「若手歌舞伎役者の登竜門」といえば新春浅草歌舞伎。今年も若手花形俳優たち、そして貫禄のベテラン勢が顔を揃える。1980年に、二世中村吉右衛門、五世中村勘九郎(十八世中村勘三郎)、坂東玉三郎の顔ぶれで「初春花形歌舞伎」としてスタートして以来、東京浅草のお正月を彩ってきた。

今年の浅草歌舞伎第1部は時代物の傑作『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう) 十種香』で幕を開ける。武田信玄の息子の勝頼が切腹したと聞いてもなお、勝頼の姿絵を前に一途に祈る情熱的な八重垣姫の恋を描く。『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし) 源氏店』では、深い因縁で結ばれたお富と与三郎が運命的に再会する物語が粋にドラマチックに繰り広げられる。田舎者のどんつくと江戸っ子たちを比べながら、華やかに江戸の風俗を楽しむ舞踊『神楽諷雲井曲毬(かぐらうたくもいのきょくまり) どんつく』で、出演者が勢ぞろいする。

第2部の一幕目は重厚な時代狂言の傑作、『一谷嫩軍記 熊谷陣屋(くまがいじんや)』だ。かつて受けた恩と忠義、16歳我が子への思いのはざまで苦悩する熊谷直実の人生とは。『流星(りゅうせい)』は雷夫婦の喧嘩を可笑しみを持って描く洒脱な舞踊。そして第2部の打出しは『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)』。家族を思うからこそ、ついに宗五郎は禁酒の誓いを破る。出演者が全員そろう切狂言だ。

12月に行われた『新春浅草歌舞伎』取材会より

そして今年で浅草歌舞伎を卒業するメンバー達が思い出をこう語る。
「この浅草歌舞伎をひっぱっていく立場を任された初年度の2015年、任せてもらううれしさと不安の中、みんなが積極的に僕に連絡くれて”僕にできること何でもします”と言ってくれたのがすごく心強かったですね。皆でワンチームとなってこの浅草歌舞伎を良くしようという気持が固まった、あの年のことがやはり一番思い出深いです」(尾上松也)。

「この浅草歌舞伎は(二世中村)吉右衛門のおじ様の、播磨屋の演目をさせていただける大事な機会でした。中でも「太十」(『絵本太功記』十段目)の武智光秀を勤めさせていただいたとき、おじさまから直接顔をしていただいたことが忘れられません。その後の自分の顔をする際の基本となっています」(中村歌昇)。

「最初の年、本当にお客さまが来て下さるのか不安と闘いながらも、盛り上げるための事前の宣伝活動として、短期間に大量のバラエティ番組に皆で出演しまくったのが強烈に思い出に残っています」(坂東巳之助)。

「2019年の『乗合船恵方萬歳(のりあいぶねえほうまんざい)』は、まさに全員が同時に舞台に出た貴重な機会でした。また千穐楽の日に幕が締まったあと、客席降りしたのを思い出します」(坂東新悟)

「先輩から受け取ったバトンを何とかしなきゃと思っていた最初の年の初日、お客さん入ってるかなと心配で幕だまりから皆で見た覚えがあります。お客さんがいっぱい入ってるのを確認して皆で“よかったね”と言い合ったことがよみがえります」(中村種之助)。

「最初の年、せっかくだからお年玉挨拶』を二人組でやってみようということになりました。でも緊張しすぎてどうにもかけあいがうまくいかず、翌年からまたひとりでの挨拶に戻ったことを覚えています(笑)。ポスター用に一人ひとりのカラーも決めましたね。僕はピンクで、今日(12月取材会時)もピンクのネクタイをしております」(中村米吉)。

ゴレンジャーならぬナナレンジャーを模してポスター、作りましたね。目を引くチラシ作りに皆でああでもないこうでもないと言い合って工夫したことを思い出します。この浅草歌舞伎は地域密着型の公演で、浅草の旦那衆や女将さん衆に公演期間中皆でお礼を言いに行ったことも思い出です」(中村隼人)。

コロナ禍で昨年は行われなかった恒例の『お年玉 年始ご挨拶』が4年ぶりに復活する。また昨年は第1部、2部で出演者を二分していたが、今年は部を越えてそれぞれの出し物にメンバーが相互に出演、まさに浅草歌舞伎ならではの楽しみな顔合わせも復活する。

数々の古典の大役に挑む若手花形俳優たちに今年も会いに行こう。

文:五十川晶子

<公演情報>
「新春浅草歌舞伎

出演:
尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村橋之助、中村莟玉

【第1部】11:00~
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、『本朝廿四孝 十種香』
出演
八重垣姫:中村米吉
武田勝頼:中村橋之助
腰元濡衣:坂東新悟
白須賀六郎:中村種之助
原小文治:坂東巳之助
長尾謙信:中村歌昇

二、『与話情浮名横櫛 源氏店』
作:三世瀬川如皐

出演
切られ与三郎:中村隼人
妾お富:中村米吉
番頭藤八:市村橘太郎
蝙蝠の安五郎:尾上松也
和泉屋多左衛門:中村歌六

三、『神楽諷雲井曲毬 どんつく』
出演
荷持どんつく:坂東巳之助
親方鶴太夫:中村歌昇
太鼓打:中村種之助
大工中村隼人
子守:中村莟玉
若旦那:中村橋之助
芸者:中村米吉
白酒売:坂東新悟
田舎侍:尾上松也

【第2部】15:00~
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』
出演
熊谷直実:中村歌昇
相模:坂東新悟
藤の方:中村莟玉
梶原平次景高:中村吉之丞
堤軍次:中村橋之助
源義経:坂東巳之助
白毫弥陀六:中村歌六

二、『流星』
出演
流星:中村種之助

三、『新皿屋舗月雨暈 魚屋宗五郎』
作:河竹黙阿弥

出演
魚屋宗五郎:尾上松也
女房おはま:坂東新悟
小奴三吉:中村種之助
磯部主計之助:中村隼人
菊茶屋娘おしげ:中村莟玉
菊茶屋女房おみつ:中村歌女之丞
父太兵衛:市村橘太郎
鳶吉五郎:中村橋之助
召使おなぎ:中村米吉
岩上典蔵:坂東巳之助
浦戸十左衛門:中村歌昇

2024年1月2日(火) ~1月26日(金)
会場:東京・浅草公会堂

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2329794

https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/833

「新春浅草歌舞伎2024」チラシ