よく「火のないところに煙は立たぬ」と言われる。これは、根拠がなければ噂は立たないという意味の諺だが、しかし! 世界には火の気のない場所で、そこにいる人間だけが燃えてしまうという不思議な現象が、数多く報告されている。それが自らの肉体が発火して死亡するという「人体自然発火現象(SHC)」なのである。

 かつての悲惨な例を紹介しよう。1951年7月2日、アメリカのフロリダ州セント・ピーターズバーグに住むメアリ・リーサー夫人(当時67歳)の元へ、家主が電報を届けにやってきた。だが、何度呼んでも返事がない。ドアノブに手をかけた瞬間、家主は「ギャッ」と悲鳴を上げた。なんと、ドアノブが焼けるように熱かったのである。

 そこで家主は男性2人に応援を頼み、ドアをこじ開けたが、部屋の中で火災が起こった形跡はない。だが、奥の部屋を開けた瞬間、そこに残されていたのは、肘掛けイスの残骸と、山になった黒い燃えカス。そして燃えカスの中には、スリッパをはいた状態のくるぶしから先が燃え残っていたというのだ。国際ジャーナリストが解説する。

「当初、警察は寝タバコの火が服に引火した、と推測したのですが、夫人が座っていた椅子以外、どこにも火が燃え移った形跡は確認できなかった。しかも検死の結果、夫人が焼かれた温度は火葬する際の温度よりはるかに高い、1300度以上だったことが判明。原因不明の焼死事件として、地元に大きな衝撃を与えたと言われています」

 だがこんな不思議な事件は、これ1件だけではなかった。1731年にはイタリアのベローナ近郊でも、高齢女性が同様の状況で焼死。1919年には、自宅で上半身には服を着たまま、下半身のみが焼失した状態で死亡しているイギリス人作家の遺体が発見され、大騒ぎになったこともあったという。ミステリー研究家が言う。

「実はこのような人体自然発火現象は、これまでに世界で約200件の事例が記録されており、その多くが高齢者やなんらかの疾患を抱えた人でした。あるいはアルコールの影響下にあったことで、胃の中に残ったアルコールが化学反応を起こして発火したとする説や、プラズマが発生して燃え上がったという説も。さらには被害者が心臓マヒを起こした瞬間に、タバコランプの火が服に引火。それがロウソクの芯の役割をして、人間の脂肪分をくすぶりながら燃やしていった、いわば『人体のロウソク化現象』を唱える専門家もいました。ただ、これらはあくまでも仮説であり、現在もその原因は解明されていません」

 事例の中には、多くの人が行き交う街中で体から火を吹く、という現象が発生したことも。誰か「人体自然発火現象」の科学的究明に成功する専門家はいないものか。

ジョン・ドゥ

アサ芸プラス