個性派展覧会が目白押しとウワサの2024年がいよいよスタート! ここでは、今年、開催が予定されている美術展のなかから「西洋美術」をテーマにした企画を中心に、注目すべき展覧会をピックアップして紹介します。2024年も心をゆさぶるアートにたくさん出会える1年でありますように!

※各展覧会の会期等は変更になる可能性があります。詳細は各展覧会の公式HPなどでご確認下さい。

ニース市マティス美術館展示風景 2022年 Succession H. Matisse pour l’œuvre de Matisse Photo: François Fernandez

2024年もさまざまなジャンル、時代における巨匠たちの展覧会が目白押しだ。昨年、東京都美術館でフォーヴィスムの巨匠、マティスの大規模個展が開催されたが、2024年は国立新美術館『マティス 自由なフォルム』(2024年2月14日5月27日)が開催される。今回の展覧会は、色彩の魔術師とも呼ばれた彼が、晩年、筆をハサミに持ち替え切り開いた新境地、「切り紙絵」に焦点をあてたもの。彼が晩年を過ごした南フランスのニース市マティス美術館より、切り紙絵の代表的作例である《ブルー・ヌードⅣ》や4×8メートルの大作《花と果実》を含め切り紙絵の優品が紹介されるほか、絵画、彫刻、版画、テキスタイルなど約150点が展示される。さらに、最晩年にマティスが建設に取り組んだ「ヴァンスのロザリオ礼拝堂」を体感できる空間展示などもあり、マティス芸術をさまざまな側面から体感することができそうだ。

コンスタンティンブランクーシ 《接吻》 1907-10年、石膏、高さ28.0cm、石橋財団アーティゾン美術館

20世紀彫刻の巨匠の全容を紹介する国内美術館では初めての個展も開催される。ロダンに学んだ後に、アフリカオセアニアの表現を取り込み、独自の世界を構築。20世紀の彫刻史を大きく塗り替えたルーマニア出身のコンスタンティンブランクーシの展覧会ブランクーシ 本質を象る』3月30日7月7日)だ。アーティゾン美術館で開催される今回の個展では、写実性やロダンの影響が見られる初期から、主題の抽象化が進められていく1920年代以降まで約20点の彫刻作品が国内外から集結。さらに貴重なフレスコ画などの絵画作品やドローイング、写真作品など約90点でブランクーシの創作活動の変遷を辿っていく。ロダン以降の20世紀彫刻の領域を広げ、後続の芸術家たちにも大きな影響を与えたブランクーシの歩みを通覧できる貴重な機会だ。

明瞭な構成で描かれた風景や室内でありながら現実感がなく不思議で、それでいて惹きつけられずにはいられない「形而上絵画」で知られる画家、ジョルジョ・デ・キリコ(1888〜1978)。ダリやマグリットなどシュルレアリスムの画家たちのほか、多くのアーティストに影響を与えた巨匠のおよそ70年にわたる画業の全体像を見渡す回顧展『デ・キリコ展』が開催される(東京都美術館4月27日8月29日神戸市立博物館:9月14日12月8日[予定])。「形而上絵画」で注目を浴びたデ・キリコは、1919年以降は画風を大転換。古典絵画へと回帰しつつも、以前の「形而上絵画」も試作するなど、画風をさまざまなに変遷させていったことでも知られる。常に挑戦を続けたキリコの真髄に迫る展覧会だ。

『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』

東京国立近代美術館5月21日8月25日)と大阪中之島美術館9月14日12月8日)で開催される『TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション』は、両美術館、そしてパリ市立近代美術館のコレクションのなかから、共通点のある作品を「トリオ」で組み合わせるというユニークな展覧会。主題やモチーフ、色や形、作品が生まれた背景など、時代や流派、国籍を超えて組み合わされた34のトリオを通して、20世紀初頭から現代までのモダンアートの系譜を浮かび上がらせていく。パリ市立近代美術館アンリ・マティス《椅子にもたれるオダリスク》、東京国立近代美術館の萬鉄五郎《裸体美人》(重要文化財)、大阪中之島美術館のアメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》など、いずれも大都市の美術館として豊かなモダンアートのコレクションを形成してきた各館の名品たちが織りなすさまざまなトリオから、モダンアートの新しい見方を発見することができそうだ。

カナレット《ヴェネツィア、サン・ヴィオ広場から見たカナル・グランデ》1728年頃 油彩・キャンヴァス スコットランド国立美術館 (C)National Galleries of Scotland

「ヴェドゥータ」と呼ばれる都市景観画の巨匠として活躍したヴェネツィアの画家、カナレットの全貌を紹介する日本初の展覧会『カナレットとヴェネツィアの輝き』静岡県美術館7月27日9月29日)、SOMPO美術館10月12日12月28日)で開催される。17世紀末から18世紀にかけて、イギリス貴族の子弟たちは、見聞を広め教養を身につけるために「グランド・ツアー」なるヨーロッパ周遊旅行を楽しんでいた。人気の旅先であったヴェネツィアでは、旅の記念品として都市の景観を細密に描いた「ヴェドゥータ」が発展し、卓越した描写力を持つカナレットの作品はとりわけ人気があったのだ。そんなカナレットが描いた壮麗なヴェネツィアの風景とともに、カナレットが確立した都市景観画というジャンルを継承した19世紀の画家たちの作品も合わせて紹介される。

ルイーズ・ブルジョワ《ママン》1999/2000年 所蔵:森ビル株式会社(東京)

そして、六本木ヒルズのシンボルにもなっているクモの巨大彫刻《ママン》で知られる彫刻家の日本では27年ぶりとなる大規模個展ルイーズ・ブルジョワ展』(森美術館9月25日~2025年1月19日)にも注目したい。パリに生まれたルイーズ・ブルジョワ(1911〜2010)は、裕福ながらも問題を抱える家庭で育ち、後にニューヨークに移住して活躍した20世紀を代表するアーティストのひとりだ。自らの心の痛みや葛藤、生きづらさを投影した彼女の作品は、どれも見る人々の心を揺さぶる力強さを持っている。この展覧会では、ブルジョワの彫刻作品だけでなく、絵画やドローイング、インスタレーションも展示し、その活動の全貌にせまっていくもの。なかでも1930年代後半から1940年代後半までのキャリア初期に描かれた絵画作品の多くは東アジアでは初紹介となる。

クロード・モネ《睡蓮》 1916-1919 年頃  油彩/カンヴァス マルモッタン・モネ美術館、パリ (C)musée Marmottan Monet

2024年は1874年に第1回印象派展が開催されてから150 年。この節目の年を迎えるに際し、昨年から印象派やモネを扱う展覧会が多く開催されているが、そのなかでも国立西洋美術館で開催される『モネ 睡蓮のとき』10月5日〜2025年2月11日)は、印象派の巨匠モネの晩年の作品に注目するもの。パリのマルモッタン・モネ美術館から約50点のモネ作品に加え、日本国内の美術館から「睡蓮」をテーマにした絵画が数多くやってくる。会場では、「睡蓮」の大画面に囲まれ、絵画と一体になるような展示空間が演出されるという。光の移ろいをつぶさに描きこんだ作品から、画面には収まりきらないほどのダイナミックな筆致の作品まで、一人の画家が描いたさまざまな睡蓮の表現を楽しもう。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックムーランルージュ、ラ・グーリュ》1891年 リトグラフ 193.8×119.3 ㎝ 三菱一号館美術館

長期休館中だった三菱一号館美術館は11月に再開館が決定。これを記念した『再開館記念―トゥールーズ=ロートレックソフィ・カル展(仮称)』11月23日~2025年1月26日)は、三菱一号館美術館のコレクションを中心にしたロートレック作品と、フランスを代表する現代アーティスト、ソフィ・カルの新作の世界初公開という2つの目玉が並ぶ展覧会だ。ロートレックのパートでは、同館のコレクションのほか、フランス国立図書館の所蔵品も展示。また、ソフィ・カルの展示は2020年に予定されていたものの、コロナ禍でソフィ・カルの来日が叶わず中止となったもの。4年の歳月を経てようやく実現の運びとなった。三菱一号館美術館としては初の現存作家の展覧会でもある。ソフィ・カルは、三菱一号館美術館が所蔵するオディロン・ルドン《グラン・ブーケ》に着想を得た新作を初公開するほか、約40点を展示予定だ。

上記以外にもさまざまな展覧会や芸術祭が各地で予定されている。気になる展覧会をしっかりチェックして、2024年もアート鑑賞を存分に楽しもう。

文:浦島茂世

《形而上的なミューズたち》