2023年も忘れられないドラマが多く生まれた韓国ドラマ界。ラブロマンスからホラー、オカルト、ヒューマンなど、王道ジャンルから新機軸のテーマまで多岐に渡り、世界のドラマファンを楽しませてくれた一年だった。家族や恋人、友人たちと過ごす機会の多い年末年始に笑いと涙、そしてしみじみとした優しさを心に届けてくれる5作品をご紹介しよう。

【写真を見る】メンタルケアという社会問題を上手く取り入れたドラマ「今日もあなたに太陽を」

■誰もが傷つきながらも生きている。癒やしをくれる医療ドラマ「今日もあなたに太陽を〜精神科ナースダイアリー〜」

医療ドラマが好きな方には、ぜひNetflixドラマシリーズ「今日もあなたに太陽を〜精神科ナースダイアリー〜」をおすすめしたい。

内科勤務のダウン(パク・ボヨン)は、患者をていねいに診察する優しい看護師だったが、功利主義の同僚たちから敬遠されていたたまれなくなり、内科師長に勧められて精神科に異動してきた。そこで出逢ったのは、身も心も傷ついた多様な患者とその家族、そして彼らや彼女らに真摯に向き合う師長ヒョシン(イ・ジョンウン)や保護士マンチョン(チョン・ベス)といった看護師たちだった。ダウンは自身も苦悩を抱えながらも、困難の多い診療を通して人間としても成長していく。

超競争社会と呼ばれてきた韓国で、悲しさや苦しさといったネガティブな感情を吐露することは弱さや負けを意味してきた。OECD加盟国の中で最も自殺率が高いという不名誉を長く背負ってきた韓国同様、日本もまた女性の自殺死亡率が世界の中でも高かったり、若者の死因順位で自殺が第一位など暗い側面がある。そうした中で、このドラマの意義はとても大きい。ダウンのように誰かをケアする役割の人も弱さがあること、ややコミカルに描かれる強迫神経症の肛門科医ゴユン(ヨン・ウジン)など、程度の差はあれ人は誰しも生きづらさや苦痛、ハンディキャップを抱えて生きているというメッセージが穏やかに伝わってくる。心が壊れた患者たちの生々しい心理描写に見ていてつらくなるシーンもあるが、暖色で統一された精神科病棟、パク・ボヨンの柔らかな表情、話し方が包容力そのもののようなイ・ジョンウンの存在感にホッとする。まだ夜が明けていないほの暗い早朝に出勤していくダウンの姿に、ドラマの中で印象的に使われるセリフ「夜明け前が一番暗い。最初から病んでいた人も、最後まで病む人はいない」が重なる。深く考えさせ、染み入るような感動をくれるドラマだ。

■CODEの少年が過去にタイムスリップ!SF×青春ドラマ「輝くウォーターメロン~僕らをつなぐ恋うた」

CODA(Children of Deaf Adults – 聴覚障がいを持つ家庭の健常聴覚を持つ子どもたち)”として家族を支えながら生きてきた高校生が、自らの音楽の才能に気づき葛藤と選択を繰り返しながら夢に邁進していく『コーダ あいのうた(21)。日本でも先日、草薙剛演じるCODEの手話通訳士のミステリー「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」が放送された。昨今再び、社会的マイノリティとその家族へ理解と尊重を深める作品が相次いでいる。

Leminoで配信中の「輝くウォーターメロン~僕らをつなぐ恋うた」は、CODEの少年ウンギョル(リョウン)が主人公だ。幼い頃から、耳の聞こえない両親と兄の通訳として人生を送ってきた彼は、ある出逢いからギターの素晴らしさを知る。高校生になり、密かにストリートミュージシャンとして若者の支持を集めていたウンギョルは人気インディーズバンドにスカウトされるが、父イチャン(チェ・ウォニョン)に知られて大げんかになる。ウンギョルが失意のままギターを壊そうとした瞬間、気がつくと謎の楽器店にいた。怪しい店主にギターを売り外に出ると、そこは1990年代ソウル。何と彼はタイムスリップしてしまったのだ。さらに、バンドマンを目指している高校生のイチャン(チェ・ヒョヌク)に遭遇し、このときはまだ健聴者だったことを知り驚がくする。どうして父は聴力を失ったのか?ウンギョルは家族の未来を守ろうと、イチャンとバンド「ウォーターメロンシュガー」を組むことを決意する。

穏やかだが現実主義の父イチャンに比べ、18歳の彼は騒々しいほど愉快で、オヤジギャグを連発するお調子者だ。その対比が一層イチャンの運命を変えてしまった出来事を浮き彫りにし、ウンギョルと視聴者の心を締めつける。ウンギョル役は若手注目株の一人、リョウン。家族を心から愛しながらも、CODEとして同年齢の子供よりも早く成長しなければならなかった苦悩を繊細に表現して好演を見せている。イチョル役には、「二十五、二十一」でインフルエンサー高校生を演じていたチェ・ヒョヌク。女の子にモテることで頭がいっぱいなちょっと“チャラい”年頃のイチャンを、コミカルかつ自然に演じている。イチャンが一目惚れする女子高生セギョン(ソル・イナ)、イチャンに想いを寄せる先天性聴覚障害者チョンア(シン・ウンス)、3人の恋愛模様にも注目だ。

「輝くウォーターメロン」というユニークなタイトルについて、脚本を手掛けたチン・スワンは「両手を耳の横に当ててキラキラ振る手話は“拍手 (박수)”を意味し、文字を逆にすると“スイカ (수박)”になる。 青春たちに送る無言の応援と拍手という意味を込めた」としている。マイノリティに寄り添う温かなメッセージも込めつつ、スイカの甘酸っぱい味わいや香りのような青春ドラマの快作だ。

■誘拐犯と被害者の奇妙な絆。珠玉のヒューマン・サスペンス・ドラマ「誘拐の日」

サスペンスと家族ドラマが好きという方に見て頂きたいのが、Prima Videoのドラマ「誘拐の日」。Netflixなどに比べて地味で埋もれがちだが、昨年の「アンナ」のように力強い作品が揃っている。韓国の同名小説を原作にしたこのドラマも、初回の視聴率が1.8%だったが、9話で4.2と回を追うごとに視聴率が上昇した。口コミで徐々に注目度と評価が上がるというのは、名作の証しでもある。

うだつの上がらない父親ミョンジュン(ユン・ゲサン)は、難病の娘の高額な医療費を捻出するため、妻ヘウン(キム・シンロク)に指示されるまま裕福な家庭の少女ロヒ(ユナ)を誘拐する。しかし、身代金の要求に反応しないことを訝しんだミョンジュンがロヒの家を訪れると、彼女の両親は無残に殺害されていたのだった。思いがけず殺人犯にされ警察に追われることになったミョンジュンは、ロヒとともに奇妙な逃亡を繰り広げながら真犯人を突き止めていくが、そこには思いも寄らない真相が隠されていた。

誘拐された被害者と誘拐犯が図らずも共犯関係を結び、事件の謎を解き悪をあぶり出す。とりわけ新鮮というわけではない筋立てだが、終盤に近づくほど展開がスリリングに加速していく。さらにストーリーラインを輝かせたのが俳優陣だ。不器用な誘拐犯ミョンジュン役のユン・ゲサンは、歴代級の悪役チャン・チェンを演じた『犯罪都市』(17)、日本統治下で自国の言葉を守ろうとする国語学者に扮した『マルモイ ことばあつめ』(19)、心に傷を負った冷徹な神経外科医を演じたドラマ「チョコレート: 忘れかけてた幸せの味」などシリアスなキャラを好演してきたが、今回は気弱で優しい父親の役でキャリアに新鮮味を加えた。とにかくドジっぷりが絶妙で、ロヒとの応酬にもコメディのセンスがにじみ出ている。そして真っ直ぐに娘を思い、親の愛を知らないロヒのことも暖かく包み込む親としての器量の深さに、何度も涙を誘われる。

誘拐される少女ロヒ役のチョン・ユナは、500対1の競争率を勝ち抜いてキャスティングされたニュースターだ。数カ国語を操り、頭の回転が速く生意気なロヒがミョンジュンをタジタジにする姿が痛快で、ユン・ゲサンも「共演して、自分も娘が欲しいと思った」と言うほどだった。その一方、両親の温かい愛を受けず生きてきた深い孤独も見事に表現している。邦画を支える名優・伊藤沙莉さんも彷彿とさせるクールな目元には子役らしからぬ風格もあり、将来が実に楽しみだ。

ミョンジュンとロヒを追う強力班(凶悪な刑事事件を担当する部署)の若手刑事、サンユンに扮したパク・ソンフン。韓国ドラマファンなら「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~ 」の憎き悪役ジェジュンだとピンと来るだろう。あのときの冷酷な加害者の眼差しから一転、「誘拐の日」では正義感溢れる刑事として躍動している。ミョンジュンの事情を知って真犯人ではないことを見抜き、周囲の反対を押して事件の真相に迫る意志の強いキャラクターが似合っていて、ヴィランからあらゆる役まで演じ分けることが出来ると証明した。次第にミョンジュン同様、ロヒにあごで使われるようになり、コミカルな姿も楽しませてくれる。

韓国エンタメ界の王道とも言えるリベンジものの新たな金字塔「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~ 」から、家族愛とSFアクションを融合した新機軸の大ヒット作「ムービング」まで、ジャンルの追求と横断でさらなるポテンシャルを見せつけた2023年の韓国ドラマ。来年もまた新たな世界で、私たちファンを驚かせてくれることだろう。

文/荒井 南

自分自身も生きづらさを抱えながら患者をケアするダウン(パク・ボヨン)/[c]Everett Collection/AFLO