年末年始はいかがお過ごしだろうか。忙しい台所仕事の隙間時間でも、こたつでうたた寝をしながらでも読める短編小説を、2023年にダ・ヴィンチWebで紹介した本から5冊ピックアップする。

  • まとめ記事の目次
  • ●神と黒蟹県
  • ●猫はわかっている
  • ●わたしに会いたい
  • ●君に選ばれたい人生だった
  • ●夜を走る トラブル短編集

●神と黒蟹県

神と黒蟹県
『神と黒蟹県』(絲山秋子/文藝春秋

 故郷を思い出したり、故郷に帰ったりする人も多いことだろう。『神と黒蟹県』(文藝春秋)は、絲山秋子の連作短編小説である。地方都市「黒蟹県」に異動してきた女性、三ヶ月凡の登場から物語は始まる。黒蟹県は、異動を知った同僚から「黒蟹県とはまた、微妙ですね」と言われてしまうほど地味で、特に際立った特徴のない土地柄である。彼らと入れ替わりに出てくるのが、タイトルにもある「神」である。物語が進むにつれ、登場人物たちが繋がっていく。彼らの生活を刻んだ温かい連作だ。

●猫はわかっている

猫はわかっている
『猫はわかっている』(文藝春秋

 もしかしたら、あなたも猫と一緒に過ごしているかもしれない。アンソロジー『猫はわかっている』(文藝春秋)には、猫にまつわる様々な物語が7話収録されている。余命幾ばくもない猫を引き取った雑誌編集者、各家をわたり歩く野良猫のように複数の名前を持つ女性、妊娠を機に猫アレルギーになった姉から猫を預けられる妹……。味わいがまったく異なる猫の短編小説である。

●わたしに会いたい

わたしに会いたい
『わたしに会いたい』(西加奈子/集英社

 女性という鎧を着続けたり、いったん脱いだりしているあなたには、西加奈子『わたしに会いたい』(集英社)をおすすめする。本書は全8章からなる短編小説集である。ドッペルゲンガーの存在意義を追求する少女、周囲の価値観に合わせて自分の体を粗末に扱う女性など、一風変わった人物が多数登場する。「わたし」の体、心、性、あらゆる角度から主人公の生きづらさに切り込む作品である。

●君に選ばれたい人生だった

君に選ばれたい人生だった
『君に選ばれたい人生だった』(メンヘラ大学生/KADOKAWA

 年末年始くらいは青春を思い出してみるのもよいだろう。Xのフォロワーが33万人超えのメンヘラ大学生の短編小説集『君に選ばれたい人生だった』(KADOKAWA)。「選ばれなかった5人」の物語が連作形式で鮮やかに綴られていく。高校生の主人公の切ない恋心、高みを目指す恋人への執着心、役者を目指す男性とそれを応援する就活生の恋愛模様……。「選ばれなかった」という後悔を引きずりながらも、人生に対して「前向きに進もう」ともがく人々の物語である。

●夜を走る トラブル短編集

夜を走る トラブル短編集
『夜を走る トラブル短編集』(筒井康隆/KADOKAWA

 SFが好きなあなたには、筒井康隆『夜を走る トラブル短編集』(KADOKAWA)はいかがだろうか。収録されている短編小説の初出は1970年代が多いと言われており、現在実現しているものと、今でも実現していないものについて、当時の描かれ方の違いを探ることができる。テレビ電話、捻転して宇宙とつながる腸……。それはもうあるよ、と思うものから、そんなことってある? と笑ってしまうものまで、SFの楽しみを知ることができる一冊だ。

 本はいつだって私たちの味方だ。ページをめくれば、自分の過去に寄り添ったり、新しい年に踏み出す勇気をくれたりする。すべての人々の様々な想いが、読書と共にありますように。

文=高松霞

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