を進める方針です。このほかにも今年は様々な計画、方針が示されるかもしれません。

ワンマン運転からさらに踏み込んだ取り組みが自動運転です。自動運転といっても現状、無人化は想定しておらず、先頭車両に運転資格を持たない係員が搭乗する「GoA2.5」と呼ばれる形態です。一見、大きく変わらないようにも思えますが、養成に時間と金のかかる運転士を削減できるのは、経費削減のみならず、担い手不足を見据えて重要な意味を持ちます。

これまでもJR山手線東海道新幹線東武大師線などで実証試験が行われており、昨年末には南海電鉄和歌山港線での試験を報道公開しましたが、今年3月のダイヤ改正で初めて正式導入されるのがJR九州香椎線です。

ワンマン運転には高度な技術開発が不可欠

JR九州自動列車停止装置の一種「ATS-DK」をベースに開発したATOは、2020年12月から3年間、香椎線で実証運転が行われており、昨年8月の第三者委員会で安全性、停止精度、法令や社内規則との整合などが検討され、実用化が可能と結論づけられました。

当面は車掌資格を前提とした社内資格「自動運転乗務員」が乗務する過渡的なものですが、鉄道業界において「前例」ができたのは非常に大きな意味を持ちます。香椎線の運用実績次第ですが、各社の導入計画が前倒しになる可能性も考えられます。

BRTの「自動運転」も進んでいます。JR東日本は、2022年から一部区間でレベル2自動運転を行っている気仙沼線BRTで、今年秋をめどに日本初の最高速度60km/hのレベル4自動運転を行うと発表しています。

レベル4とはドライバーの乗務を前提としない、無人運転が可能な自動運転です。運行区間は全長約73kmのうち約15.5kmに限られ、当面は係員が乗務して運行しますが、実績を見ながら拡大していくでしょう。

またJR西日本は昨年11月から、広島県の西条~広島大学東広島キャンパス間でBRTの公道走行試験を行っていますが、1月中旬からは自動運転と隊列走行を行う本格的な実証走行を開始します。

日本では東京BRTなどの都市型BRT気仙沼線日田彦山線のように被災路線のBRT化が知られていますが、JR西日本の取り組みは地方都市にフィットした、ある意味で本物のBRTです。「2020年代半ばの実用化」を目指すとしていますが、気が付けばあと1~2年。地方都市の風景を変え得る存在なのか。技術の熟成に注目です。

コロナ禍後の「鉄道のニューノーマル」が見えてきそうな2024年。今年サービスを開始するものだけでなく、どのような計画、方針が発表されるのかも楽しみです。

JR香椎線で行われた自動列車運転装置による試運転列車(乗りものニュース編集部撮影)。