※本記事は、シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社の『マーケット情報』を転載したものです。

グローバル株式

2023年のグローバル株式市場はまずまずの結果となりそうですが、視界良好とはいえません。

当社が3つの「D」と呼んでいるような要因が重なり、大きなレジーム・シフトが起こりつつあります。新型コロナウイルスパンデミック以前にすでに顕在化していた構造的な問題が深刻化しています。

2024年も不確実な状況が続き、株式市場は不安定なままになる可能性があります。しかし、「どこかに必ず強気相場がある」という古い格言が正しいことが証明されるかもしれません。実際、来年はグローバル株式の投資家にとって、大きな利益をもたらす可能性のある分野も数多く存在すると考えています。

3つのDとフリーマネー時代の終焉

過去10年における金融市場の最大の特徴は、おそらく、リスクのコストが着実に低下したことです。世界金融危機のあと、中央銀行の政策によって金利がゼロまで低下し、資産価格への影響は大きく、価格は大幅に上昇しました。

その後、新型コロナウイルスパンデミックが起こり、ウクライナ戦争がそれに続きました。これにより、長らく醸成されていた圧力が結晶化することにつながりました。

さまざまな要因が絡んでいますが、当社は、それらを3つのカテゴリー、すなわち、1)人口動態的(demographics)な制約、2)脱炭素化(decarbonisation)の責務、そして3)脱グローバル化(deglobalisation)の取り組みに分類することができると考えています。これらを総じて、当社では「「D」が導く新時代」と呼んでいます。

高水準の政府債務と相まって、これらの要素は供給においてボトルネックを生み出し、賃金コストを上昇させ、インフレ率を押し上げ、ポピュリズム政治の台頭につながっています。

各国の中央銀行は断固とした対応を迫られています。金利は大幅に引き上げられ、当分のあいだはこの状態が続くでしょう。金融市場が動揺するのも無理はありません。

過去10年間と逆のことをやるときが来た

2021年までの10年間を振り返ってみると、投資家がすべきことは、株式を買うこと、グロース株(特にテクノロジー株)に投資すること、主に米国に投資すること、バリュエーションを気にしないこと、レバレッジを効かせること(負債による資金調達)など、ごくわずかでした。

このアプローチに従う人は誰でも素晴らしい成果をあげたでしょうし、実際多くの投資家はそうしました。

しかし、新時代への転換が現在進行しており、ほとんどの資産クラスにおいて投資家への影響は大きくなっています。もっとも明らかなことは、現金はもはやゴミではないということです。銀行の預金が立派なリターンを生むからです。

株式投資家は、発想の転換が必要です。たとえば、

・地域分散を進める(米国を減らし、その他の地域を増やす)

・構造的変化の影響に注目する

・バリュエーション、質、リスクに再注目する

以下では、それぞれの項目について考察します。

米国以外、特に日本や英国のような選好されていない市場に目を向ける

ウォーレン・バフェット氏が常々思い出させてくれるように、S&P500に賭けるのは難しいことです。

2010年末以降、S&Pは米ドルベースで340%の累積リターンを達成していますが、欧州株式は95%、新興国株式はわずか20%でした。中国株式は、この期間マイナスでした。

米国の企業部門は、総じて、他のどの部門よりも運営が優れており、革新的です。情報技術、コミュニケーション、ヘルスケアなどの高成長分野が株式指数に占める割合は、他の地域よりはるかに高くなっています。たとえば、情報技術セクターは現在、S&P500の28%を占めていますが、欧州ではわずか6%にとどまっています。

以上のことを踏まえると、S&Pは今後も他の市場に比べて割高な水準で推移し続ける可能性が高いでしょう。

しかしながら、現在、米国とその他の地域の株価水準のギャップが極端なレベルにあることは注目に値します。

実際、今年のグローバル株式のリターンの大部分を占めた超大型7銘柄「マグニフィセント・セブン」の時価総額は、英国、フランス、中国、日本の合計よりも大きくなっています。歴史的に見れば、このような二極化はしばしば長期にわたって続いても、必ずある時点でその差は縮まっています。

明確にしておきますが、当社は米国市場に否定的というわけではありません。マグニフィセント・セブンをはじめとする高成長銘柄を除けば、S&P500のリターンは長期平均をわずかに上回る程度です。事実、米国の中小型株式のバリュエーションは、多くの場合、魅力的です。

マグニフィセント・セブン(アップル、マイクロソフトアマゾンアルファベット、メタ、エヌビディアおよびテスラ)は、以前ほどではありませんが、強力で収益性の高いビジネスモデルを持つ企業であることに変わりはありません。したがって、すぐに消えることはありません。

しかし、期待外れのリターンが何年も続いたいまだからこそ、日本や英国など、選好されてこなかった市場に目を向けるべきなのかもしれません。

“米国以外”で特に日本株と英国株に着目するワケ

日本株式市場は、経済が壊滅的な打撃を被った1992年バブル崩壊以降、出遅れています。20年間インフレがなく、通貨が対米ドルで50%下落しましたが、現在の日本経済は高い競争力を持つようになりました。

さらに、上場企業の半数以上が2023年5月末時点で実際の資産価値よりも低い価格(つまり、PBR1倍未満)で取引されているという事実に、日本の当局は目を覚ましました。

2022年後半には、日本企業が自社株買いや増配を通じて株主に現金を還元することを「奨励」する指令が発せられました。企業部門からは、すでに驚くほど強い反応が出ており、今後も続くものと予想されます。

英国は、エネルギー、鉱業、生活必需品、金融などの伝統的な産業が比較的集中しているため、長いあいだ「古い」株式市場として認識されており、過去20年にわたり、世界の株価指数を下回ってきました。規制も、政府の無関心さも、Brexitも支援材料になりませんでした。

しかし、英国には多くの魅力があります。ガバナンスと会計の透明性は、全般的に最高水準です。また、英国株式を代表する株式指数であるFTSEの構成銘柄のほとんどは、成長市場への幅広いエクスポージャーを持つグローバル企業です。それ以外にも約1,800社の企業が上場し、その多くは過小評価され、十分に調査されていません。

そしてもっとも重要なことは、英国株式市場が、世界の他の地域や英国市場自身の過去水準の両方と比較して、非常に割安な価格で取引されているということです。FTSEオールシェア指数は、12ヵ月先予想PERがわずか10倍程度、配当利回りが4%を超える水準となっており、魅力的な水準です。(出所:Bloomberg、2023年10月時点)。

長期的かつ構造的なテーマを考える

これまでのところ、2023年のMSCIグローバル代替エネルギー指数は約40%下落しています(出所:Bloomberg、2023年10月時点)。投資家心理は、業績不振(場合によっては、バリュエーションが割安になっても状況が変わっていない)と、環境への取り組みに対する政治的反発の打撃を受けています。

しかし、筋金入りの気候変動懐疑論者でさえ、極端な気候の影響がますます顕著になっていることを否定するのは難しいでしょう。脱炭素化の流れは非常に強力です。

パンデミック後のコスト圧力や、再生可能エネルギー産業の一部における生産能力過剰の問題の多くが解決されたいま、投資家はエネルギー移行というテーマを検討する絶好のタイミングであるように思われます。

現在当社が直面している構造的課題の多くに対処するためには、テクノロジーが鍵であることは明らかです。

たとえば、太陽光発電と炭素回収はエネルギー移行のテーマの中心にあります。同様に、人口動態の課題も、医学的な発見、自動化(オートメーション)、人工知能(AI)によってほぼ解決されるでしょう。

AIは投資家の関心を引いていますが、もちろん過大評価されるリスクも大きいです。とはいえ、市場の上昇の背後にある論理には反論の余地がありません。

自動化は長年のトレンドであり、製造過程という狭い範囲からサービス部門全体に急速に拡大してきています。さらに、言語モデルに基づく生成AIは、その可能性を大きく広げています。

現在、世界には10億人以上のナレッジワーカーが存在します。理論的または分析的な知見を特定タスクに適用する人たちです。この仕事の一部を補強、強化し、そしておそらく置き換えることは、大きな変化をもたらし、テクノロジー分野だけでなく経済のほぼすべての部分において、投資家に大きな機会をもたらすでしょう。

PwCは、2030年までにAIの潜在的な経済価値は年間17兆ドルに達すると予測しています。現在の世界のGDPは約110兆ドルであることを考えると、これは途方もない金額であり、自動化分野における機会は計り知れないものとなるでしょう。

価格は支払うもの、価値は得るもの

高金利環境下では、バリュエーションは金利がゼロに近いときよりもはるかに重要です。株式は素晴らしい長期投資であり、S&P500の実質リターンインフレ考慮後)は過去150年間で年率7%以上であるのに対し、米国債はわずか2%です。

しかし、ご存じのように、株式は変動も大きく、過去50年のうち29年は10%を超える下落となりました。株式市場は気まぐれであり、容赦のない場合もあるということです。

だからこそバリュエーションに注目しなくてはなりません。より正確にいえば、バリュー・フォー・マネーです。過去10年間は成長(特に収益の成長)がすべてでしたが、これからの10年間は真の価値を提供する企業を見つけることが重要になるでしょう。

これは、単に割安な企業を見つければいいというものではありません。割安株にはたいていそれなりの理由があります。エネルギー、金融、資本財といった伝統的なセクターの企業は景気に敏感というだけではなく、新しいテクノロジーへの移行によって大きな混乱に直面します。

これに対し、現在の指標で割高とされる企業でも、将来的に持続的な成長とキャッシュフローを実現できれば、現在の水準でも割高ではなかったということになるかもしれません。

投資家は、より長期的な視点に立ち、構造的で過小評価されている成長分野を見極め、持続的な競争優位性を持つ企業に強くコミットすることが需要であると当社は考えています。グローバル株式市場には、特に忍耐強い投資家にとっては、十分な価値があります。

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福澤 基哉

シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

執行役員/プロダクト統括