欧州経済では、金融引き締め政策によってインフレ率の低下は見受けられるものの、実質成長率はマイナスになる状況が続いています。本記事では、ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏、高山武士氏が、2024年の欧州経済の見通しについて詳しく解説します。

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1.経済・金融環境の現状

(実体経済)7-9月期は再びマイナス成長に

欧州経済1は、コロナ禍で大きく落ち込んだ後、回復基調を辿っていたが、ロシアウクライナ戦争の勃発を機にエネルギー価格が高騰、インフレの加速を受けて金融引き締めを積極化した昨年から停滞感が強まった。

ユーロ圏の7-9月期の実質成長率は前期比▲0.1%(年率換算:▲0.5%)となり、22年10-12月期(前期比▲0.1%、年率換算▲0.4%)以来のマイナス成長となった。

主要国の成長率は、ドイツ前期比▲0.1%(前期:0.1%)、フランス▲0.1%(前期:0.6%)、イタリア0.1%(前期:▲0.4%)、スペイン0.3%(前期:0.4%)となった。

昨年夏(22年7-9月期)との比較である前年比でみると、ユーロ圏全体では0.0%となった(図表3)。

つまり、GDP水準は景気減速懸念が強まった昨年秋とほぼ同じで、ほとんど成長していない。国別に見ると、大国ではギリシャポルトガルスペインと言った国が比較的高めの成長を実現したのに対して、オランダドイツオーストリアが低迷している。

産業別の付加価値伸び率を前期比で見ると、情報通信が前期比1.0%、芸術・娯楽・その他が前期比1.6%と高い伸び率を記録する一方、工業が前期比▲1.0%、農林水産が前期比▲0.9%で成長率の押し下げ要因になっている。

前年比(図表4の横軸)でも情報通信(前年比4.0%)、芸術・娯楽・その他(前年比3.4%)が高い伸びとなる一方、工業が▲2.3%と大幅マイナスとなった。国別には、ドイツイタリアの工業(建設除く)の低迷が全体の成長を押し下げている(図表5)2

需要項目別には、個人消費が前期比0.3%(前期:0.0%)、投資が0.0%(前期:▲0.1%)、政府消費が0.3%(前期:0.2%)、輸出が▲1.1%(前期:▲1.1%)、輸入が▲1.2%(前期:0.0%)だった3(図表6)。

また、在庫変動等の寄与度が▲0.35%ポイント(前期:0.70%ポイント)、外需の寄与度が0.00%ポイント(前期:▲0.61%ポイント)となった。7-9月期は4-6月期と比べれば消費がやや盛り返したものの、依然としてその勢いは弱い。また、投資や輸出の低迷も続いている。

前年比成長率を見ると、主要項目である個人消費(前年比▲0.4%)、投資(前年比▲0.1%)、輸出(前年比▲2.8%)がいずれもマイナスであり、成長のけん引役が不在の状況にある。国別には特にドイツにおける消費や輸出の低迷が目立つ(図表7)。

種類別の消費や投資の動向は、これまでと同様の傾向にある。消費では財消費が低迷する一方、サービス消費が成長している(図表8)。

投資では、知的財産投資が全体の伸びをけん引、機械投資(ソフトウェア含む)はごく緩やかに伸びる一方、金利に敏感な建築物投資(特に住宅投資)は緩やかな減少が続いている(図表9)。

輸出については、財貿易の低迷が続く中で、これまで伸びをけん引してきたサービス輸出も前期比マイナスと頭打ちになったため、全体で見た下落幅が大きくなった(図表10)。

交易条件も、交易損失がコロナ禍前の18年頃に経験した程度の水準まで低下したのち、7-9月期の改善幅は限定的となった(図表11)。

輸出入物価はいずれも22年7-9月期をピークに下落が続いているものの、7-9月期は輸出物価の減速ペースが減少したことで交易条件の改善が緩やかになっている。また、経常黒字も23年6月にコロナ禍後のピークを更新した後、横ばい圏で推移している(図表12)。

総じて、域外環境はロシアウクライナ侵攻後の悪化から改善が進んで安定しつつあり、現在では世界的な需要鈍化による影響で実質ベースでの貿易低迷が鮮明になっていると言える。

サーベイデータでより最近の状況まで確認すると、後述するようにインフレは大幅に低下したものの、景況感に明確な改善は見られない。企業景況感は足もと11月まで低迷した状況が続き、消費者景況の改善も頭打ちとなっている(図表13)。

製造業、サービス業ともに需要要因を生産の抑制要因として挙げる企業が増えており(図表14)、コロナ禍後のペントアップ需要が一巡し、域外需要の減速や金融引き締めの効果により実体経済の景気減速感が強まっていること、

加えて、エネルギー価格高騰の余波でガス価格は低下したものの依然としてコロナ禍前の水準よりは高い状態にあること(後掲図表16)などが景況感を低迷させていると見られる。


123年1月1日からクロアチアがユーロを導入しユーロ圏は20か国となった。以下は特に断りがない限り(22年以前のデータであっても)20か国のデータを扱う。

2その他の国でも工業の低迷が目立つ。これはアイルランドの工業が低迷している寄与が大きい。

3投資の伸びは、外資系多国籍企業の活動のGDPへの寄与が大きいアイルランドの投資(主に無形資産投資(知的財産生産物))の動向に左右される部分が大きい。アイルランドを除く投資の伸び率は7-9月期で前期比0.1%(前期:▲0.1%)となっている。

(ガス需要)エネルギー危機に至るリスクは低いが価格の再上昇は経済の重しに

ロシアウクライナ戦争以降はロシア産天然ガスの調達が縮小したため、今年もガス需要の高まる冬場に、ガス不足懸念が高まる恐れがある。ただし、EUでは昨年に引き続き冬に備えガス備蓄を進め、代替調達も推進してきたのでエネルギー危機に陥る可能性は低い(図表15)。

ただし、卸売ガス価格がコロナ禍前の平均と比較して高水準あることは(図表16)、特に製造業企業の負担となっている。

冬場のガス需要が増加すれば、エネルギー価格が上昇し、企業の負担をさらに悪化させるリスクとなる。足もと、欧州の天候が例年よりも低いこともあってガス備蓄の低下ペースが加速している。

また、欧州ではガスの代替調達の一環として、LNG調達も増加させている。LNG価格は欧州だけでなく、中国などアジア需要も価格を左右する重要な要因となる。

(物価・賃金)インフレ率は大幅に低下

原材料価格下落や需要低迷を受けて、総合インフレ率は大幅に低下し、コアインフレ率を含む基調的インフレ率も総じてピークアウトした。

消費者物価(HICP)上昇率は23年11月で前年比2.4%(速報値)となり、22年10月(10.6%)をピークに低下し、ECBの物価目標(2%)が視野に入る状況となった(図表17)。コアHICP上昇率も11月の前年比で3.6%とピーク(23年3月の5.7%)から低下した。

コアインフレ率の低下は、エネルギーだけでなく、エネルギーを除く財価格やサービス価格のインフレ圧力も低下していることを示している(図表18)。

ECBが重視する基調的なインフレ指標も総じてピークアウトした(図表19)4

同じくECBが注目するGDPデフレータについては、成長が減速するなかでも賃金上昇圧力が強いため単位労働コスト(単位雇用者報酬)は加速しているものの、企業利益単価(単位営業余剰)の伸びが減速していることで全体の伸びが抑制されている(図表20)。

総じてディスインフレ傾向にあるが、今後のインフレ低下のスピードに関しては、依然として不確実性が残っている。エネルギー価格は(昨年冬以降に低下に向かったため)、今後はベース効果によって前年比で見た上昇率が下がりにくくなる。

中東地域の紛争など地政学的要因により、再び外生的な供給ショックが発生し、エネルギー価格が上昇するリスクもある。

より基調的な要因としても、労働者の賃上げ要求や企業の利益確保の動きは不確実であり、今後の労使交渉の結果次第ではインフレ圧力が継続し、インフレ鎮静化のペースが遅くなる可能性がある。

基調的なインフレ動向の先行きを見極める上で重要な要素が、サービスインフレと連動性の高い賃金の動向である。

ユーロ圏の雇用者数は7-9月期に前期比0.2%(10-12月期:0.1%)と成長率を上回る増加を続けている。失業率は過去最低水準の6%台半ばで推移しており、雇用環境は堅調さを維持している(図表21)。

景気が減速するなかでも雇用が堅調である理由としては、実質賃金の低下を受けた労働需要の増加、高齢化(将来の雇用減)を見越した労働力確保の動きや人材の囲い込み(熟練労働者確保)、求人広告コストの低下、病気休暇の増加や労働時間の短縮といった労働供給制約、などが指摘されている。

このうち、総労働時間は7-9月期に前期比▲0.1%(10-12月期:0.3%)と成長率並みに減速し、コロナショック以降の雇用者数の増加に比べて緩慢な回復にとどまる。

こうした堅調な雇用環境を背景に、7-9月期の妥結賃金上昇率は前年比4.7%(4-6月期4.4%)と、23年に入り4%を超える伸び率が維持されている(図表22)。

賃金改定の頻度が限られていることから、賃金上昇率は粘着的で、サービスインフレの低下スピードも緩やかになると見られる。ECBも単位労働コストの上昇のため、基調的なインフレ率のうち域内インフレの低下が限定的である点を指摘している(図表19の青線)。

ただし、景気減速を受けて、雇用環境も若干だが軟化している。人手不足感は特に景気の減速感が強い製造業で低下しており(前掲図表14)、わずかではあるが、若年失業率も悪化しはじめている。

賃金上昇率も先行指数と見なせる求人賃金については3%台まで低下している(図表22)。賃金動向は将来のインフレ動向を見極める上でも重要であることから、ECBも24年初の賃金交渉結果に注目している5


4図表19ではECBスタッフが中長期的なインフレを見る上で優れていると特定した3指標を色付けしている。なお、PCCIはインフレ率の持続・共通要素(Persistent and Common Component of Inflation)であり、12か国の目的別指数から特異かつ一時的な変動を取り除いたもの、域内インフレは、輸入集約度(import intensity)が18%以下の品目を集計したもの、スーパーコアはコアインフレ率から需給ギャップの変動に連動しやすい項目を集計したもの。

5例えば、10月・12月のECB政策理事会で議論されている。ECB, Meeting of 25-26 October 2023, Account of the monetary policy meeting of the Governing Council of the European Central Bank held in Athens on Wednesday and Thursday, 23 November 2023(23年12月14日アクセス)。Christine Lagarde, Luis de Guindos, PRESS CONFERENCE, 14 December 2023(23年12月15日アクセス)。

(財政政策)制限的な財政スタンスが継続

コロナ危機やエネルギー危機が去ったことで、ユーロ圏では構造改革を進めつつ、段階的かつ現実的に財政健全化を進める方針が示されている。

24年の各国予算案(欧州委員会による評価)は、総じてエネルギー危機の後退を受けた支出削減により、財政スタンス6が23年に続きやや緊縮化される見込みとなっている。

また、ユーログループでもこうした制限的な財政スタンスは、財政の持続可能性を高めインフレ圧力の助長を回避するために適切であると確認された7

財政赤字で見ればユーロ圏全体でGDP比3%弱と予想されており、財政スタンスの緊縮度合いは急激ではないものの、景気の下支え効果は弱まると見られる。

なお、ドイツでは連邦憲法裁判所がコロナ禍対策資金の未使用分(600億ユーロ)を気候変動対策資金に転用する措置に違憲判決を下した。これを受けて、財源について連立与党内における財政規律に対する姿勢の違いから、24年度の予算合意が遅れる事態となっていた8

また、コロナ禍以降に一時免除されていた安定・成長協定(SGP)による財政ルールについて、24年以降に再適用される方針であるものの、財政ルール抵触時の健全化義務に関する柔軟性を巡って交渉が続いており新しいルールはまだ合意されていない9

ただし、新しい財政ルールもGDPで財政赤字3%、債務残高60%という基準は維持される予定である。


6前期の基礎的構造的財政収支(primary structural balance、国債費を除く裁量的な財政政策による収支)と今期の同収支の差。前期と比較して今期の財政支出姿勢が緩和的(拡張的)であるか、緊縮的(制限的)であるかを示す指標。

7ただし、一部の国は23年7月に閣僚理事会で採択された財政勧告から(部分的に)逸脱されているとも指摘されている。European Commission, 2024 Draft budgetary plans Overall Assessment, 21 November 2023(23年12月14日アクセス)、およびEurogroup, Eurogroup statement on draft budgetary plans for 2024, 7 December 2023(23年12月14日アクセス)。

8最終的に、気候変動対策資金を中心に歳出削減を行うことで合意された。なお、20年以降に適用除外とされてきた新規借入を制限する「債務ブレーキ」については、24年は順守する方針となった。Sam Jones, Germany agrees budget deal to plug €17bn hole after debt ruling, Financial Times, December13(23年12月14日アクセス)。

9例えば、Paola Tamma, EU finance ministers fail to agree on fiscal rules, Financial Times, December 8 2023(23年12月14日アクセス)。

(金融政策・金利)「データ次第」で運営される中、市場では利下げの織り込みも

ECBは、高インフレを受けて22年7月から23年9月まで10会合連続の利上げを実施、政策金利を計4.50%ポイント引き上げてきたが、10月以降は「データ次第」の原則のもと、政策金利を据え置いている。

また、最新データの評価にあたって、ECBは「反応関数」として(1)最新の経済・金融データに照らしたインフレ見通しの評価、(2)基調的なインフレ動向、(3)金融政策の伝達状況を挙げ、これらの観点から金融政策を決定するとしている。

(1)のインフレ見通しに関しては12月の理事会において、総合インフレが25年4-6月期に2%まで低下するとしたスタッフ見通しを公表、今後のインフレ低下スピードは緩慢になると想定している10

(2)の基調的なインフレ動向は、前述の通り総じてピークアウトしているが、域内インフレなど一部の低下は限定的となっている。

(3)金融政策の伝達状況については、金融環境面では資金調達環境が引き締まり(図表23)、実体経済においてもこれまで確認してきたようにインフレ率の低下が進んできたと評価されている

ECBは利下げについては、時期尚早との見解を示しているものの、市場ではインフレ低下が続いていることから、24年前半の利下げが織り込まれ始めている。

ECBは保有資産残高の圧縮に向けた動きも進めている。これまで23年3月にはAPP(資産購入策)で保有してきた債券残高の縮小を開始し、7月にはAPPの償還再投資を完全に停止、流動性供給策(TLTROIII)の返済も進んだためにバランスシートの縮小は進展してきた(図表23)。

加えて、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)についても12月の理事会において、24年7月以降はPEPPの保有残高を月額75億ユーロ削減し(再投資の約50%に相当)、12月末で再投資を完全に終了予定とすることが決定された。

PEPPについては、南欧諸国との利回り格差の拡大(いわゆる「分断化」)への対応策として、償還再投資の柔軟化が22年6月以降に適用され、南欧債が重点的に購入されてきた(図表24)。

PEPPの償還再投資を完全に終了することは、利用しやすい「分断化」対応策を失うことを意味するが11、コロナ禍が終了し、足もとで断片化リスクが見られないことからさらなるバランスシートの正常化に踏み切った形になる。

10なお、コアインフレ率はECBの予測期間終了時点(26年末)でも2%を上回るという予想になっている(25年10-12月期に2.1%まで低下し、横ばい推移する予想となっている)。

11分断化対応策については、PEPPの償還再投資の柔軟化の他、22年7月にTPI(伝達保護措置)が公表されたが、使用実績はない。詳細は伊藤さゆり(2022)「ECBの新枠組みだけではユーロ圏の分断化は防げない」『Weekly エコノミストレター』2022-08-08を参照。

2.経済・金融環境の見通し

見通し)インフレ率低下で実質ベースでの回復が継続)

今後については、景況感が弱含む中で早期の成長加速は見込みにくい。ただし、インフレ率の低下が緩やかに実質ベースでの回復を促すと見られる。また、24年後半から25年にかけてECBが利下げに転じることも景気の下支えになるだろう。

消費については、インフレ率が急速に低下傾向したことで実質所得環境が大幅に改善した。7-9月期は、雇用者全体の実質賃金総額が前年比プラスとなっただけでなく、1人あたりの実質賃金伸び率もプラス転嫁した(図表25)。

景況感の悪い状況が続いているため、「過剰貯蓄」のバッファーが取り崩されて消費が活性化することも見込みにくいが、実質ベースでの緩やかな改善が続くと見られる。

投資については、企業の財務状況が安定しているなかで、グリーン化・デジタル化に対する需要が引き続き伸びを主導するだろう。

24年および25年については23年並みのRRF(復興・強靭化ファシリティ、復興基金の中核)からの資金受領を期待でき、投資の下支えになる。ただし資金調達環境がタイト化するなか、企業の投資拡大意向が縮小している(図表26)。

10-11月時点での23年の投資拡大見込みは3-4月時点における予定よりも縮小しており、24年の予定についても消極化している。そのため投資の伸びはごく緩やかなものにとどまるだろう。

域外経済については、当面、期待できない状況が続くと見ている。最大の輸出相手国である米国では中銀の金融引き締めによる成長率の低下、中国も不動産不況などによる内需の低迷が見込まれることから、輸出のけん引役が不在の状況が続くと予想される。

上記を踏まえれば、ユーロ圏経済の力強い加速は期待できない状況が続きそうだが、インフレ率の低下にあわせる形での緩やかな成長は達成できると考える。暦年でみた欧州経済の成長率は23年0.4%、24年0.7%、25年1.5%になると予想する(図表27)。

インフレ率は23年で5.4%、24年2.4%、25年2.1%と予想する(表紙図表2、図表27)。

総合インフレ率は足もとで大幅に低下したものの、今後はエネルギー価格のマイナス寄与が縮小していくと見られることから、一段の低下は難しくなるだろう。

サービスインフレや賃金、基調的なインフレ率にもピークアウトの兆しが見られるが、妥結賃金上昇率は24年も4%前後の高さを維持すると見られ、今後の低下スピードはあくまでもゆっくりとしたものになると予想する。

その結果、2%台での推移は続くが、24年末までは2%目標の達成には至らないと予想している。

ECBは、24年前半までは賃金交渉の結果を見極めるために、様子見姿勢を続けると見られる。メインシナリオでは賃金上昇圧力がやや強い状況が継続すると見ているため、ECBが利下げに転じるのは24年下半期になり、利下げも段階的に進められると予想する。

政策金利はECBの市場介入金利(MRO、主要レポ金利)で23年末4.5%、24年末3.5%、25年末2.25%と予想している(預金ファシリティ金利では23年末4.0%、24年末3.0%、25年末1.75%)。

ドイツ10年債金利は、23年平均2.4%、24年平均2.3%、25年平均2.0%での推移すると予想している(表紙図表2、図表27)。

PEPPの償還再投資の段階的削減に伴い、「分断化」防止手段は制約されるが、南欧金利の上昇などは想定しておらず、域内の金利格差(「分断化」)がECBの金融引き締めを阻害する可能性は低いと考えている。

なお、24年6月には欧州議会選挙が予定されている。引き続き中道右派(EPP:欧州人民党)や中道左派(S&D:社会民主進歩同盟)を中心とした親EU政党が多数派を占めると見られる。

一方、前回19年の選挙で票を伸ばした環境・地域主義政党(Green/EFA:緑の党・欧州自由連合)や中道リベラル派(Renew Europe:欧州刷新)は票を減らす見通しであり、替わってEU懐疑派がどの程度議席を伸ばすのかが注目される。

選挙後には新体制の欧州委員会が発足するが、メインシナリオでは現在のフォンデアライエン委員長の下で進められているグリーン化(欧州グリーンディール)やデジタル化といった政策路線が引き続き継続されると想定している。

(リスク)成長率は下方、インフレは上下双方にリスク

予想に対するリスクは、引き続き成長率に対しては下振れリスクに傾き、インフレ見通しに対しては上振れと下振れの双方にリスクがあると考える。

成長率の下振れリスクとしては、金融引き締めの長期化に伴う金融システムリスクの顕在化や実体経済の想定以上の減速、域外需要の悪化が挙げられる。

金融システムリスクについては、ユーロ圏金融機関の健全性は高まっているが、景気減速を受けて不良債権が増加する可能性がある。オーストラリアの不動産大手シグナの経営破綻12はその一例と言える。

ユーロ圏金融機関の健全性は高いことから、メインシナリオでは実体経済への影響は限定的と考えているが、ノンバンクなど相対的に規制の緩い金融機関を中心に金融引き締めにより、ストレスが強まり経営が悪化する可能性がある。

また、商業用不動産をはじめとした不振業種で経営不振に陥る企業が増加することで、直接的に経済への下押し圧力が強まる可能性がある。

域外経済では、米国の金融引き締めの影響で想定以上に経済が悪化する、中国の不動産不況が深刻化し需要が停滞するといったことがリスクになるだろう。

インフレについては、上振れリスクとして、これまでと同様、エネルギー需要の高まりとそれに伴う価格高騰、賃金上昇圧力が持続しインフレ率の低下ペースが遅くなるリスクが挙げられる。

エネルギー需要の高まりについては、厳冬やLNG輸入の大きいアジアでの需要増加がリスクとなる。ウクライナや中東など地政学的な緊張が高まり、価格が再上昇するリスクもある。

また、農作物価格に関しても、地政学的要因、輸出規制、気候要因で価格の上昇圧力が強まる可能性がある。

賃金については、24年以降も労働者の賃上げ要求が強い状況が続き、企業でも強気の価格転嫁姿勢が続く場合、景気減速感が強まるなかでも、インフレの低下スピードがごく緩やかとなるリスクがある。


12 例えば、Sam Jones, Olaf Storbeck and Laura Onita, “European luxury property group Signa files for administration”, Financial Times, NOVEMBER 30 2023(23年12月14日アクセス)。

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=76995?site=nliを参照下さい


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