中国の丹東や瀋陽など遼寧省では、正確な数は不明だが、数万人の北朝鮮女性が働いている。いずれも北朝鮮の貿易会社が中国企業との契約に基づいて派遣した労働者だが、北朝鮮国民の新規雇用を禁じた国連安保理の制裁を回避するために、短期滞在ビザや技能実習ビザを取得するなどして、法的には「労働者ではない」という形になっている。

これまでは水産加工工場、アパレル工場、北朝鮮レストランが主な派遣先だったが、最近では農業分野への進出が伝えられている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

中国に駐在する北朝鮮政府関係者は、丹東近郊の東港にあるイチゴ農園で、100人の北朝鮮女性が働いていると明らかにした。この地域にはイチゴを栽培している個人の農家が多いが、企業ではなく個人に雇われての派遣は今回が初めてだという。

20代の彼女らは、ビニールハウス別に配属され、畑の管理、イチゴの収穫、包装、トラックへの積み込みなどの仕事を行っている。

月給は1人あたり3500元(約6万9700円)だが、彼女らが全額を受け取れるわけではない。

中国の農家は、女性たちを管理・監督する北朝鮮の機関の幹部の名義になっている中国銀行の口座に月給を送金する。幹部は生活費500元(約9950円)、国に納める忠誠の資金1500元(約2万9900円)を差し引いて、残りの1500元を女性たちに支給する。

忠誠の資金のピンハネ率は月給の7割に達する場合もあるが、イチゴ農場での労働は過酷であるため、低めに抑えているものと思われる。

別の情報筋によると、東港のイチゴ農園では今まで中国女性が働いていたが、今年からは北朝鮮女性が働くようになった。そのうち50人は、吉林省図們にあるアパレル工場から先月中旬に移ってきて、残りの50人は、新たに北朝鮮で選ばれて今月初めに中国についたばかりの女性たちだという。

北朝鮮当局は、コロナ禍で国境を封鎖したことでビザや契約期間が過ぎても帰国できず、中国に足止めされていた女性労働者を帰国させると同時に、ビザの日数が残っている別の地域で働いていた人、新たに北朝鮮から来た人を派遣している。

人材のイチゴ農園への移動は極めて単純。儲かるのだ。

北朝鮮当局はイチゴ農園に若い女性を集団で送り込む理由はアパレルや水産加工工場より月給が500元以上高いからだ」(情報筋)

東港のイチゴには従来品種もあるが、改良された白くて大きい物が多く、オーガニック栽培もされていて海外にも高値で輸出されている。丹東の郊外にはモモ、ナシの大規模な畑があり、クリも多く取れる。今後、これらの場所にも北朝鮮女性労働者が進出する可能性が考えられる。

2018年2月、丹東駅前で列車を待つ北朝鮮レストラン「平壌高麗館」の女性従業員たち(画像:デイリーNK北朝鮮情報筋)